映画館の匂い

うるた

【雪乃編】

どうでした?今の映画。

「どうでした?今の映画。」

そう声をかけてきたのは大学生くらいの男の人だった。よく同じ映画を同じ時間同じ日に見にきている人だから顔は知ってる。

「正直、イマイチでした。なんかテンプレっていうか、人の死に方が。」

「そうですか、僕は割と好きでしたけどね。あの男が幸せの絶頂で死んだのは凄く嬉しかったです。」

「確かに、」

最近この人と話すようになったものの、端的な感想を述べるばかり。


でもこの感じ、嫌いじゃない。


正直いうとこの人の口が好き。話す時の口の形が凄く綺麗で。だから…


「あの、良ければこの映画一緒にみませんか。」

そう言って見せられたのはヒューマン映画だった。

「みます。一緒に。」

「あぁ、良かった。」

そういって彼は笑った。


笑った時の歯の形。好きだなぁ…

なんて思いながら話すこの時間が私にとっての大切な時間。

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