第147話 見覚えのある名前

 そんなこんなで鷹見さんと別れ、自分のブースへ。


 私もかなり飲んだのだが、鷹見さんの悪酔い宣言に気を取られたためか、多少の酔い程度で済んでいるようだ。


 集中というほどでもないが、何かに気をつけているとうまく酔えない。便利と言えば便利な体質だ。


 さて、何をするか。


 『生身』で眠るか、このまま『化身』で生産するかだが。前回は眠ったし、生産するか。


 その前にオークションをチェックしよう。少し前に絨毯の結果が出ているはずだ。配送やらなにやらすべてギルドに委託しているので半ば忘れていたが。


 とりあえず売り物の補充をして、落札されたもののチェック。


 そういえば絨毯には藤田さんがギルドも参加するようなことを言っていたが、どうなったろうか。


 ギルドや政府は税金がかからないので、その分入札額に上乗せが可能だ、本気ならば民間人に負けるということはほぼない。


 おそらく落札できたと思うが――


「……」


 すごい金額で落札されていて、2度見した。


 そしてこのアカウントネームには見覚えがある。誰のものかまでは覚えていないというか、知らんが、『政府の勇者』のいずれか――このダンジョンに来ているということはスメラギか?


 近接はダメージをくらいやすいとはいえ、こんな微々たる回復を必要とするのか? 


 ギルド受け取り希望がでとるし、スメラギで確定だな。というか、すでに受け取りが済んで、評価がついている。どんな顔して猫の顔文字使ってるのか、あの男。


 私以外にもアカウントネームを知っている者はいるというか、そっと管理されておって予算をつけてくれるあのメガネに丸見えなのだが、大丈夫なのか? 管理されとるのを知らない?


 紐付きかそうでないかは調べるだろう――いや、普通は調べないのか? 調べなくとも、職場から割り当てられたアカウント等は普通にサーバー管理者などの監視を前提にするだろう?


 もしかして見られること前提でこれなのか? 読んでいるメガネを笑わせにかかっている? 


 一瞬、出品者が私と知って落札したのかと思ったが、たぶん私に読まれたと分かったら吐血するなこれ。見なかったことにしてやろう。


 私はともかく、政府はしらんが。


 おそらく辞めた私にも数年の間は監視がついている気がする。やっていた内容が内容なので、それは仕方がないだろう。


 辞めた私に『政府の勇者』が接触したと思われたら、この文面も報告書に記載されて課内で回される気がするが、スメラギ本人には伝わらんことだ。


 生産はついでのようなもの、急がないのでオークションに何か良い物が出ていないかチェック。


 ――備前焼のお猪口、九谷の金彩の杯、萩焼の片口とお猪口のセット、錫の酒器。


 割れ物はただでさえ高い輸送費がさらに高くなるのだが、スメラギが振り込んだ大金が、たまにはいいのでは? いつも行く骨董屋もしばらく新入荷はなさそうだぞ? などと囁いてくる。


 いやまて、ここで国産ビールのストックを増やしておくという手も……。


 両方いくか? 


 オークションなので確実に落とせるとは限らんし、落とせたらラッキー程度の金額で両方に入札しておこう。


 酒器はせめて1つに絞らんと。


 うきうきで選び始める私。なんのために生命回復の絨毯が必要なのかわからんが、スメラギに感謝してやろう。


 ぐい飲みやお猪口は、正方形に細かく区切られた棚に一つずつ並べて飾ってある。その正方形に納まるサイズ縛りで集めているので、条件が絞れる。


 オークションを眺めて結構な時間が経過。それでも酒が抜けるまでまだだいぶあるので、生産に励む。貯金があっても散財すると働きたくなるものだな。


 宝くじに当たって仕事を辞めてはいけない理由に、慣れない大金を持つことの危うさだけでなく、目減りしていって月々の補充はないことへのストレス、というものもあるそうだが、私のこれもその一種だろうか。


 ――ただの後ろめたさだな。必需品でもなく、コレクションとして飾るだけのものを買うことへの。


 車庫の2階の陶器類を骨董屋に売りに行っては、酒器を買って帰ってくることをしていたら、数が増えた。一度だけ使って、あとは飾っているもののなんと多いことか。


 普段使いはつい使い勝手の良い同じものを選びがち。金彩など、手入れに気を遣うものもある。「手に入れただけで満足」よりは、「眺めるだけで幸せ」はよしとしておこう。


 完全に酒が抜けた頃、家に帰る。


 寝たからといって酒が抜けているわけではないので、気をつけねば。アルコールの分解は早い方ではあるが、それを過信せずに休む時間をとっているので大丈夫だと思うが、自分の酒臭さはわからないものだ。

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