未練
花園眠莉
ワンナイトって言葉に溺れきった生活。それも全部アイツのせいだ。男同士でっていうのが気持ち悪いのならここで帰ってくれ。
今日もホテル街、19時に待ち合わせ。来たのは今回限りの初対面の男。
「ごめんおまたせ。ライ君だよね?今日はよろしくね。」指定した格好をしているのは俺以外いない。
「ライです!よくわかりましたね。今日はよろしくおねがいします。レイヤさん♡」どうせ今日だけの関係だからよろしくしないけどな?
「じゃあ行こうか。」ねぇ、肩掴まないでほしいんだけど。
「はいっ♡」これも全部金のためでしかねえから。金払いが良くなるって聞いたから♡を付けてるだけだし、本当は付けたくなんかねーよオッサン。
部屋に入って荷物を置くと同時にオッサンに言う。
「じゃあ、俺準備してきますね。」
「いってらっしゃ~い」これから俺は盛ってる奴のブツを入れるために俺の穴を開かないといかねーの。小遣い稼ぎとしては楽だし。…ま、いっか。
「お待たせしました〜。」
「おかえり。…じゃあ早速、ヤッてもいいかな?」聞かずともヤるつもりだろうが!
「そのために来たんですよ?」ベッドに倒れ込み始まりの合図を出す。据え膳食わぬ馬鹿はここにいない。相手が用意している間に俺はローションを流し込む。そして俺は異物感と痛みに耐える。
「ライ君、気持ちいいかな?」オッサンが好き勝手に動いてるだけだろ。ちゃんとイイトコあてろよ。
「…気持ちよさそうだね?」は?どこ見てそう言えんの?そっか、猿は演技にも気付けないんだな。…アイツだったらすぐに気づくのに。演技なんかしないで素の俺でいいって言うのに。
「レイヤさん、俺もう、、無理。」痛えし、苦しいし、気持ちわりーし。下手くそな腰振り機がよ。アイツなら俺のことちゃんと見てくれんのに。さっさと出すもん出して帰らせろ。こちとら好みでもねえ金払い良いだけのオッサンのために股開いてんだわ。
「ライ君は、まだ、いけそうかな?」荒い呼吸を繰り返しながら聞いてくる。うん、オッサンとの体力の差、舐めんな?
「まあ、いけ、ますけど?」ここで無理というのも俺のプライド的に許せない。また下手くそな腰振り機が動き始めた。金払い良くなんねーかな。
アイツ、ヤッてるときだけはガチの良い奴なんだよ。ま、それ以外は終わってるけど。それでも、それでもやっぱアイツのことが好きなんだよ。別れようって言った側が未だに引きずってるとか馬鹿みてぇ。アイツが浮気を止めてくれたら、パチンコ代でも、煙草代でも俺が出してやるのに。そんぐらい一途に愛してるから。だから…。
「ライ君、飛びそ?大丈夫?」このタイミングで大袈裟にわざと大きく喘いで、体を仰け反らせる。
「ライ君今日はありがとう。これ、今日の分。」封筒を渡された。何万入ってるんだろ。
「ありがとうございます。先にシャワー入ってきてもいいですか?」受け取ってすぐに聞いた。
「いいよ、行っておいで。」その言葉は無視をしてさっさとシャワーに向かう。
シャワーをとりナカを洗う。オッサンはゴムをしてたからここまで念入りにしなくていいだろと言われるぐらい洗う。なぜか、浮気をしたような気分になるから。それから全身きっちり洗ってオッサンにシャワーを譲る。
「戻りました~。」
「お、じゃあ次入ってくるね。」
「行ってらっしゃい!」ドアが閉まったのを確認して帰る準備を済ませる。ま、財布と封筒とスマホしか持っていないけど。ホテル代は相手持ちだし準備が揃った。
ホテルの外に出てすぐ煙草に火をつける。苦っ。やっぱ、美味しくねー。アイツはヤったあと必ず吸ってたけどこれの何がいいんだか。やっぱ俺にはわかんねーよ。煙草を吸う理由もオマエの気持ちも。…別れようって言ったのは俺だけどさ、本当は別れたくなかったよ。オマエはさ、俺のことどう思ってた?ちゃんと恋人だった?ちゃんと愛してくれてた?…知ってるよ。オマエが俺のこと穴としか見てないって。妊娠しねーし、体力あるもんな。雑に使える良い機械だもんな。煙草の火を踏み消してコンビニに立ち寄る。買ったのは缶チューハイ2本。
駅までのお供として1本開ける。…………アイツ、今なにしてんだろ。まだ適当な女で遊んでんのかな。俺と付き合ってた頃も女と浮気してたもんな。…誰かが妊娠して責任とってたりしてないかな。アイツ顔だけは良いもん。男も女も寄るよ。性格はゴミカスで終わってるけど。…男の方が楽だって言って男同士でヤってんのかな。だったら俺にしろよ。あ、でも俺、汚いもん。嫌だよな。あー、一人だと無駄なことばっか考えちまう。
「明日、バイトか。」帰らねーと、やだな。面倒くさい。俺は道端に座り込んだ。
誰か俺を愛してくれよ、誰でも良いからさ。1人は寂しいよ。誰かと体温を分け合いてぇ。ビッチのライじゃなくて『楽松伊織』を愛して。座り込んだまま啜り泣いた。すげーダセェのは分かってるけど止められねぇ。こんなにメンタル弱かったか?そんなことはなんか、どうでも良いわ。俺は人が通りすぎるのをただ、ぼうっと眺める。家に帰るつもりはない。
酒は2本目が半分になった頃俺の前に立ち止まる人がいた。顔は見えない。
「お兄さん、大丈夫ですか?」幼さの残る女性の声だった。
「はい。別に酔いつぶれてるわけじゃないんで。」こう言えばどっか行くだろうと思ったが予想は裏切られた。
彼女は俺の隣にしゃがみこんだ。
「じゃあ、家に帰りたくないもの同士ですね。」隣を見るといかにも地雷系の女子だった。
「なんで家に帰りたくない人だと思ったの?」こっちを少し見てから彼女は話し始めた。
「目がそう言っているって感じですね。」
「ふーん、なるほどね。なんで君は帰らないの?」こんな遅い時間に男に話しかけるのはそれなりの理由があるのだろう。
「ちょっとした反抗です。」そう言ってエナドリにストローを差して飲む。
「反抗?いいね、青春じゃん。ここに座り込んでていいの?服汚れるよ。」
「あー、まー大丈夫です。」
それから適当な話で間を繋ぎ少し緊張がほどけた。そんな時に彼女は俺に言った。
「これからホテルに行きませんか?」うーわ、萎えた。こう言う奴は本気で無理。これをやられるとか死ぬほど気持ちわりぃ。俺をそういう目で見んな気色悪い。
「無理帰る。」飲み終えた缶を蹴り飛ばし帰路につく。ロクデモナイ奴っているんだな。…帰ろ。
また、俺は夜までは普通の人の皮を被る。
未練 花園眠莉 @0726
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