高校3年2学期②

 猪田先生が初出勤した日の朝、職員室でジョーと俺は椅子から転げ落ちた。新しく来た英語教員が、ジョーの狙っていたジムのトレイナーだったからだ。二人でコントのように「W T?!」と叫ぶと、猪田さんは「初めまして」と非常に澄ました表情で挨拶をした。校長に俺達が知り合いだとバレるのは面倒臭いので、英語資料室に案内するついでに、ジョーとどういう事なのか話を聞くと、猪田さんは優秀な大学を出ており、昨年の段階で教員採用試験にも合格しており、今年の4月から産休に入る予定の女性教員の引き継ぎをする予定だったらしいが、そのポジションをどういう経過かの説明もなく他の教員に取られ、そのままトレイナーとして仕事をしながら、就職先を探していたらしい。地方には行きたくないと近くの高校を片っ端から当たっていたそうだが、今回たまたまここの校長が知り合い伝で連絡をして来たので、こうしてこの高校にやって来たらしい。だが、猪田さんは俺に遠慮なく質問をしてきた。


「優月先生、どうしてこんな時期に移動されるのですか?」


「…ま、色々。大人の事情です」


「この学校は成績優秀で、優月先生のクラスは特に学校始まって以来の好成績保持者もいらっしゃいますよね?卒業まで見届けたいとは思わないですか?」


「自分が受け持った生徒の卒業を見届けたくない教員は、多分いませんよ。でもどうにもならない時もあります」


 素直にその質問に答えると、猪田先生は手帳を眺めながら呟いた。


「…転職先、一応私探し続けたほうがいいかな…?」


「…どうしてですか?」


 思わずその小さな独り言に質問をすると、猪田先生は一瞬ハッとした表情で顔を上げたが、此方に笑顔で答えた。


「優月先生、多分、生徒さんから凄く慕われてるタイプだと思うので、やっぱり最後までいてほしいと生徒達も思ってる筈です。仕事を頂いたからには試用期間でも頑張りますが、もし何処かに空きとかご存じで、紹介して頂けたら助かります。推薦状付きで」


 現実的なその言葉に思わず笑うと、猪田先生も笑った。


「あはははは、大丈夫です。俺、そこまで生徒達にも好かれてませんよ。こんなデカい男の教員より、男子生徒なんて猪田先生の方がいいに決まってるし」


 その言葉にはすぐにジョーが食いついた。


「当たり前だよー、オレはイノだせんせーがいいよー!Thank you for your hard work, Eight. You've done a great job here. Now, pack up your shit and get the fuck outta here!(お疲れちゃん、英人。頑張ったな。さっさとテメェのもんしまって、出ていけや!)」


「 Oh, fuck you, Joe! I'm not leaving yet! (クソが!まだ出ていかねぇよ!)」


 ジョーの言葉に両手の中指を突き立て応戦すると、猪田先生が笑って「仲良いですね」と言うので、苦笑いするしかなかった。猪田先生には、ジムのトレイナーであった事は、生徒達には暫く話さないでほしいと言われた。好きで選んだ仕事で、勿論トレイナーとして誇りを持っていたが、教員としてまず見て貰えるように頑張りたいから、不必要に生徒達に自分の個人的な話はしたくないと説明され、しっかりこの仕事に向き合う姿勢を感じ心強かった。


              

               ****


 ホームルームと言ってもこれからの実力テストの話や、中間後にある最後の文化祭の話をする程度だったが、猪田先生に対する質問がちらほら出て、思ったより長引いてしまった。慌てて職員室に引き返すと、後から走ってついて来ていた猪田先生が笑った。


「流石ジム通い、足速いですね、先生」


「あ、すみません!廊下走るなって言ってる俺が走って、ダメですね」


「あはははは、ちょっとホームルーム長引きましたからね」


 英語教員の部屋のドアを開けると、いつもいる他の英語教員は一人もおらず、その代わりに小池先生が俺の席の横に座っていた。驚いて「おおおお」と声を上げると、小池先生が慌てて席を立ち上がり小さな包みを俺に手渡した。


「あの、これ…ちょっと早いと思ったのですけど、マイアちゃんと時間が中々合わなくて、マイアちゃんに渡してもらってもいいですか?」


 小池先生とマイアが飲みに行ってから個人的に少し連絡を取っていたのは知っていたが、マイアちゃんと言う可愛い呼び名でマイアを呼ぶ小池先生に驚くと、小池先生が少し恥ずかしそうに付け足した。


「時々電話で話したりしてるんです。お互い仕事の愚痴言い合ったり、マイアちゃん本当に優しいし気さくでつい長話になっちゃって、先生からも私が長電話反省してるって伝えて頂けませんか?」


「あははは、いや、ありがとうございます。マイアから小池先生の話余り聞いてなかったので、こんな仲良くして貰ってるって知らなくて」


「…あ、すみません。内緒だったのかな…」


 小池先生が気まずそうな表情をする中、手にあるプレゼントに貼ってあったカードの名前を見て思わず声を上げてしまった。


「ああああ、マミちゃん!小池先生、マミちゃん??うわ、すみません、マイアよくマミちゃんマミちゃん言ってたけど、会社か大学の時の誰か位にしか思ってなくて、ちゃんと話聞いてなかったので気がつきませんでした!マミちゃんか!小池先生、マミちゃんか!」


 思わず納得していると、小池先生がさらに恥ずかしそうな表情で呟いた。


「あの、優月先生にマミちゃんと呼ばれるのは流石に恥ずかしいです」


「あはははは、すみません!いや、ありがとうございます。マイア、よく話してます。俺が聞いてないだけで。あははは、これバレたらすげぇ怒られそう」


「あはははは、大丈夫だと思います。マイアちゃん、先生考え事している時、人の話を聞いてるふりだけするのが得意だってこの前言ってましたから、気がついてると思います」


「あはははは、流石バレてる。有難うございます、これ、マイアに今夜渡しておきます」


 小池先生に渡された物をカバンの横に置くと、話をずっと聞いていた猪田先生が聞いた。


「先生、ご結婚されてるのですか?」


「あ、いえ。してません。独身です」


「あ、彼女さんのお話でしたか?」


「違います、友人です。今度子供が生まれるので、多分これその祝いだと思います」


「良いですね、お友達のお子さん楽しみですね!いつご出産予定ですか?」


「今月です。一応、俺の子でもあるので凄い楽しみです」


「…え?」


 猪田先生は一瞬固まったが、その後すぐに何事もなかったように「そうですか、おめでとう御座います」と付け足してくれた。猪田先生がこの時何を思ったのかは推測しか出来ないが、ジャッジをされている印象は一切受けず、この先生が引き継いでくれるなら、皆も納得するだろうと再度思った。


              ****


「はい、回収!お疲れー」


 実力テスト最終日、その解答用紙を集めていると、伸びをしていた生徒がその手を挙手に変えて大声で発言をした。


「先生!俺、自己最高の出来だったかも!」


 その言葉に顔が綻び親指を立てると、他の生徒達も口々に「結果が待ち遠しい!」と言うので、嬉しくなり猪田先生を見ると、猪田先生は集めた解答用紙を綺麗に整えながら言った。


「皆の解答用紙をこれから優月先生と超特急で添削して来週には返却しますので、それまで待っているのも勿体無いので、先生から素敵なプレゼントがあります」


 今朝渡した今学期配る予定のプリントの束から、一枚目から三枚目までを既にクラス分コピーしていた猪田先生が、机の中からその束を出すと、生徒達が露骨に「うわー」と騒ぎ出し、思わず笑ってしまった。


「優月先生の愛情たっぷりのプリントNo.3まで今日配りますね。終わった人からどんどん提出して下さい。プリントはNo.100まであります。毎日3枚しても一ヶ月以上掛かります。このNo.100の後には模擬テストがしっかり用意されてあります。優月先生、多分寝ていらっしゃらないと思いますよ。皆、感謝してしっかり学んで下さいね」


 猪田先生の言葉に、生徒の一人が「優月先生、無駄に優しい!」と叫ぶと、皆が笑った。だがプリントを受け取る一人一人の生徒が、俺を見て「ありがと」と口パクで言うので、泣きそうになってしまった。プリントを配り終わり、解答用紙を持って職員室に戻る時、猪田先生が大きめのため息を吐いて呟いた。


「私、先生みたいな先生にいつかなれるのでしょうか?」


 その気遣いのある言葉と、気持ちにはっきりと答えた。


「猪田先生は、俺より何倍も良い教師になります。出発地点から、もう既に良い教師です」


 生徒達に対して人の努力を認めさせるような言葉をかけたり、感謝を促す言葉を自然と言えるこの人は、今でも生徒達に育てて貰っている自分より、ずっと良い教員になると確信を持って言えた。


 すぐに大量にある解答用紙の答え合わせを始めると、校長が嬉しそうに部屋にやって来た。猪田先生に解答合わせを任せ、校長に誘導されるまま校長室へ向かうと、珍しくお茶を出された。結構ですと断ったが、校長はやけにご機嫌だった。


「優月先生、生徒達の出来はどうですか?」


「まだわかりませんが、本人達が出来たと言っている時点で伸びたことは間違いないと思います」


「そうですか。それはよかった。ところで、先生の退職に関してですが、日和君の進学サポートについては引き続き猪田先生と連携を取ってして頂くと言うことで話しておられましたよね?」


「はい。アメリカの大学から送られてくる大量の資料は全て英語になりますので、親御さんにも分かるよう翻訳は僕が受け持つことになっています。日和に関してはそういうサポートは必要ないと思いますが、合格した場合の渡航に関する準備は、最後までしっかりサポートしたいと思います」


「そうですね、担任教員としての勤めは、この場を去ることになっても放棄しないのは教師としての最低の義務のような物ですからね。日和君は、受かりそうですか?」


「こればっかりは本当に返事が来ない限りYesともNoとも言えません。ただ、本人は本気で向き合って頑張って来ていたので、個人の推測で物を言うことを許されるならば、合格しない理由は思いつけません」


 思っていることを素直に伝えると、校長は満足げに微笑んだ。この高校始まって以来の快挙となる進学先として名前を残すことになるので、校長は誰よりも日和のこの進学に掛けている。だから、俺には居なくなって欲しくても、サポートだけは続けろと言う矛盾した言葉も平然と吐く。だが、教師としてそれは校長に頼まれる頼まれる以前に、きちんと最後まで責任を持ちたかった。校長はご機嫌にそのまま話を続けた。


「日和君のこの進学は我が校には大きなプラスになりますから、ここまでの工程やこの経験を後の生徒達に生かせるように、引き継ぎはその部分もしっかりお願いしますね」


「…はい」


「それでね、先生の次の赴任先ですが、まだちょっと決まらないので、先生には有休消化で9月半分お休み頂いて、その間に次の赴任先を探すと言う形でも大丈夫ですか?」


「…出来たらすぐに次の場所へ行きたいですが、こんな中途半端な時期ですし、猪田先生が必要な時はすぐにサポート出来る様にはしたいので、それでかまいません」


「そうですか。英語教員は今の時代結構留学経験ある方が多いので空きがなかなかないんですよ」


 子供の養育費貯金を始めているので、なるべく早く移動したいが、会社よりもターム単位で動く学校のこういう時期の移動はほぼ不可能に近い。それも理解していたので、暫く無職になることを覚悟して職員室に戻ると、猪田先生が解答用紙から目を離さず言った。


「先生、このクラスの英語力、凄いですね。完璧ではないけれど、私高校生の時ここまで出来た記憶ないです」


「あははは、よかった!夏の間頑張ってたから」


「凄いです、感動します。日和君なんて完璧です。流石ハーバード受けたいと言うだけありますね」


「日和はね、特別枠です。本当努力家ですから」


 多少贔屓目の入ったその言葉に、猪田先生は素直に頷いて同意してくれた。


「本当に特別ですね。どれぐらい居られるか分からないですけど、私、本当ここに今のこの時期こられて良かったです。刺激になります。私ももっと勉強しないと生徒達に追い抜かれちゃいそうです」


 猪田先生のその言葉に、純粋に感動してしまった。生徒に刺激され教師も頑張る。確かにそう言う環境になった今、この場にいられるのは奇跡なのかもしれない。


 翌週、久々にずっと腕を通していなかったスーツに腕を通した。ネクタイも久々に締め、マイアが起床する前に家を出た。取り敢えずこの高校で最後になるその日を自ら迎えに行くように、地に足をつけ学校に向かった。


 朝のホームルームから猪田先生に頼み、それを横で眺めながらこの先生にこれから卒業までの短い期間触れることの出来る生徒達は、恵まれていると感じた。ホームルームが終わり、一限目がすでに英語だったので、そのまま残って答案を配ると、それぞれがジャンプをして喜んだり、小さなミスに悔しがったり、その様子を眺めていて目頭が熱くなっている自分の今が、恐らく教員人生で一番教師らしいと感じ心が満たされた。皆の受験を最後まで見守りたい。そう思う強い気持ちと、これ以上ここにいる事で不必要な噂が流れ、今現在はいち生徒でいる日和が傷付く事になる前に、ここを離れるのは正解でしかないと思う気持ちの鬩ぎ合いの中、猪田先生が机に座って生徒達を眺めている俺に突然話を振った。


「先生、今の質問どう思われますか?」


「Sorry, what?uh, 悪い。聞いてなかった」


 正直に答えると、生徒が笑い、猪田先生も一緒に笑って質問を繰り返してくれた。


「複数形と物の数え方。それに全体的な発音とかも、一応ミスはミスとして理解はしているけど、現実的に多少間違えても通じるだろうから平気なのではという質問です」


 この手の質問は必ず誰かがしたがるので、最後の小さな手土産の一つとして個人の見解を伝えた。


「例えばさ、人参イッポン、人参ニホン、人参サンボン、これ俺が間違えて数えるとするだろ?人参イッホン、人参ニボン、人参サンポン。皆、理解してくれる?」


 皆はその違和感に笑ったが、理解は出来ると答えてくれた。


「それとあんま変わらないかな。基本言語って前後が合ってたら多少のミスなんて幾らでも補えるように出来てる。複数形に関しては日本語って自分に子供が複数いても、子供だけで表したり子供達と表したり、感覚的にそこまで細かく分けないと思うんだよな。生徒を生徒達と言うか、言わないかで意味の差は余りないっていうか。だからSとかESとかToothがTeethとか、間違えて言ったところで、相手が意味わかりませんと言う事はないと思っていい。通じるに決まってるんだよ、状況とかもあるしさ。でも、正しく言えた方が例えばエッセイ書いたり、論文書いたりする時知識として頭にあるから、わざわざ全部調べなくても正しく書けるし、プレゼンとか凄い数のオーディエンスがいる前で話す時そういう小さな間違えを連続でしてると、聞いてる方も多少は文法の基礎がなってない人なのかなという疑問を抱くと思う。日本語だって完璧に皆はネイティブだから話しているとは思うけど、知らない言葉も表現方法も発音がわからないというか、日本語の場合は読めないか?あるだろ?日本人でも読めない日本語。俺は結構耳で聞いて覚えただけで単語を実際は知らなくて、日本来てから実は違ったって知った言葉結構あったから、アメリカ人でも音だけで覚えてあやふやに発音する人だってザラにいる。だからこう言う複数形とか間違えてる人いたりするし、単語自体の発音も間違えていたりする。本当数日前なんだけど、先生の友達がWorcestershire sauce買ってきてって言ったんだよ。その時の発音がさ、俺が思ってたのと全然違うから、は?ってなって。彼女はアメリカ生まれのアメリカ育ちで、俺もまぁ人生大半アメリカで、お互い英語で話したほうが断然楽なレベルで、これ。彼女はこのソースをウーセスターシャーと呼んでた。俺はウースタシャーと呼んでた。正解は多分俺なんだけど、どうも彼女のアメリカ人の父親がこれをそう呼んでたらしい。何故かは彼の周りがそう言ってたのを何となくそう聞いてたからだと思うんだよ。この単語自体が恐らく英国から来てるから、正しい発音知らない米国人、結構いると思うし、こう言う案件、意外にある。ネイティブでもあやふや」


 生徒達が大きな口を開け遠慮なく笑うと、猪田先生も英語の発音を知らなかったと興味深そうに耳を傾けてくれた。そして、生徒の一人が俺が日本に来て初めて実は違ったと知った言葉は何かを聞かれ、少し考えた。


「何だったかな…あー、フクロウ。ずっとほくろーだと思ってた。だから黒子って聞く度に、一瞬、ん?Owl?と思うことがあった」


 正直に答えると爆笑されてしまったが、現実的にこういう言葉が結構ある。


「まぁさ、つまり完璧は存在しない。言葉は人間が作って人間が発する物だから、当たり前。人間は完璧じゃない。だから実際の生活とか会話では間違えることなんてザラだろ?先生は未だに敬語関係弱いしな?」


「謙譲語とか二重敬語になっちゃうとかね!」


 生徒の一人が大きな声で言うので、それに反応した。


「それそれ。よく間違えて校長に睨まれてる」


 校長の睨みを真似した表情をすると生徒がまた机を叩きながら笑い、誰かが「そう言うときどうしてるのー?」と聞いたので、それにも答えた。


「うん、先生アメリカ長いからという雰囲気を出し、外国札を切って全力で逃げる」


 指で逃げる仕草をしながら口笛で超特急で逃げる自分を表すと、生徒と一緒に猪田先生も大声で笑った。


「とにかく!通じるから良いやで終わらせるか、基礎の知識として文法をしっかり頭に入れておくかで将来自分が必要な時に変わってくる。今、この若い内に土台が出来てたら、絶対他の言語を勉強する時も役に立つし、細かい文法は意味がないって言い切らないで、知識として蓄積しておけば財産になる。間違いなく。だから、今回間違えた箇所、3回はやり直して頭に叩き込むこと。分かった?」


 生徒達が一斉に「はーい」と返事をすると、猪田先生も言語は生きている物だから、間違えることを前提にして話す姿勢は大事だが、知っておける文法は知識としてあると断然自信につながると皆に伝えた。その説明を聞きながら、今日このクラスを離れる事に余り心残りはないと思った。この先生が受け持ってくれるなら、心配はいらない。


 一日実力テストの結果の返却と、説明に追われあっと言う間に終わってしまい、この高校での最後の昼も、学食で食べることは叶わなかった。食べる時間すらなかったので、授業後の特別集会というのが徴集される中、腹減ったと呟くと、猪田先生がカバンからプロテインバーを出して分けてくれた。空腹だったので嬉しくてハグをしてお礼をすると、ジョーにセクハラだと指摘され、焦って猪田先生に謝罪をしたが、ジョーだとセクハラ認定するが俺だとセクハラにカウントされないと言って貰い、一緒に笑った。ジョーは不満を露わにし大騒ぎしていたが、それを無視してプロテインバーを食べ、歯を磨いてから教室に向かった。1日外していたネクタイを締め、ジャケットを羽織って教室に到着すると、生徒達がまた騒ぎ出した。


「やだー、先生!かっこいい!どうしたの?ネクタイとか!単なる集会なのに!」


「あはは、ま、たまにはな?」


 テスト結果を受け取り少し力の抜けた生徒達の間で、日和だけが俺から目を逸らさず、不安げな表情を浮かべていた。

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