高校2年冬休み①
文化祭以降、日和は俺との約束をしっかりと守った。まるで今までのことがなかったかのように、学校で会うと一生徒に徹した様子で挨拶をしてくるようになった。だが、携帯には毎日連絡が来た。全て他愛もない内容だが、最後は必ず<好きです>で締めていた。日和はしっかり大学への推薦枠に入れるよう、全ての成績をトップに保っていた。職員室でも評判で、教員の期待度も高かった。日和に追いつく勢いで努力し成績をあげて来たのは青木だ。以前から悪くはなかったが、二学期の期末試験の結果は今までで一番良かったようだ。英語に至っては日和の満点と並んでいた。テストを簡単にし過ぎじゃないかとジョーには弄られたが、赤点の生徒も数名出る程度で、平均点は過去最低の62点だった。点数の良い生徒と全く出来ない生徒にかなりの差が如実に現れた試験結果に、冬休み返上で赤点を取った生徒への補習授業が入り、冬休みと言えど毎日暫く授業をすることになった。
補習授業初日、空気に氷の粒が見えそうなほど冷え込んだその日、視聴覚室に生徒数名を集め授業を始めると、遅れて大八木が到着した。
「すみません、先生!遅れちゃいました」
「堂々遅刻か。あのな、大八木。先生、これお前達の為にやってんの。失礼だと思わない?遅刻するとか」
「仕方ないでしょ、先生。昨日彼氏と遅くまで電話でお喋りして寝坊しちゃったの!」
大八木のその発言にその場にいた数名が騒ぎ出すと、大八木が嬉しそうにピースサインをしながら大々的に発表するように言った。
「彼氏が出来ましたー。ごめんね、先生?恋の相談ぐらいなら乗ってあげるからね?」
「…マジか。先生、お前らにどんどん追い抜かれてく」
「あははは、先生学校で一番イケメンなのに、可哀想!私のお母さんも先生見たくて文化祭来てるぐらい人気なのに!あの美女とどうして上手く行かないの?」
学生がこの手の話を好きなのは大いに結構だが、授業を潰したくはないので話を本題に戻した。
「はい、そういう話は授業の後で。プリント見て、一問目は大八木答えて」
「げ…Thatの置き換え、私一番無理なんですけど、先生…これ、実際の会話とか生活で必要ですか?」
「まぁさ、実際の会話で置き換えとか無いから生活自体には関わりないけど、公式な文章を書いたりするのに多角的な表現方法を学んでおいた方が、お前達がいつか英語で論文を書く事になった時、断然役立つ。基礎は基礎として今しっかり押さえておけば、後はコツコツ土台の上に積み上げていくだけで済むようになるから」
高校で習う英語というのは、基本的に文法の基礎を抑える部分が多くを占める。後は語彙力の構築と、リスニングになるが、リスニングに関しては大して難しいことはなかった。スピーキングの授業も多少はあるが、お飾り程度で、受験対策の英語攻略というのが求められる。英語自体を生活していく上で学んでいった自分にも、初めは文法的な部分で説明を求められても答えに窮する部分が多く、教職を取っている間に大分勉強をした。普段平然と話している言葉にはルールがあるという基礎を大学で学び、今生徒達に教える立場になり思う。受験英語が大切だというのは、文法の基礎固めが出来ることがその先につながるからだ。例文などを読んでも、実際の会話からは程遠い表現などザラにある。だが、それでも多くの言葉に触れることによって、器は広がる。勉学は高校で終わらず、人生の最後まで続くと父親がよく口にしていたが、おそらくそれは間違いではない。だからこそ、土台になるこの部分を教師としてしっかり生徒に理解して欲しかった。
遅く迄起きて努力したそのプリントは、ここに参加している生徒の間では評判で、1日目の補習が終わる時にした小テストでは、全員がほぼ満点だった。その出来に満足し、帰宅する生徒を教室から送り出していると、大八木が話したくて仕方がないという様子で近づいてきた。
「ね、先生。あの美女どうして口説けないの?」
「あのさ、大八木。本当これ何回も言ってるけど、マイアは先生の大事なお友達なんです。本当にそういう感情はお互いないから。そんな下らないこと言ってる間に、単語の一つでも覚えろよ」
「えーー、でも男女の間で友情なんて本当に成立するものですか?」
よく言われるこの言葉。男が世の女を全員異性として意識しているかと聞いているようなものだ。そして女も世の全ての男を意識しているかという愚問。成立しない訳がない。
「大八木だって青木と仲良いだろ?でも友達だろ?それと同じ。さ、帰った帰った。帰って勉強しろ、お前次回赤点とったら進級できないぞ?」
「キャ!でも、先生、私と翔君、付き合ってるから友達じゃないよ!じゃあね!」
とんでもない爆弾を落とされた感じがしてギョッとした顔で大八木を見ると、大八木が得意げに教室を出る時に言った。
「先生も頑張って!翔君と私、先生応援してるから!」
「…マジか」
文化祭であれだけ熱く日和への思いを語り、挙句に日和に何度も告白をしている青木が、突如の鞍替え。若さという脅威的な武器を、最大限に行使しているその様子に、笑みが溢れた。やはり、あの若さには敵わない。元々ゲイでもない青木が大八木と付き合うのは自然な事なのかもしれないが、日和は知っているのだろうか?思わず日和の携帯にメッセージを送ってしまった。
<大八木から聞いた。日和も聞いてる?>
<はい。良かったと思ってます。元々翔は違うから安心しました>
<そっか。若いな、お前ら>
<先生もまだまだ若いです。父があの頃の自分に戻れたらって言ってました。若いって良いなって>
<そりゃ有難い。ではその若さを無駄にしないよう、先生はジムに行って来ます>
<ジム行き始めたの知りませんでした。何処のジムですか?>
<秘密です。勉強頑張れよ>
<はい。先生、好きです>
日和と距離を保つ為に自分の男の部分でのフラストレーションを発散させるには、ジムは打って付けだった。マイアに体を動かすとスッキリすると言われ、実際にスッキリしたので、あれからバイクで行ける距離のジムに通い始めた。体を動かしている間は無心でいられた。大人の余裕を見せたくても、男にあるニーズは消えないので、それを紛らわすのにも一役買ってくれるジムは最適だ。事務仕事を終え、一旦帰宅してからバイクに跨りジムに到着すると、そこにはジョーが居て顔が引き攣った。
「Heeeeey! このジム英人も来てたの知らなかったよ!」
「俺も知ってたら来てなかった」
「ええええ?なんでそんな事言うーの?!オレの方がマッチョで悲しくなるから?」
ジョーはマッチョとは程遠い。かなり鶏ガラのような体型をしているので爆笑すると、ジョーについていたであろうトレイナーが後ろから顔を出した。綺麗な女性だったので、ジョーの顔を見ると、ジョーが小声で「She's fucking hot, isn't she?」と囁いた。明らかにこれ狙いでここに来ているのを感じて笑うと、トレイナーの女性が会釈した。
「最近入会された優月さんですよね?初めまして。トレイナーの猪田です」
「初めまして。この鶏ガラどうにかしてあげてください。俺は一人で大丈夫なので」
トレイナーが生徒を確保したいのは分かるが、一人で黙々と動いているのが好きなのでやんわりそう伝えると、猪田さんは気が向いたらと名刺を渡してくれた。いつも使うマシンに一人で向かい、一時間半程汗をかき、ジムについているサウナに向かうと、ジョーがタイミング悪くやってきた。学校以外で学校の教員に会うのは飲む時ぐらいが丁度いいと思うのに、ジョーは嬉しそうにサウナで隣に座って話し始めた。
「This gym is fucking far away from my place, but I come here to see that beauty.(このジムクソ遠いけど、彼女がいるから来てるんだ)」
「Obviously. What happened to your Japanese girlfriend? (だろうな。てか、お前日本人の彼女どうした?)」
「We're still dating, but you know, any additional options are always welcome, right?(付き合ってるよ?でも、ほら、オプションは無限大でしょ?)」
「…you son of a bitch. You'll get stabbed one day and I mean it. (最低だな、お前。本当、その内刺されるぞ?)」
「Hahahaha, come on! I got this! She's not gonna find out! I'm very good at this sorta thing. (あはははは、大丈夫だって!絶対見付からないよ!俺、こういうの得意だから!)エイト、オナジアナ、Uh…ムシナでしょ?」
「ムジナな、むしなじゃなくて。Look, I'm not a dick, well, not anymore. Don't say I didn't warn ya. (もうそういうんじゃないから。つか忠告したからな?)」
以前の自分ではそんな事言えた義理ではなかったが、それなりに真っ当な大人に今はなって来てはいる、つもりだ。生徒の一人に、真っ当な道に誘導されていると言う方が正しいのかもしれないが。ジョーは俺の言葉など全く信じていないと一笑に伏せられたので、そこまで自信を持って俺を遊び人と言い切る理由を話せと問い詰めたら、ジョーが悪い顔をして答えた。
「I saw you making out with a woman on the street, not only once or twice, but thrice. (英人が女と路上で凄いことしてるの1回2回じゃなくて3回見たぜ?)」
「…uh...that was ages ago. I'm not that guy anymore. (いや、あれは…昔の話な?もう違うから)」
「Ages ago? It was just a couple of years ago! I could tell you knew how to handle women. How many women did you sleep with so far?(昔?2年前とかその程度だったと思うけど。英人女に手慣れてる感じだった。今まで何人と寝た?)」
「None of your business. Joe, I've changed. (ジョーには関係ない。とにかく俺は今真面目だから)」
「Uh-huh, for Maia, right? I knew it! She's like the best of the best, isn't she? So fucking hot. (やっぱり、マイアの為でしょ?彼女本当最高にいい女だよね。)すごくカワイイ!!カシコいでしょ、美人でしょ。さいこでしょ?So desirable!(すごい惹かれる!)」
ジョーはあれからマイアをデートに誘ったが、キッパリと断られたと嘆いていた。だが、既に付き合っている人がいるのにデートに誘うような相手ではないと俺が指摘すると、ジョーに俺がマイアに片想いをしていると勘違いをされ、それから何かと面倒臭いことを聞いてくる。
「お前、本当失礼なやつだな…。マイアは本当に友達。お互いそんな気サラサラない。それに、俺に靡くとか靡かない関係なく、マイアはお前を相手にするような女じゃない。マイアは、多分凄いいい男と一緒になる。其の内な」
「ええええ、英人あきらめるの?まったいない、すげーなかよしなのに!オレのカンだと…Uh, you only gotta make a move on her, then she'll be yours!( 英人がもう少し押せば上手くいくと思うぜ?)」
「…本当、お前と付き合ってる彼女を俺は尊敬する。一生一人で居たくないなら、大事にしろよ?」
ジョーは人の話を聞かない。米国人だからではなく、基本的に人の話を聞かない生き物、それがジョーだ。諦めてサウナを出ると、急にマイアの声が聞きたくなり、ジムの駐車場から電話を掛けた。
「お元気ですか?」
「あははは、お元気ですよ。英人は?」
「お元気です。今何してる?」
「今?ウィンドウショッピング中。英人は?」
「ジム上がり。今夜暇だったら飲み行かない?」
「良いわよ。私丁度話したいことあったし」
マイアに行きたい居酒屋はここ、とマイアのアパートを指定されたので、手土産を買いに行こうとバイクでそのままマイアの好きな惣菜が売っている店に急いだ。酒と食べ物を持参し、バイクを近くの駅に停めて電車でマイアの家に向かった。引っ越しをしてから一度も家に行ったことがなかったので、どんな感じなのか楽しみにして行くと、予想通りオートロックのエントランスに自分のアパートとの格差を感じて笑った。インターホンを押すと、マイアが陽気に出た。
「Hi, baby! 早かったわね?」
「Hey, babe!明日補習授業あるから、早く帰んないとだからな」
マイアの家はビルの6階にあり、適度に東京の夜景が見える2LDKの広々としたアパートだった。玄関に大きめのシューボックスがあり、贅沢だと揶揄うと、伊達に稼いでいないと言われてしまった。
「あー、こういうの見ると、マジで道間違ったかなって思うわ。お邪魔しまーす」
「英人、今からでも遅くないから転職すれば?紹介するわよ?」
「うーん、考える。今受け持ってる生徒達の卒業はやっぱ見届けたいし」
大学の時にマイアが住んでいたワンルームのアパートを拡大した感じで、内装などは記憶にあるマイアの好みそのものだった。それを指摘すると、マイアが笑った。
「そうね。趣味ってそこまで変わらないしね。英人の部屋も前と変わらないわよ?」
「そうか?大分変わったと思うけど」
昔のアパートはダブルベッドが部屋の中央に置いてあるだけだった。勉強は常に大学でしていたし、食事は女の家で作ることはあっても自宅で作ることは殆どなかったので、家にテーブルすらなかった。今はしっかり生活している作りになり、大人になったと自分では思っていた。
「まぁ生活臭はちゃんとあるけど、やっぱり英人っぽい。無駄なものは置かない。あ、炬燵は意外だったけど」
「あれは押し付けられた。でも冬の間意外に重宝する。あそこで仕事してると動きたくないからすげぇ捗る」
「あはははは、私なら寝ちゃうわ。炬燵とか絶対置けない」
「ま、時々寝てるけどな?」
買って来た惣菜と、マイアが準備してくれたつまみを綺麗な木目の机に並べると、マイアが冷えたグラスにビールを注いで明るい声で言った。
「いらっしゃい、我が家へ。先生補習授業お疲れ様。乾杯」
「どうも。乾杯。あ、これすげぇ今更だけど引っ越し祝い」
乾杯した直後に来る途中で購入したコースターとマグカップを手渡すと、マイアは包みからそれらを出して喜んだ。
「ありがとう、英人!可愛い!私の好みを抑えてる、流石!」
「だろ?つかさ、話って何?男でも出来たか?」
青木と大八木の話を聞いたノリで話を振ると、マイアが小声で答えた。
「……違うわ。冬休みの間、英人1日時間取れる時ない?」
「…あるけど、何?」
その含みを持った言い方に嫌な予感がしてマイアを見ると、マイアはさっきまでの勢いを失ったように、両手で顔を覆って小声で呟いた。
「I fucked up…(ヘマしたの)」
「What do you mean?(どういう意味?)」
「I'm fucking knocked up... what do I do, baby?(妊娠したわ…どうしたらいい?)」
言葉が出てこなかった。そして言葉より先にマイアのビールを取り上げると、マイアは自分のグラスに注いだ缶を俺の前に差し出した。ノンアルコールと記載されていた。それを読み「Holy fucking shit!!」と声にすると、マイアが「Fuck, I'm fucking stupid!」と震えた声で呟き、泣き出してしまった。
既婚者の子持ちの男と関係を絶ったことは聞いていたが、新たな男が出来た話は聞いていなかったし、相手が誰なのか一瞬考えた。だが、マイアを長年知っている自分の勘が正しければ、相手は別れた筈の男だ。椅子をマイアの横に移動し、泣き崩れるマイアの肩を抱くと、小声で確認した。
「It's that guy, isn't it? (あの男?)」
「…Yes…」
「But why??」
「Cause I'm a fucking idiot!! 離婚するって言ったのよ!私達の未来の為に! He said he loved me. He said…He said he wanted to be with me. (愛してるって言われたのよ…私と一緒になりたいって)色々言われたの、本当に涙が出るぐらい愛のある言葉を!でも全部嘘だったのよ!ただ寝たかっただけなのよ!He doesn't care about me! He doesn't care about this baby! I'm fucking screwed! (彼は私のことも、この赤ちゃんの事もどうでも良いのよ!何もかもお終いよ!)」
男が離婚調停の最中で、家族を諦めマイアを取る決断をしたと伝えたのは、文化祭の後だそうだ。ごく最近の出来事。マイアは男の言葉を全て信じた。指輪を渡された。綺麗にダイアの光る指輪。マイアは離婚が成立したら俺に男を紹介しようと思っていたようだ。だが、マイアが妊娠した。そして、男に昨日その事実を伝えると、子供は堕ろしてほしいと言われたそうだ。まだ離婚が成立していないから、責任は取れないと。焦ることではないから、今は諦めてほしいと。マイアは人生で初めて妊娠を経験し、本当は嬉しかった。嬉しくて男も喜ぶと思い報告し、相手の反応が想像と真逆であることに傷付き、男とは口論になった。男は何度も離婚したらまた考えたら良いと主張したようだが、マイアは男への不信感で一杯になり、離婚調停の最中である証拠を出せと迫ったら、男は無言になったらしい。それで全てを察した。男の全ての嘘を、察した。
遊び歩いたとしても、男にこういう事は起こらない。男は妊娠をしない。だが、女は別だ。男の身勝手で意図せずに妊娠する可能性が、常にある。自分自身、かなり適当な行為に及んでは来たが、避妊に関してはこれ以上ない程気をつけてはいた。子供が出来て、責任を取れる自信などなかったから、絶対に間違いが起こらないように気を付けた。マイアもその点、付き合っている間はピルを飲んでいたし、こっちはこっちで十分気を付けていたので、こう言う事態がマイアに起こることは全く予期していなかった。泣き続けるマイアに、そっと質問をした。
「マイア、お前ピル飲んでなかった?辞めたのか?」
「夏から飲んでなかったけど、生理は来てなかったし、余り深く考えてなかったの」
「相手の男は、ちゃんとしてた?」
「…してなかったわ。でも、私も生理が来てないからこんな事になるとは思わなかったのよ」
「アフターピルも飲まなかったのか?分かるだろ、相手が何をしたかとか、お前の体なんだから」
言ったところで救いになるような事ではないのは分かるが、あれだけきちんとしていたマイアがこんな状態になるのが信じられず問い詰めると、マイアは小声で答えた。
「…何処かで、望んでたのかもしれない…妊娠したら、あの人は本当に私のものになるって」
あれだけ現実を見れば良かったと、馬鹿なことをしたと反省していた素振りを見せていたマイアは、本当に相手の事を好きで好きでどうにも出来なかったのだと、この時痛いほど感じて胸の奥が酷く痛んだ。
「…もう良い。ごめん、嫌なこと聞いて…で、どうしたい?」
「…どうもこうもないわよ。片親で、相手は不倫してて、子供が可哀想でしょ?」
「可哀想かどうかは俺が言う事じゃない。だけど、お前がどうしたいかはお前が決めるべきだから、本当に本心からそうしたいなら、病院には俺がついてく」
「ありがと…ごめんね、こんな事に巻き込んで。他に言える人居ないのよ、私」
「知ってる。ありがと、頼ってくれて。な、マイア。病院行く前に、もうその男には連絡しないのか?もう一度話し合うとか、そういうのは出来ない?昨日の今日だから、相手も少しは冷静になってるだろうし、何か変わるかもしれない」
相手の不誠実な行為から、何か変わることがあるとは期待しづらいが、せめて中絶するならその費用やその後のケアなど相手がすべきことだと思い聞くと、マイアは俺の胸元に顔を埋めて答えた。
「…電話番号、変えたみたい。今朝連絡したらもう使われてませんって…」
「Fucking asshole! Where does he work? You know where he lives, don't you? (クソ野郎が!仕事先は?どこ住んでるか、知ってるだろ?)」
「Apparently, he changed his job two months ago, and he never gave me his address. I have no clue how to reach him. (どうも二ヶ月前に転職してて、住所は聞いた事もないわ。連絡方法はないのよ)」
「WHAT? Maia, what's going on with you? (マジで言ってんの?どうしたんだよ、マイア?)住所も知らない、転職先も教えない男と何で寝た?お前、そう言う奴じゃないだろ?」
「I was fucking lonely, okay?? I was just soooo fucking lonely! (寂しかったのよ!どうしようもないぐらい寂しかったの!)」
返す言葉がなかった。マイアのように人が常に集まってくるような派手な容姿とキャリアがあり、明るい性格で友達も多い人間が、自分の孤独を認めて泣く姿は、心臓に直に突き刺さった。自分が幼い頃から感じていた孤独感、それを埋める為に乱れに乱れた生活を送ってきた自分には、マイアの言葉の意味が一番分かる。ただ、抱き締めることしか出来なかった。
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