第11色 色死獣の発生源は?
「……アノス君のお婆さんを探さないと!!」
燃え盛る業火の中、私は他の村人たちを救助していた。
歩けない村人も歩ける村人も村の外まで出てもらった。
こんな時ほど、魔法が使えてよかった思うことはない。
クリスティアは急いで、動けないでいるであろうアノスの祖母がいるであろう家に走った。
扉を開け、そこには倒れたお婆さんがいた。
アノス君のお婆さんだ。
「お婆さん、お婆さん!!」
私は師匠に教えてもらった方法で、彼女の脈を計る。
触れてみた手首には何も動く感覚がしなかった。
彼女はもう既に死んでいる……? どうして。
外傷なんて何もないのに。
『ああ、アノスが行ってしまう。私は一人になってしまう。ああ、寂しい。ああ、寂しいわ』
「……これは、思念? どうして、」
クリスティアは嫌な予感が走った。
聞いたことがある、色死獣は負の感情に集まる性質がある。
その濃度が濃ければ濃いほど、その人間が色死獣の母体となって色死獣を産み出す、という
「……本当、だったんだ」
おそらく、アノス君のお婆ちゃんが色死獣の母体なんだ。
でも、どうして? 理由はそれだけじゃないはず。
魔法学校の授業で「ただ負の感情を持つだけでは周囲の地域に現れやすくなるだけだ」とクレオ先生からも教わった。
なら、何かきっかけがあった? ……何のきっかけ? 色死獣を活性化させるほどの負の感情は事足りると推理しても決定的な理由がわからないままだ。
「……なんでここに魔法使い様がいるんだぁ?」
「貴方は……最初に村に訪れた時の、おじさん?」
お婆さんの背後からゆっくりと現れた男性に驚きを隠せない。
どうして? 母体の近くにいたらウィッチでもない人間は色死獣の気に当てられて色死獣化するのに。
……まさ、か。
「……貴方が、お婆さんを色死獣の母体化させたの?」
「おお、おお。勘が鋭いお嬢っさんだぁ。アノス様もいい伴侶を得られた」
「伴侶? なんのこと、」
「おやぁ? お嬢さん、お気づきでない? たかだが一端の魔法使いなら母体に近づいただけでも精神に異常が来たすというのに……なぜ貴方はそうなっていない?」
男は人間にしてはあまりにも醜い顔で近づいてくる。
まるで、人間の姿を模した化け物のように。
色死獣よりもおぞましい、何かのように。
「生憎、私は
「濃度……? ああ、魔力量のことか。魔女も面倒な単語を使う。昔のように魔力量と呼べばいい物を。まるで自分たちしか魔法を使わないかのような愚行、腹がよじれますなぁ」
「……なんなんですか? 貴方」
男は姿を変え、黒の燕尾服を身に纏う。
刈り上げられた金髪に、通った鼻筋。綺麗な顔面の輪郭をなぞって、赤と青のオッドアイをした美丈夫が目の前に現れる。
「ご紹介しましょう! 私は悪魔メフィストフェレス……大賢者、ヤハウェに封印されていた俗物でございます」
爽やかな声であるのと同時にうさんくさい雰囲気が滲み出ている。
私は彼の発言である単語にはっとさせられた。
「ヤハウェ……って、あの!?」
大賢者、ヤハウェ。伝承で聞いたことがある。
英雄譚の中に、昔から悪魔という存在と魔王は観測されていた。
その一匹の悪魔が現存するなんて……! やっぱり、他の村で噂で聞いたことは合っていたんだ。隣町のある噂で、リアベート村はヤハウェに大賢者ヤハウェに封印されていた悪魔が眠る土地だと。
同時に、英雄譚に出てくる魔王……ウィッチにとっては初代の魔女の王とされている男性、ノトリアスゴートの誕生の土地でもあると。
「さぁ、私の楽しい楽しい愉快で爽快で軽快な死人の
パチンと、指を鳴らしたメフィストフェレスはアノス君の祖母の遺体がぶくぶくと体中から黒い泡が沸き立つ。
次第に色死獣となったお婆さんは咆哮を上げる。
『ガアァアアアアアアアアアアアアアア!!』
「……っ、お婆さんっ」
「さぁさぁ、標的はあちらに。こっちは絶対ダメですからね?」
『ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!』
色死獣はクリスティアへと襲い掛かる。
詠唱を唱えたくても、体が強張り瞬時にできない。
このままだと、私、死んじゃ……!!
「――――させない! シルト!!」
風の防御盾が私と色死獣の前に現れる。
『ガァアアア!!』
「アノス君!?」
クリスティアの後ろに、詠唱を唱えたであろう彼が立っていた。
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