第10色 燃えるリアベート村

「我、願う。希う。サラマンダーの燦炎よ、滾る焔で咆哮せよっ!! フエゴ!!」


 輝く赤い焔が、手作りのカカシを燃やし尽くした。

 跡形もなく燃やせて、前よりも威力が上がっているのに歓喜した。


「よし! やった!!」

「すごい、アノス君! 赤彩色ルーフスカラーの公式詠唱も完璧だね」

「えへへ、はいっ」

赤彩色ルーフスカラーの略式詠唱だけじゃなく、緑彩色ウィリディスカラー略式詠唱もマスターしちゃうし……才能あるよアノス君っ」

「ありがとうございます」


 クリスティアさんに褒められ、頭を撫でられる。

 彼女の優しい手つきが、言葉が僕の心を満たしてくれる。

 あれから、一週間。クリスティアさんに魔法学校に通う手続きを代理で行ってもらいながら、彼女の魔法を学ばせてらっている。

 後三日後彼女は旅に出ると言っていた。

 残り少ない時間を大切に使うと固く誓った僕は、クリスティアさんから無詠唱を行う練習として公式詠唱こうしきえいしょうを使っていた。

 詠唱には公式詠唱のほかに略式詠唱りゃくしきえいしょう数式詠唱すうしきえいしょう儀式詠唱ぎしきえいしょう無詠唱むえいしょう古代詠唱こだいえいしょうとある。

 公式詠唱は魔女組合で指定された詠唱の言。

 ……略式詠唱は公式詠唱の基礎を省略した物。

 数式詠唱は複合詠唱とも呼ばれている特殊な詠唱だ。

 儀式詠唱は、特定の儀式に関しての詠唱。

 無詠唱は詠唱を唱えず魔法を発動させる詠唱。

 古代詠唱は古くの時代に使われていた禁断の詠唱、らしい。

 まだまだ僕も色々と勉強する中で、古代詠唱は禁止とされている。

 なんでも、四大色エレメントゥムカラー使いである僕にはまだまだ未熟で下手に使うと暴発しかねない、ということらしい。


「じゃあ、帰ったら君の好きなロゼベリーのジュース作ってあげるね」

「本当ですか!? やったぁ!!」


 疲れた時、ロゼベリーのジュースを飲むの本当にいいんだよな。

 アノスはワクワクしていると、突然空から烏が降りてくる。

 クリスティアさんの杖の上に乗り、足には銀色の筒がある金具がつけられている。

 ……なんていうんだろう、この金具。


伝書鳩でんしょばとならぬ、伝書烏でんしょがらすってところかな」

「……?」

「私の師匠からみたい」

「え!? そうなんですか!?」


 クリスティアは金具から手紙を取り出し、中身を確認する。

 彼女は目を通して、嬉しそうに顔が綻んだ。


「アノス君! 私の師匠がアノス君を推薦してくれるって!」

「本当ですか!?」

「うんっ、やったね!」

「はいっ」


 やった、俺もこれで魔法使いになれるんだ。

 魔法学校がどういうものか、まだわかっていないけど。

 でも、自分の目標に一歩近づくってことだよな。よし、やってやるぞっ!!


「後は、鏡でクレオ先生から入学の説明を受けることになると思うよ」

「わかりましたっ……? 鏡?」

「私の持ってる鏡を使えば問題はないと思うよ」

「いいんですか?」

「うん、クレオ先生たちと通信できるように細工してあるものだから、もしクレオ先生から連絡があったらアノス君の家で通話しよう?」

「はいっ!!」

「あはは、元気だねー」


 クリスティアさんが自分のことのように笑ってくれるのがたまらなく嬉しい。

 

『――彼女と一緒に魔法学校に行きたいのだろう?』

「あ、れ?」

「どうかしたの?」


 なんだろう。今。

 脳裏に何か、大人の男の人が急に変なこと、言ったような。


『お前はクリスティア・ハートフィールドと一緒にいたいんだろう?』


 ……だ、れ?


『私の名は、―――――だ』

「聞こえない、聞こえないよ……誰、なの?」

「アノス君? ……いけないっ!!」


 クリスティアさんは急に僕の両肩を掴んだ。


「アノス君! リアベート村が燃えてる!!」

「え!?」

「急いでリアベート村に戻ろう!!」

「は、はいっ!!」


 僕たちは魔法ですぐにリアベート村へと飛び立った。

 村の中に入ると、色死獣たちが集まっている。


「どうして色死獣がここに!?」

「考えるのは後! 村人の救助優先だよアノス君!! 二手に別れよう」

「は、はい」


 クリスティアさんと二人で、色死獣を倒しながら村人を探す。

 色死獣に襲われて、色を失った人たちが逆に色死獣となって襲って来る。


『ガァアアアアアアアアアア!!』

「くっ……!! シルト!!」


 緑彩色ウィリディスカラーの略式詠唱を使い、風の盾を形成する。

 人型の色死獣と距離を取り、続けて赤彩色ルーフスカラーの略式詠唱を行う。


「フエゴ!!」

『ガァアアアアアアアア……!!』


 色死獣は炎に燃やし尽くされて消えて行った。

 心がとても苦しい。人を、人を殺しただなんて。

 

「ふぅ、う……落ち着け、僕っ」


 ……元は人間だってわかっている。

 けど、ここで下手に犠牲者を多く出すわけにはいかない。

 心を鬼にするんだ。僕。

 みんなを救えるのは僕とクリスティアさんしか、いないんだから。

 次々に村人たちに襲い掛かる色死獣たちを駆逐するために、勇気を振り絞った。


「やるんだ!! アノス・ファーゼン!!」


 例え、それが本来人であったのなら。

 弔いとして、僕の炎で火葬するんだ。

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