第9色 ウィッチについて 後編

 クリスティアさんは外に連れ出されたかと思うと、村の外にある草原に連れてこられた。


「く、クリスティアさん、どうしてここに?」

「魔法を使うんだから、なるべく被害が少ない場所にした方がいいでしょう?」

「え!? 魔法を、ですか!?」

「そう、これは君の実践も兼ねてる。まだ時間も余裕があるし、暗くなる前に変えれば問題ないだろうしね」

「わ、わかりました」


 クリスティアの指示に従い、彼女は詠唱もなく鞄を地面に出現させた。

 続けて、中身が勝手に開き、中に一一種類のカラフルな瓶を取り出す。

 一つ一つ、色が違うけど……一体何なんだろう。


「まず、アノス君が使える四大色エレメントゥムカラーについて説明するね」

「は、はい」

「まず、さっき説明した赤彩色せきさいしょく、ルーフスカラー……これはまず火属性だったね」


 クリスティアさんは杖を構えると、赤い液体が入った小瓶が割れて赤い火がその場で燃え始める。


「わぁー……」

赤彩色ルーフスカラーはアノス君の基本的な色相になるから、習得も早くないとね」

「が、頑張りますっ」

「んで、二番目に濃度が高かった風の魔法、緑彩色りょくさいしょく……ウィリディスカラー。三番目に強かった水の魔法、青彩色せいさいしょく、カエルレウムカラー」


 次々と小瓶は割れ、青色の小瓶には水が溢れ、緑の小瓶から緑の風が吹き、さっきの火を消した。


「最後に、四番目に適性があった茶彩色ささいしょく……プルルスカラー」


 茶色の小瓶は割れ、風と水の力で地面に泥となって落ちた。


「……この四つがアノス君が使える最も濃度が高い色相だったわけだけど、確かに私は君に他の属性も扱える可能性を秘めていると口にしたね」

「……はい」


 ごくり、とアノスは生唾を飲む。


「後でアノス君が魔法を実践するためにも、残りの七色についても教えるね」

「お、お願いします……っ」


 その後、クリスティアさんから他七つの色を聞いた。

 雷の魔法。黄彩色こうさいしょく、フラーウムカラー。

 強化の魔法。橙彩色だいだいさいしょく、アウランティウムカラー。

 魅了の魔法。桃彩色とうさいしょくロセウスカラー。

 毒の魔法。紫彩色しさいしょく、ウィオラーケウスカラー。

 光の魔法。白彩色はくさいしょく、アルブスカラー。

 闇の魔法。黒彩色こくさいしょく、アーテルカラー。

 音と時の魔法。灰彩色かいさいしょく、ラーウスカラー。


「うん、大体はこんなものかな。後は、魔法学校で勉強すれば自然と身に着くと思う」

「あ、ありがとうございました……っ」


 アノスは頬を赤らめながら、頭を下げた。

 全部教えてもらった中で、桃彩色ロセウスカラーを小瓶を使った時、僕が魅了させられて、なんか不思議な感覚になったけど、クリスティアさんはすぐに魔法を止めてくれた……あの感覚は、なんだったんだろう?

 ……ちょっと恥ずかしかったな。


「……あの、クリスティアさん」

「何?」

「僕は、クリスティアさんを師匠になってほしい、です」

「……それは無理かな」

「どうしてですか?」

「単純だよ、魔女にしか魔法を教えることはできない。今した行為は私が君に魔法を披露したくてやっただけ。教えたわけじゃないよ」

「……で、でもっ」


 僕にとっての師匠がクリスティアさんがいい。

 教え方も優しくて、僕にはわかりやすかった。

 あんまり短くてコンパクトって言うか、わかりやすい説明の仕方だったし、他の魔女の人に頼み込むのが少し怖い、っていうのはあるけど……それでも。

 僕はクリスティアさんから、魔法を教わりたい。

 クリスティアは空の向こう側をじっと見据える。


「私はいつか、宮廷魔法士になる。そのためにも功績をあげなくちゃいけない……魔女になるなんて考えたこともないよ」

「……同じ、目標なら」

「?」

「僕も宮廷魔法士を目指したら、クリスティアさんと一緒にいられますか!?」

「……それは」


 元々僕は、王都フィンゼルに行くつもりでいたんだ。

 なら、父さんと母さんたちのために、お婆ちゃんのために宮廷魔法士になってお金をいっぱい貯金して、父さんたちのために使えたら、彼女もきっと僕の傍にいてくれる。

 これ以上にいい方法なんて、他にないじゃないか。


「君の夢は魔法使いになること、だったんじゃないの?」

「それは……っ」


 俯いて、僕は服の裾をぎゅっと握った。

 わかってる、でも、こんなに優しい人と一緒にいられる機会が今だけかもしれないって思ったら、寂しい。

 寂しい、んだ。僕は。


「アノス君、答えはもう、出てるんじゃないかな」

「……僕は、父さんと母さんに会いたい。お婆ちゃんも一緒に王都に連れていけたら、連れて行きたい、です」

「なら、魔法学校の進学の手続きを誰かに協力してもらわないといけないかもね」

「……え?」

「まだ、もう少しだけ君の村に滞在することにするよ。宮廷魔法士を目指す同志なんだし? ……応援はしたいからさ」

「ありがとうございます! クリスティアさん!!」


 僕は駆け出して、クリスティアさんに抱き着く。

 彼女は戸惑った顔をしたけど、すぐに笑って僕の頭を撫でてくれた。いつか、彼女の隣に立てるような宮廷魔法士になるんだと、強く胸に誓うアノスだった。

 けれど、アノスは予想もしていなかった。

 まさか、この後あんなことになるなんて想像もしていなかったのだから。

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