第8色 ウィッチについて 前編

「英雄譚に魔法使い以外の役職はでないもんねー……魔法使いは魔女の弟子の名称だってこと、知ってる?」

「弟子……? 魔法使いは、魔法使いなんじゃないんですか?」

「あー……そこからなんだぁ」


 クリスティアはたはは、と苦笑すると咳払いをしてから紙をテーブルに置く。


「そもそも私たちの業界ではウィッチって呼ぶのが正しいかな。魔女、魔法使いや魔術師。魔導師や賢者と隠者、宮廷魔法士なんかも総じて魔女組合での魔女用語になってるね」

「魔女組合?」

「全ウィッチたちが所属する団体組織って感じかな。君も魔法が使えることが分かったんだし、加入する流れになると思うよ」


 ……魔女組合か。

 じゃあ、僕はどこかの魔女様に教えを請わなくちゃいけないんだな。


「それぞれの役職はなんなんですか?」

「魔女は通り名を持つほど強い魔力や魔法を持つ人のこと、君が英雄譚で読んだ大抵の魔法使いは、魔女見習い、と言っても差し支えない感じかな」

「おー……っ」


 確かに、僕が見た英雄譚でも未熟な魔法使いが多かった。最終的にはすごい魔法使いになったけど、魔女見習いだったからなんだ。


「んで、魔術師は魔法を研究する科学者。魔導師は魔法学校とかの教師、賢者は占い師で隠者は引退した魔女のこと……宮廷魔法士は、王国フィンゼルに仕えるウィッチの総称、ってところかな」

「……すごいんですね、ウィッチって」


 御伽噺の登場人物は、現実の世界で色々な役割を担っているなんて知らなかった。

 ウィッチがいるおかげで、僕たちの生活も穏やかに過ごせているってことなのかもしれない。


「そんな難しいことじゃないよ。他にも君の色相のことを話した通り、他にも魔女用語って物を覚えていかなくちゃいけないんだし」

「さっきのなんとかって奴とかそうなんですか?」

「うん、まあね……普通の子ならそろそろ頭パンクしそうだと思うんだけど」


 クリスティアはアノスの脳内に専門用語で埋め尽くされてきているのをなんとなく察した。

 そのうえで、一旦休憩を挟むきっかけとして適当な理由を口にする。


「僕、知りたいです! はやく一人前のウィッチになりたいんです!! 教えてくださいクリスティアさんっ」

「……そういうことなら、いいけど」


 キラキラとした目でアノスはクリスティアを見る。

 アノスは知的好奇心が旺盛だった。

 逆にクリスティアは勉強熱心なアノスに押され、よし、とやる気を沸かせた。


「一旦、別の紙にメモしていこうか。その方が後で確認できるでしょ?」

「お願いします!」


 再度、クリスティアはテーブルに紙とペンを改めて用意する。適当に単語と、絵を描きながらアノスに説明する。


「まず最初に話した色相は魔法の属性、明度は属性の幅、彩度は魔法の質、濃度は魔力量、彩管は魔力回路、って覚えればいいよ。ここ基礎だから暗記してね」

「わかりました」

「じゃあ、一旦外に出ようか」

「え? どうしてですか? まだ教わってるばっかりなのに」

「外の方が綺麗だと思うから。いいから来てくれる?」

「……? はい」


 アノスはクリスティアの指示に従い、一緒に家から出た。

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