第6色 薬の錬成

「……えっと、クリスティアさん。どうやって薬を作るんですか?」


 父の部屋にやって来た僕とクリスティアさん。

 僕の家で一番に広い部屋があるのは父さんの部屋だ。

 何かを作るとしても、倉庫だったらもし失敗した時に冬が乗り切れなくなっても困る、という意図があったからこそである。王都にいる父さんたちには悪いけど、お婆ちゃんのためといったら、飲んではくれると思うから。


「錬成するって言ったはずだよね? アノス君」

「御伽噺なら、真っ黒な大釜で作るんですよね? 魔法使いに限らず錬金術師もそうかと……?」


 錬金術師も、お婆ちゃんが見せてくれた御伽噺の話で知った役職だが……魔法使いがいるなら、やっぱり錬金術師もいる、ってことだよな?

 気になる、はっきりいうとこの場で全部色々と聞きたくてたまらないっ。

 しかし、お婆ちゃんのことを考えたら、それは今じゃない、今じゃないぞ僕っ。


「そうだよ、でも薬を作るのに必ずしも大釜がいるわけじゃないんだよ?」

「え?」

「我、願う。希う。シルフの息に隠れた宝物ほうもつよ、我が呼び声に答えその姿を晒せ……! ベズーヘン!!」


 クリスティアさんはそう告げると、詠唱を唱え始めた。

 緑色の風が部屋に静かに巻き上がる。

 透明な空気から、大きな革製の鞄が現れた。


「うわぁ、鞄が……!」

「アイテムボックス、って奴かな。錬金術師さんたちの大発明の一つだよ」

「すごい……っ」


 クリスティアさんは魔法で出てきた鞄をベットの上に置く。


「これは特別製でね、師匠に入れる物の制限が掛けられてるんだぁ」

「どうしてですか?」


 特別製の鞄を、どうしてわざわざお師匠が制限を……?

 何か特別な理由でもあるのか?


「大層な話じゃないよ、『なんの成果もあげていない魔法使いが、なんでも使える道具なんて持って傲慢に溺れるのはよくないでしょう?』……ってさ」

「……どういう意味ですか?」

「あはは、要はいいことをしたご褒美に比例して、アイテムボックスの容量が増える、って感じかな。頑張ってる人って証拠があれば、成長できたって証拠になるでしょ?」

「……魔女様の監視が常にある、ということですか?」

「ちょっと違うかな。功績に当たる勲章なりトロフィーなりを得たら、アイテムボックスに児童に容量が増えていくって魔法をかけたみたい。魔法使いにとって、師匠である魔女の言葉は絶対だからね……他の魔法使いは楽してそうな気がするけど制限がある方が頑張りがいもあるってねっ」

「……それも、そうですね」

「んじゃ、ちゃっちゃとお婆さんの腰痛の薬、作ろっか」

「はい!」


 まずクリスティアさんが父さんたちのベットの上に並べたのは、薬を生成するための道具たちと、一部素材らしき材料だった。

 道具は、乳鉢とかガラス器具とかで天秤も? ……素材は、水? と、赤い実みたいだけど。他にも細かい粉がある……こんなもの、何に使えるんだ?


「……?」

「あはは、これは本来錬金術師の本分だけど緊急事態だからね。お婆さん的にはこっちの方が安心感あるだろうし……アノス君も手伝ってくれる?」

「わ、わかりました!」


 僕は頷くと、クリスティアさんを部屋へと案内した。


「じゃあアノス君、この実を乳鉢ですり潰してくれるかな?」

「はいっ」


 僕はクリスティアさんの指示に従い、乳鉢、と呼ばれる物の中に入れて、すり潰すことにした。

 ……どこか、嗅いだことのある匂いがする。


「……これ今日食べたロゼベリー?」

「あ、気づいた?」

「ロゼベリーって、誰かの傷を治す効果もあるんですか?」

「効能は、師匠が行ったことのある日本って国の大棗とよく似た効果があるんだって薬師のある人から教わってたんだ。ただ、ロゼベリーはただ食べるだけじゃその効果がなくて、すり潰して煎じないと効果が出ないんだよね」

「た、たいそう……?」

「うーん、その話はまた今度しよっか……キッチン借りてもいい?」

「は、はいっ」


 真ん丸の木の実のロゼベリーに、そんな効果があったなんて……知らなかったな。



 ◇ ◇ ◇



「……うぅ、変な臭い」


 臭い、なんだか雑草臭い。木の実として食べるロゼベリーが、すり潰して煎じるとこんな臭いがするなんて知らなかった。

 あはは、なんてけらけらっと笑うクリスティアさんは慣れている様子だった。


「良薬口ににがしって言葉があるなら、良薬鼻にくるしって言葉があってもいいのにねっ」

「どういう意味ですか? それ」

「いい薬は苦いってこと、後半のは私が作った造語」

「……今は、言い得て妙だと思います」

「お、古風な言い回しするんだね。御伽噺から学んだの?」

「は、はい。ちょっとだけ……」


 アノスは素直に褒められたことに思わず照れる。

 かわいいな、とクリスティアは弟子でも持った気分になったことをアノスは知らず、気恥ずかしそうにする。


「学べる時に学んだ方が、後々楽だと思うよ。まあ……勉強とか他人の人間観の刑の嘘よりも、筋肉だけは嘘つかないとか言ってる格闘家の人とかいたの思い出すなぁ」

「どんな人なんですか? その人」

「え? ただの脳筋バカだよ。気にしないで」


 クリスティアさんと雑談していると、魔法で火を止めるとカップに液体状の薬を移した。


「よし、作成完了っと!」


 ガラス瓶に入った緑色に発光する液体を見て、アノスは安堵した。

 とにかく、クリスティアさんの薬のおかげで作り方も学べた。

 はやく、お婆ちゃんに薬を飲ませようっ!!

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