第5色 リアベート村

「――ここでいいかな? アノス君」

「はい、大丈夫です」


 クリスティアさんは、僕が降りやすい位置まで杖を降ろしてくれて、先に自分が降りることにした。気を付けてゆっくり降りると、彼女は手慣れた手付きで降りると魔法を無詠唱で宙を浮く魔法を解いた。

 

「ここが、リアベート村です」


 僕は彼女に村の門を手で示す。

 門は門でも、小さな村らしいありきたりな作りの門だ。

 王都とかに比べたら質素な作りだけど、僕は嫌いじゃない。

 

「……リアベート、かぁ」

「? どうかしました?」

「ううん、なんでもないよ。君の家、連れてってくれるかな?」

「はいっ」


 満面な笑みを返し僕は彼女を先導するために前へと歩こうとすると、息を切らせてた男性がやってくる。

 目には涙をため、滝のように流していた。

 僕を見るなり、思いっきり抱きしめてくる。あ、汗臭い……っ。


「アノス! 無事だったんかぁ!? 無事だったんかぁ!?」

「お、おじさん。苦しいよぉ」

「昨日から家に帰ってこねぇでよぉ、こんの馬鹿タレぇ!! 村中のみんなで探し回ったんだぞぉ!? 婆さんも心配で寝込んだんだかんなぁ!?」

「え!? お婆ちゃんが!?」

「はやく会いに行ってやれ! な!?」

「う、うん! クリスティアさん、急ぎましょう!」

「わかったよっ」



 ◇ ◇ ◇



「お婆ちゃん!!」

「あぁ……アノス、アノスかい?」

「うん、大丈夫だよ! お婆ちゃんっ」


 僕はお婆ちゃんの扉を開けて、ベットに横たわるお婆ちゃんの手を握る。

 森に遊びに行くって出てきたのに、帰ってこないってなったらお婆ちゃんたちが心配するのも当然だ……クリスティアさんにお願いして、早く帰ってくるべきだった。


「ごめんね、ごめんね。お婆ちゃん……っ」

「いいんだよぉ、お前さえ無事でいてくれればなーんもいらない。もう大丈夫だよぉ」

「……うんっ」


 お婆ちゃんに頭を撫でながら、安心して涙が零れてきた。

 本当に、色死獣は怖かった。今まで、あんな物御伽噺と思っていたばかりにお婆ちゃんや村のみんなに迷惑をかけて……本当に僕は、馬鹿だ。


「……ところで、アノス。後ろのお嬢さんは誰だい?」

「あ、えっと」


 クリスティアさんは、お婆ちゃんの部屋に入って貴族の令嬢のような仕草で礼をする。あまりにも様になっていて、彼女の品格が垣間見える。


「こんにちは。アノス君のお婆さん。旅縁の魔女アヴェリスティーヌが一番弟子、クリスティア・ハートフィールドと申します。以後、お見知りおきを」

「クリスティアちゃん、孫を無事に帰してくれてありがとうございます」

「いいんだよ、お婆ちゃん。動かないでっ。腰に響くでしょ?」


 僕はお婆ちゃんの背に手を置く。


「よければ、腰に聞く治療薬を知っているのですが……今から錬成しても?」

「……いいん、ですか? こんな老いぼれに」

「構いません。できればどこかの部屋で作らせていただけると嬉しいのですが」

「そ、それなら父さんたちの部屋はどうですか!? お婆ちゃんも、いいよね?」

「……アノス」

「僕、お婆ちゃんの腰が少しでも良くなったら、嬉しいし……ダメ、かな」

「……そうだねぇ、お願いしようかね」

「わかりました、アノス君。ちょっと手伝ってもらってもいいかな」

「は、はいっ」


 僕はクリスティアさんの後ろをついていく。


「……アノス、無理するんじゃないよ」

「お婆ちゃん、待っててねっ」

「ああ」


 パタンと扉を閉じて、僕たちは薬を作るために父さんたちの部屋へと向かった。

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