第3色 野宿の夜

 気が付くと、お婆ちゃんがいつも通り椅子に座りながら編み物をしていて僕は興奮しながらお婆ちゃんに声をかける。


『おばあちゃん、僕魔法使いに会ったよ!』

『そうなのかい、すごいじゃないか』

『僕、あの女の人みたいにいつか魔法使いになるんだ! それで、お父さんとお母さんに楽させてあげるんだ!!』

『いい夢だねぇ……でも魔法使いは、魔女の見習いのことを言うんだよ?』

『え? そうなの?』

『ああ、そうだよ。王国では魔法使いは宮廷魔法士きゅうていまほうしとして働いていたりするけど、魔術師みたいに魔法の発展に貢献する学者の人たちもいる。お前は、何になりたいんだい?』

『僕は……僕がなりたいのは、』


 僕は自分のズボンのすそを掴みながら、下を俯く。


「僕が、なりたいのは……」


 さっきまでお婆ちゃんと話していたはずなのに、気が付けば視界は満天の星空が散りばめられたスカーフが浮いていた。

 草木の香りと一緒に火の臭いが鼻を掠める。

 もしかして、外? パチパチ、と火花が散る音が聞こえて目を擦る。


「……火? の、音?」

「目が覚めた?」


 木の枝が燃えているのが見えて、焚火の音だったこと理解するとホッとする。

 そうだ、さっきまで色死獣に襲われててこの人が助けてくれたんだ。

 どうやら僕は眠っていたようで、彼女の私物であろう毛布にくるまって眠っていたようだ。

 僕は恐る恐る、女性に頭を下げる。


「あ、えっと……助けてくれてありがとうございます」

「礼儀正しいね、そんなにかしこまらなくていいよ。この辺の村の子でしょ?」

「あ、は、はい……」


 さっき出会った女の人が二つのマグカップを見せる。

 僕のために、用意してくれたのかな……?


「寒いから、ホットミルクでも飲む?」

「……あ、ありがとうございます」

「私、クリスティア・ハートフィールド。君は?」


 少女から受け取ったマグカップをもらって、一度中身のミルクの水面を除いてから彼女に質問する。


「……僕はアノス、アノス・ファーゼンです。その、貴方は魔法使いなんですか?」

「うん、旅縁りょえんの魔女の一番弟子でもあるよ」

「旅縁の魔女……?」

「知らない? アヴェリスティーヌって聞いたら、魔法使いで知らない奴なんていないけど」

「い、いえ。祖母に冒険譚を聞かせてもらったことがあるだけで詳しくは……でも、クリスティアさんはどうしてこの森に?」

「まぁ、旅をしてるって感じかな……色死獣に襲われてるなんて、災難だったね」


 少女、クリスティアは僕の隣に座る。

 ……きっと、他の色死獣に襲われないように、ってことなのかな?


「貴方がいなかったら、きっと、僕死んでました。感謝してもしたりません……何か、お礼を」

「いいよ、気にしないで。たまたまポーションの材料を採取してる時に君を見かけたってだけだから。子供がこんな森の中にいるなんて、ダメじゃない」

「す、すみません……でも、僕、すぐにでも魔法使いにならないといけなくて」

「どうして?」


 クリスティアさんがミルクを一度口にしてからこちらに目線を送ってくる。


「ぼ、僕、王都にいる父さんと母さんに会うためにはやく魔法使いになって、お金を稼がないとだめなんです!」

「……宮廷魔法士とか、魔術師とかじゃなくてなの? だったら、大変だと思うけど」

「ど、どうしてですか?」

「その説明をするなら、まず君の村に戻ってからかな。とりあえず、君の安全が確保されない限りは説明が難しいよ。とりあえず、もう遅いし、寝ない?」

「……わかり、ました」


 アノスは納得できなかったが、渋々毛布をかぶる。

 クリスティアはアノスが完全に眠りにつくのを確認してから就寝した。

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