第34話 外見は変わっても、愛は消えない

「今度、生まれ変わったらさ・・ちゃんと本当のイケメンになれると良いな・・・薬なんか飲まず・・・自然な形で・・・さ」

「歩太郎!やめろ!」

ビルの窓から吹き荒れる風。それは歩太郎の身体をすべて包み込もうとする死の風。それがすべて歩太郎を包み込めば・・・彼は・・生まれ変わる・・・

永遠の眠りと、ともに・・

「やめて!歩太郎!」

「!?」

耳の鼓膜を揺るがす女の声。その声の主は・・

「・・・美崎・・・愛・・・・?」

「ハァ・・・ハァ・・・・ハァ・・・」

ビルのエレベーターが開いた音はしなかった。まさか自力で階段を上ってこの階まで?

「ハァ・・・ハァ・・・あんた・・・醜 歩太郎でしょ・・?」

免太郎に殴られすぎて、イケメン顔が台無しになった人工イケメンの歩太郎に、美崎愛はまっすぐ、そう言った。

「ああ・・そうだよ・・お前をイケメンになってまで騙していた男、醜 歩太郎さ」

所詮、この女も結局、外見(見てくれ)で俺と恋人になった女。俺の性格を見抜いて、キスをしなかった女。いや、愛のあるイトナミなんて、最後まできなかった女。

「・・・・・・・・・・」

「いや・・・お前の可愛い顔を好きになった俺も・・・同じか・・・同じ穴のムジナだな・・・」

「歩太郎・・」

池 免太郎こと「真のイケメン」は、今にも窓から飛び降りようとする歩太郎を助けようとちょっとずつ、足を動かしては、止まっていた。

『・・だるまさんがころんだの要領だ・・こっちに気が付くなよ・・ぶたろう・・・イケメン牛歩戦術だ・・・』

言っている意味がよく分からない免太郎の思考。それに気が付くはずもない2人。

「・・・もういい・・もうすべてがどうでもいい・・俺は・・・この世界がどうなろうと・・・お前がどうなろうと・・・知ったこっちゃ・・」

「・・歩太郎!聞きなさいよ!」

美崎愛は、叫ぶ。

「なんだよ・・・俺はお前の外見と金持ちのコネを利用しただけの最悪野郎だ・・お前にもう・・愛なんて・・」

「私も、整形美人なの!」

「!?」

「えっ・・」

この場にいる男たちの視線が、美崎愛に降り注ぐ。

「・・ちょ・・・まてよ!」

あの俳優のセリフのマネをする免太郎。

「ふざけるな!お前もかよ!」

誰も免太郎のボケにつっこまないシリアスな雰囲気。

「・・・家にお金がたくさんあるんだもの・・しょうがないじゃない!」

「・・・・いや・・・そういう問題じゃ・・・ないような・・気する」

免太郎は、笑いをこらえながら、真剣に突っ込もうとする。

「・・私は・・愛されたかったの・・・みんなから・・ずっと・・・でも・・ありのままじゃむりだって・・気が付いた・・だから・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・あんたの気持ち・・・わたしもわかるの・・・」

「うそだ!モテないことが、どんなに・・・アレか・・お前はわかるのかよ!」

「すべて理解できるとはいえないよ・・けど・・あなたに寄り添いたいの・・・・」

「・・・・・・」

「・・・わたし・・・」

「・・・・・・・・・」

「あなたのこと・・・・」

「やめろ・・・」

「す・・・」


やめてくれ・・!!」

「歩太郎!」

風に舞う歩太郎の身体。そこに飛び出す女の影。それがぴったり重なりあう。特に顔の部分が。それは窓の外へ飛び出す。


差し出す手。それは2人の身体をつかむことなく宙を舞った。


一瞬の出来事だった。


今日もまた雲一つない晴れの日だった。


つづく


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