第33話 ウマレカワル

「俺を・・・許す・・・?」

真のイケメンこと「池 免太郎」の突然の言葉に耳を疑う「醜 歩太郎」。みんなイケメン・美女に生まれ変わったこの世界。その原因(ウマレカワル)を作った歩太郎(おれ)を突然、許すと言ったこいつは、まるで仏か神のような表情を浮かべていた。

「許すよ・・俺は・・お前のこと」

「な・・なんで・・だって・・さっき・・」

「元に戻らなくてもいいじゃないか・・・顔なんて・・別に」

「・・なんで?・・神(遺伝子)に背いているんだぞ!?俺たちは!」

免太郎に逆に怒りをぶつける歩太郎。

「その遺伝子(神)のせいで、好きな人との恋ができないなら・・意味がないだろ?」

「・・・・・・・・」

「お前の苦労・・努力・・・知らなくて・・ごめんな・・」

「っ・・俺に同情するな!」

免太郎からかけられた優しい言葉に、逆ギレする歩太郎。

「やめろ・・やめてくれ・・優しい言葉なんてかけるな!」

「どうしたんだ?」

「違う・・こんなの・・違うんだ・・俺は・・」

「もういいんだ・・俺たちは・・・同じコンプレックスを抱えていた・・・だから・・友達になれる・・同じ悩みを抱えた友として・・」

「うるさい!性格も、生きてきた来た黒歴史も違う!女にモテまくったお前と、顔が変わっても持てなかった俺・・全然違うんだ!」

「歩太郎・・これからやり直せるさ!きっと」

免太郎の優しい言葉に、心が動きそうになる歩太郎。

「・・・・・・・・・」

「俺とお前で・・」

免太郎から差し伸べられたその手。作り物かもしれない美しい手。それが目の前にあって、自分を導こうと、今、している。


ヤツの罠かもしれない。

「!?」

そうここでも思っている自分は、やはり心の底から穢(けが)れている。奴がまぶしくて、一緒に歩け・・

「クッ!」

免太郎から差しだされた優しい手を歩太郎は、自分の手で弾く。

「痛っ」

「今さら・・・遅いんだよ!」

「歩太郎・・・」

「・・・もう・・決めたんだ・・俺はこの世界に復讐するって・・・いいか・・よく聞け・・みんなが飲んでいる錠剤「ウマレカワル」には副作用がある・・・俺しか知らない・・副作用が・・・それは


48時間後に、みんな、イケメン(美女)ではなくなる・・・」

「なんだって!?」

「そう・・あれは真実の心を映し出す薬・・イケメンからブサメンになった後で・・みんなどうなるかを試す薬・・・そこで・・モトニモドルを飲んでも意味がないのさ。」

「モトニモドルは?それを飲めば顔が元に戻るんだろ?」

「一度変わった細胞をもとには戻せない・・元に戻るためには、もっと・・べつの・・・なにか・・・劇的な・・・」

「それは・・?」

「俺も知らん。俺はウマレカワルを自分で飲み続けているから顔がイケメンのまま・・・つまりみんな、イケメン(美女)になりたかったらウマレカワルを永遠に買い続けるしかない・・そうすれば・・俺は永遠に金持ちでいられる・・」

「・・・なんてことを!」

「整形よりマシだろ!顔にメスを入れるわけじゃない!」

「歩太郎!」

「免太郎・・お前は最初は嫌な奴だと思っていた。イケメンを鼻にかけて、調子に乗っているくせに、女にモテた。その天然な性格も癇に障った。でも、


本当の闇の俺を理解したのはお前だけ・・


良いやつだった・・お前だけには・・俺の闇をもっと知ってほしかった・・・」

「歩太郎・・?」

過去形で話す歩太郎に違和感を持つ免太郎は、次の行動が理解できない。

「ここは高層ビルだぜ?」

「まさか・・」

「・・・・・じゃあな・・・」

空のオフィスの窓を開ける歩太郎。

「今度、生まれ変わったら・・イケメンになれると良いな・・・自然な形で・・・さ」

「歩太郎!やめろ!」

窓から吹き荒れる風。歩太郎の身体を包み込もうとする死の風。それがすべて歩太郎を包み込めば・・・

「やめて!歩太郎!」

その時、免太郎と歩太郎の耳の鼓膜を打つ声が、こだました


つづく

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