第32話 同じ運命だった免太郎と歩太郎

「おまえが・・・?ブサイクだったころがあった・・?嘘をつけ!」

歩太郎の怒りの拳が、イケメンこと池免太郎の顔に伸びる。しかしそれを避けず、真正面から受ける免太郎は鈍い音を繰り返す。

ドゴッ!

「本当の苦しみを知らないで・・よく言ったな!」

「ウソじゃないさ・・俺だって・・どうしてこうなったかよくわからない・・」

「・・・・・・」

「顔が変わり始めたのはいつだったか・・そうだ・・子供のころだった・・それまではよくいじめられていた記憶がある・・それまで・・なんで自分がいじめられていたのか・・よくわからなかった」

口の中にたまった血を吐いて、免太郎は歩太郎に向き合う。

「おまえ・・・まさか・・・」


「そうだ・・俺は・・整形・・だよ・・・」


「!?」

歩太郎は自分の中で、何かか崩れる音がした。生粋(ナチュラル)のイケメンだと思っていたやつ(池 免太郎)は、自分の手で顔を変えていたのだ。

「正確には・・おそらく・・親がしたのだろう・・昔の写真はあまり残っていないんで・・いつのタイミングか・・よくわからないが・・・」

「じゃあ・・・じゃあ・・」

「ああ・・・俺はお前は一緒だ・・」

今、目の前にいるイケメン2人。カッコいい顔の中にある対照的な性格に形成された2人

「でもお前は性格が違うじゃないか!お前はなんで俺と違ってそんなにいつも明るくいられるんだ!なんで・・性格が歪まないんだ!」

「・・・・・・・・・・」

「・・・どうして・・・俺と・・・お前は・・・イケメンになったのに・・・・


運命が違う・・・んだ・・・」


目からゆっくりと涙を流す歩太郎。戦意を喪失し、元・イケメンに振り上げた拳をどこに向けていいか、わからなくなっていった。

「俺は・・顔が変わってから、世界が変わって、俺も変わったんだよ。よく覚えていないが・・・」

「・・・・・・・・・・」

「周りが急に優しくなって、親も優しくなって、最初は戸惑ったさ。こいつらは本当の俺を愛してくれてないんじゃないかって・・・本当の俺を見てないんじゃないかって・・」

「そうさ・・顔はつくりもの・・俺だって・・」

「でも・・歯の矯正だって・・同じことだろ・・・」

「歯?」

急に歯の話になって、歩太郎は驚いた。こいつ、何を言い出しているんだ?

「みんな歯並びを良くしたりするだろ?生まれたままありのままにしない。虫歯だって治す。顔に化粧だってするし、ファッションだってやる。髪の毛だって自由にアレンジするじゃないか・・」

「・・・・・・・・・・」

「ありのままじゃなくても・・みんな・・好きになったり・・愛してくれる・・」

「・・・・・・」

「だから・・・顔をアレンジしても・・いいんじゃないか・・って思ったんだ・・・」

「でも・・・生まれてくる子供が・・・」

「ああ・・でも・・それは・・子供が選べばいい・・自分でそのままでいいなら俺はそれを尊重するし、アレンジしたいなら・・・」

「・・・・・・・・」

「歩太郎・・・俺は・・・・


お前を・・許そうと思う・・・・


怒っていないんだ・・」


免太郎は今、自分の前でうずくまって涙を流す歩太郎に、ゆっくりと言葉を投げかけた。


つづく

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