第31話 告白

「俺は顔だけで、ここまで来たんじゃない!」

「!?」

イケメンこと「池 免太郎」の右ストレートが、「醜 歩太郎」のイケメンもどき顔に吸い込まれる。それはすべての今までの想いが乗った初めての拳であった。

ドコッ!

「グアッ」

鈍い音が、この六本木ヒルスの空きフロアに響き渡る。誰もいない空間で、二つの顔を持つ男たちの殴り合いの息遣いだけが、やけに広がっていた。

「ハァハァ・・ハァ・・」

「痛てぇ・・ちくしょう・・・ちくしょうめ・・めんたろう・・おまえ・・」

恨み節が歩太郎の口から洩れる。その顔はゆっくりと歪んでいく。

「・・・なんで・・なんで・・・・お前は・・・」

ふと、オフィスの窓に映る自分の顔が映る。その顔と視線が合う。それは今までに見たことがないほど、ブサイクで醜悪な顔だった。

「なんだ・・これは・・・誰なんだお前は!」

あまりにもそこにいたものが醜悪な顔しているので、歩太郎は叫んだ。

「顔は・・自分の心を映す鏡・・・だと・・誰かが言ったらしい・・」

免太郎が、殴られ腫れた顔でつぶやく。イケメンのくせに、やけにブサイクに見える。ああ、殴ったのは俺か。

「・・・なんだ・・俺がブサイクだって言いたいのか・・ええ!」

歩太郎が殴り掛かってくる。あまりにも直線的で、動きが単調だった。免太郎には、その動きが読めた。だからそこにタイミングを合わせて、自分のカウンターパンチをはなつ。

バン!

「イッ」

鼻から血が噴き出す歩太郎。イケメンどころか、なにがなんだかわからない。所詮、顔なんて、そんなもの。いくらでも崩れる。

「違う。俺もお前みたいに・・ブサイクだった頃があった!」

免太郎は、突然、そんなことを言い出していた。


つづく

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