第30話 顔のすべて

「お前・・顔・・・元に戻ったんだな・・・・あいつめ・・・始末したとか嘘つきやがって・・」

醜 歩太郎は免太郎の顔を見てそう吐き捨てる。その言葉で今まで自分の命を狙っていた真の犯人が、目の前のこいつであることが、免太郎にもわかった。

「・・・いますぐ・・みんなの顔を元に戻せ!」

顔が元に戻った、いやさらに進化した新・池 免太郎は、歩太郎に話しかける。

「・・・・・・・」

「なんだ・・?何を見つめてくるんだ!?・・おまえ・・・BL(ボーイズラブ)を始める気じゃないだろうな!?」

俺に惚れるな、そんな気はないと免太郎は、歩太郎を睨みつける。

「違う・・お前・・本当に免太郎か・・?」

「当たり前だ!このイケメンの顔を忘れたのか!?」

「・・・ああ・・忘れたよ・・・お前のそのブサイクな面にはな!」

「!?」

一瞬で自分との距離を詰めてくる歩太郎は、足が異常に早かった。

「なっ・・」

「遅いんだよ!」

膝蹴りが、免太郎の腹に吸い込まれていく。

ドコッ!

「ぐっ」

何もないビルの空きフロアに、鈍い音が響く。ここには二人の男しかいない。

「おまえ・・・」

「弱いなぁ・・免太郎くん・・・顔だけは良いくせに・・運動神経は普通・・・いや・・豚のように遅いじゃあないか!」

「歩太郎・・おまえ・・」

「俺は・・女にモテるためには努力を何でもやった。どんなことでもやった・・お前はそんな時でもヘラヘラしながら、たいした努力もせず、女を口説いてたのか?この勘違いイケメン野郎が!」

歩太郎の拳から放たれた右ストレートが、免太郎の顔にヒットする。赤く腫れあがる免太郎の顔。

「憎い。生まれついて努力もせずかっこいい顔をしているお前が、憎いんだよ!俺は死ぬほど努力をしたのに、モテたのはわずかだけ。どんだけ今まで苦汁をなめてきたと思ってるんだ!」

左の拳が、免太郎の顔にぶつかる。

「ぐっ」

「ここで、お前を殺してやる!そうすれば、俺の『本当を知っている人間』もこの世から消える。それで俺は権力と財力を手に入れて、この世界の王になる!」

何度も、イケメンの免太郎の顔に自分の拳をぶつけてくる歩太郎の顔は、変わっていった。まるで、鬼のように・・・

「このやろう!このやろう!おまえだけ・・おまえだけ・・なんで、そんな顔に・・」

「・・・・・・・・」

自分の中にある醜い人間の膿(業)が、歩太郎を支配していく。

「おまえだけ・・どうしてそんな顔に・・・」

「・・・・・・・・」

「お前のような顔に生まれてさえいれば・・・俺だって・・・モテたかもしれないのに・・・顔が違うだけで・・・こんなにも・・・こんなにも・・・」

免太郎の顔に振り上げる拳が、ゆっくりと静かに収まりつつあるのを、免太郎は、みのがさない。

「うおおおおおおお!」

免太郎は自分の右拳を振り上げて、まっすぐ歩太郎に向ける。

「!?」


「・・・・・顔だけが・・・俺のすべてじゃない!」

免太郎のその拳は、今、歩太郎の顔に、まっすぐ吸い込まれていった。


つづく

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