第29話 終わりの始まりの対決、再び
『俺の顔ってイケメンだと思う?』
男は尋ねる。
『まあイケメンっちゃイケメンだけど、それをいっちゃうあたりイケメンじゃないよね』
女が言う。
『・・そうなんだ』
女の言葉に怒ることもなく、ひとり納得する男。
『まあ、私は男は顔とかじゃなくて、雰囲気がいいなら好きだよ。あと自分に自信があるなら・・かな』
『え?』
聞き返す男
『だから明るくて前向きで、お金がなくてもちょっと抜けている、天然な男が私は好きだな』
『それって・・・』
ふと、急にそんな昔のことを思い出す自称イケメンこと、「池 免太郎」。結局、そのことを言ってくれた女の子と、ちゃんと付き合うこともなかった。降られるのが怖かったから、遠回しの自分の『好きの告白』にも気がつくことはなかった。
「・・顔かぁ・・」
醜 歩太郎の顔に変えられたのも、今や、遠い過去。元の顔に戻った実感もない。鏡を見ても、自分の顔に見えない。ブサメン顔のときでも、なぜか自分に女の子が寄ってきたし、女のことも素直に話せた。むしろ女の子と良い雰囲気になったことさえある。
「・・・・なんだろう・・・・・顔って・・なんだろう?」
ウマレカワルという、すぐに自分の外見を美しく変えられる薬は、今や、日本中に広がっている。なんだろう?みんながこんなにも外見にこだわって、美しさを求めている。でも、どこかそれは冷たい印象を感じる。街中でイケメンや美人を見ても、みんな表情は硬く、同じ目や鼻をしている。みんな、兄弟姉妹に見える。
血(遺伝子)はつながっていないのに。
「これが本当の人間の理想郷(シャングリラ)?みんな外見が良くなって、コンプレックスは本当に消えたの?」
誰も答えてはくれない。女狐りんこさえ、自分の目にコンプレックスを抱えていたのかもしれない。でも、それは本当にコンプレックスだったのだろうか?意外とあの切れた細い目が彼女の個性だったかもしれない。でも自分がそれが好きかと言われれば、わからなかった。
「もしかしたら、AI(ロボット)が最適な相手をマッチングしてくれる、そんな出会い系アプリが将来できたりして」
ロボットが自分の最高の結婚相手を見つけてくれて、その相手と結婚する。そんな未来がいつか来るかもと思いながら、自分はその相手と納得して結婚できるのだろうか?という疑問が沸き上がる。やけに今日は頭がよくなっている免太郎は、そんなことを考えつつ、ある場所へたどり着いた。
「・・・ハァ・・・・ハァ・・・・」
ベンチャー企業としてウマレカワルを販売してから1年もたたずに株式上場を果たした「株式会社ライト・アップ」。その代表取締役社長 イケ・メンター氏。顔はどこにも載っていないが、間違いない。奴がウマレカワールを俺に飲ませて、俺の外見を乗っ取っとった張本人、元「醜 歩太郎」に違いない。六本木ヒルスにある超高層ビルの最上階。そこにライト・アップはある。
「お客様・・今日はどのようなご用件ですか?」
ビルの受付担当の女性が、免太郎に話しかける。
「今日はライトアップ社のイケ・メンター氏に会いたいんですけど」
ビルのセキュリティーゲートの中に入るためには、専用の入館証カードが必要。そのためには、何としても、ここから入らなくてはいけない。
「失礼ですが、何時からのご予約ですか?」
「プライベートな話なので、特に時間は設定していないのですが・・」
新・免太郎はそう告げる。
「確認します。少々お待ちください」
「はい」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「お客様・・お名前をうかがってもよろしいですか?」
受付の女性が言う。
「・・・・・・・・・」
「・・・そうですね・・・
醜 歩太郎・・・・
です」
「・・・しゅう・・ぶたろう様・・・ですね・・」
「ええ・・醜(みにく)いに歩く太郎・・と書いて・・醜 歩太郎です・・」
「わかりました・・あちらのソファにかけてお待ちください・・・」
なぜ、免太郎はそんな名前を急に言ったのか、自分にはわからない。しかし、この名前は絶大に効果的だと思った。なぜなら
「醜歩太郎様・・お待たせしました。入館証のカードはこちらになります。こちらでセキュリティゲートをお通りください」
「ありがとうございます」
入館証を首から下げて、新・免太郎は、カードをかざし、セキュリティゲートを通る。
ピンポーン
機械音とともに、閉ざされたゲートが開き、目の前に鋼鉄のエレベーターが6基、広がっている。
「44階・・・」
やつは、本当にそこにいるだろうか?いなくても、何かが手掛かりがあるはず。そこで・・・俺は・・・
エレベーターのボタンをおし、中に入り、44階のボタンをおす。
「・・・・・・・・・・・・・」
ガコン
ゆっくりとエレベーターの箱が、自分の体重と共に、上へ上昇していく。壁に接されていたフロアの数字が一つずつ繰り上がっていく。11・・・22・・・33・・・
グオオオオン
「ん・・・・」
急にエレベーターが、速度を遅め始める。まだ、34階・・40階まではまだ・・階がある・・・はず・・・
ガコン
「!?」
39階で、止まるエレベーターの箱。暗くなるエレベーターの照明。
チン
いきなり開く目の目の前のドア。そこから光が自分の目にいきなり差し込んで、視界がぼやける。ぼやけながらそこに立っている人物が口を開く。
「ようこそ・・過去の俺・・いや・・・死にぞこないの免太郎くん・・」
「歩太郎おおおおおお!」
「生まれ変わった俺の黒歴史の名前を知っているのは、
この世界でお前だけ!
さあ・・第二ラウンドの始まり・・・いや・・終わりの始まりの
最終ラウンドは・・俺の手で!」
「すべての決着をつける。お前の手で変えた世界を元に戻す!」
「すべてを消滅させる。俺の過去も、お前そのものも!」
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます