第28話 ラストダンスのはじまりは

『あなたは自由になって・・・』

「君は!?」

俺は目を覚ますと、俺は知らない場所で、知らない女の横で、ベットでいつのまにか寝ていた。夢を見ていた。夢の国で知らない女とデートをしている夢・・のようなもの。しかし、この横にいる女は違う。もっと醜い顔をしている。

「・・・ここは・・・?はやく・・・ここから出ないと・・・」

頭が痛い俺は鏡を探す。自分が今、どんな姿なのかを確認するために。あった。部屋の奥。洗面台の上に汚れた鏡。それをのぞき込む。

「・・・・・どうやら・・・ケガとか・・・ない・・・よう・・・だ・・?」

身体にケガ一つない。しかし、何かが違っていた。

「・・・えっ・・・・これが・・・俺の顔・・・?」

歩太郎だったあの顔は、俺の目の前にいなかった。その代わりに・・

「・・・イケメンの顔に・・・戻った・・・・俺の顔が元に戻った!」

喜んだ池 免太郎。しかしよく見ると、ちょっと違う部分もあった。

「・・・・・・・?・・・・・・・」

イケメンの顔に歩太郎の面影もある。ブサイクでもない。イケメンも過ぎない。ちょうどいい顔。なんだろう。まるで歩太郎と免太郎を足して合わせたような顔。しかし免太郎のようにも見えなくもない。

「そうか・・・これが・・第二次成長期ってやつか」

免太郎はそう、納得した。

「良かったぁ・・永遠に俺の顔は中二病に犯されるとこだったぁ・・・これで大人の仲間入りかぁ・・」

どうやら、まだこじらせているようにも見えるが、天然でポジティブな免太郎にとっては、自分の顔がイケメンだと思えば、イケメンなのだった。

「さて・・早くここから出ないと・・」

脱ぎ捨てていた服で着替えをして、ベットで、永遠に眠っている女を起こさないように静かに立ち去ろうとする免太郎。

「・・・・・・・・・・・・」

自分と引き換えにブサイクになったような顔。なんだろう。何か見たことのある顔の女。夢に出てきた女の人にも見える。

「・・・・・・・・・・」

彼女にそっと毛布を掛けて、部屋を出ていく免太郎。きっと彼女も幸せになってほしい。この世界は顔だけではないことをあの女の人から知った免太郎は、外へと飛び出した。

「!?」

しかしその外の世界は、いまや、とんでもないことになっていることを免太郎は知らない。

「え?え?」

いつのまにかまぶしいくらいの美しい人たちが、俺の目の前を歩いている

「なんで芸能人みたいな人ばかりが渋谷に歩いているの?」

目の前には美男美女が街にあふれ、誰もが自信に満ち溢れた姿で、ショッピングやランチを楽しんでいた。ナンパは当たり前。カップルでデートしていたかと思えば、すぐに違う美人に声をかけるイケメン男子に、それを軽くあしらいながら違うイケメンに視線を送る可愛い女の子。

「なんだ・・・?・・いつのまにか・・ここは天国なのかな・・?」

しかしどこかで美しいのに顔の表情が硬い美男美女たち。なんだろう。みんな兄弟姉妹のように顔が似ている。まるで整形で整えたようにも見える。

「あれ・・?」

自分の声をかける女の子。すっごい可愛い

「ん?」

振り向く新・免太郎。

「・・あ・・免太郎じゃない・・ん・・・?ちょっと違うかな・・」

女の子は戸惑っている。

「え・・きみ・・・だれ・・・?」

こんなかわいい子、知り合いでいたかな?俺は、改めて名前を聞く。

「ああ・・ウマレカワルで顔変わっちゃったもんね・・わたし・・女狐りんこ」

「へ?」

彼女の目は、ぱっちり二重になり、顔も小顔で鼻も高くなり、あのキツネの面のような顔は、どこかに行ってしまっていた。

「え・・・あ・・・・」

「あんた・・もしかして・・・免太郎?歩太郎?どっち?」

女狐りんこが、自分を見つめてくる。きれいだ。まるで北〇景子のように美しい顔。いや、別に北〇景子が整形とかいうつもりはない。って誰に言い訳をしているのだろう。

「・・・まあ・・どっちでもいいや・・ねぇ・・私ってきれいになった・・・?」

究極の質問をする彼女。きれいだ。きれいだけど・・

「・・・・・・・・・・」

「きれいでしょ?きれいだよね」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・ちょっと聞いてる?」

「・・・・・・・・・・・・」

「どうしたの・・?」

「・・・きれいだよ・・・」

新・免太郎はそう言った。

「やっぱり。ウマレカワル飲んでよかった」

女狐りんこは、目を細めずに、笑った。

「・・・でも・・・」

「ん・・・?」

「前の顔もよかった・・」

「えっ?」

「・・・雰囲気美人だったよ・・・さよなら・・」

「ちょっと、あんたどっちなのよ」

新・免太郎は理解した。この騒ぎは歩太郎の仕業であると。そして女狐りんこもまた、別の生きがい(しあわせ)を見つけたのだろう。もう、彼女も当てにできない。

「白雪(みゆき)待ってろ。俺はこの世界を変えて見せる。みんなが望んだ、醜悪(ぶさいく)が完全に消えた世界を」

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