第26話 イケメンの王 誕生
『好きなんだ・・僕と付き合って・・』
『・・無理・・・』
『どうして?』
『だって・・・顔がタイプじゃないもの・・』
『顔だけがすべてじゃないだろ!?中身を見てよ!』
『一番、付き合ってて、見るのは、結局、顔じゃん。わたし、イケメンが好きなの』
『そんなのって・・ないじゃん・・努力できないじゃん・・』
『ほかに好きな人を見つけてよ・・・さよなら・・』
『なんだよ・・・今までの苦労って・・何だったんだよ・・・』
『・・・・なんのために・・努力してきたんだんだよ・・・』
『誰か・・教えてくれよ・・顔を超えられるものがあるなら・・・誰か・・教えてくれよ!なんでもいいから・・どんなことでもするから・・・』
「悪魔に魂を売ってもいい・・どんなことをしても・・いい・・
俺は・・・どんなことをしても・・
最高の顔(外見)を手に入れる。
そして、今まで俺をふった女たちに『復讐』してやる
それが俺の生きる意味・・」
立ち上がり、ドアを開ける。
「イケ・メンターさん。出番です」
俺を呼ぶ声がする。そうだ。俺は、今、イケメンなのだ。最高のフェイス、最高の中身、頭脳、身体能力・・・・
すべて他人から奪ったもの(コピーしたもの)
足が速ければ女にモテると思い、世界最速の男から能力を奪い、足が速くなった。
でも、モテなかった・・
頭が良ければ女にモテると思い、東大出身のIQ200の男に薬を飲ませ、今や頭の回転が速くなったが、女は頭のいいだけの俺を相手にしなかった。
顔が、『アレ』だったから。
今度は、顔をイケメンにすればモテると思い、クラスで勘違いイケメンの池免太郎の顔を奪った。
なのに、最初の印象が良くても、なぜかモテなかった。
後に残ったのは性格(中身)だけ。
これは同じクラスで性格が良い「性格良夫」から奪った。
これで俺は、完全体になった。完全体になった「はず」だった。
「醜 歩太郎」という過去の俺の役割は、
「池 免太郎だったもの」に押し付けた。やつは俺の黒歴史を全部、引き受けて、
そして俺はやつを抹消した。
この世から・・・
話は聞いた。暗殺者の女はよくやってくれた。あいつも、もう、用済み。俺の秘密を知っている人間は、全員、この世から亡くならせる。
免太郎(イケメン)はこの世にたったひとり、俺だけでなければならない。
そして忘れていた。完全体になった俺に
さらに人間から「神となるために必要なもの」。それを発表する。
それは
「本日は、お忙しい中、このイケ・メンターのためにお集まりいただきありがとうございます」
ここは、ドーム型のイベント会場のステージ。今日のために急遽、作られたイベントステージの周りには今日のための集めたマスコミたちのカメラの光とシャッターが、イケ・メンターこと、「元・歩太郎」を映し出す。
「・・・・・・・・」
女の子の歓声も耳に聞こえる。そのたびに、元・歩太郎は小刻みに震えた。自分の姿(外見)に喜んでいる声。こんなに顔をさらしても、自分は自信が持てる。こんなにもカメラを向けられても、動かない、揺るがない自信。すべて生まれ変わった自分をみんなが見ている。そんなに目に見える形で、自分が確かにここにいる。それだけで、称賛される。なんて良いのだろう。美形たちは、こんな世界を見ていたなんて・・
「今日、お集りいただいたのは、他でもありません。皆さんに弊社『ライト・アップ』からお知らせがあります」
イケ・メンター(元歩太郎)が立ち上げた創薬系スタートアップ企業ライトアップ。その第一弾の新薬発表会。そこでイケメンターは言う。
「どんな薬なんでしょうか?早く教えてください」
マスコミの一人が、声をかける。
「わかりました。教えましょう。今回、製造販売申請をした新薬ですが
その名前も
IK20231015 ウマレカワルになります」
「ウマレカワル?どういった薬でしょうか?」
「はい。この薬は錠剤タイプの薬を飲みさえすれば、整形をしなくても、自分の好きな顔に変わる。画期的な薬になります」
おお!
マスコミの中からどよめきが聞こえる。カメラがさらに元・歩太郎を捉える。
「いつ、承認が下りますか?」
「今年の12月までには必ず承認が下ります。年末までにはクリスマスプレゼントとして皆さんのもとに届けられます」
「副作用はありますか?」
「ありません。」
「一度、顔を変えたら、元に戻らないのではないですか?」
「大丈夫です。その時はモトニモドルをセットで販売します」
「みんなが可愛いやイケメンになるということですか?」
「その通りです」
「顔の個性がなくなるのではないですか?」
「大丈夫。いろんなバージョンに変化します」
「もう、これで、皆さんは外見で悩むことはなくなります。
私は、この世界から、外見のコンプレックスをなくすために
この薬を開発しました。
人類は、外見というコンプレックスから卒業し
次のステージに行くのです!」
拍手と歓声が元免太郎を積み見込む。誰もが望んだ世界、外見から解き放たれた世界
それが、すぐそこまで来ている。
イケメンターは、拍手の中で、思う。
『・・・ウマレカワルで・・俺は・・・世界の支配者になる・・・』
人々の美しくなりたいという欲望のまなざしは、今、一人のイケメンに集中していた。
つづく
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