第25話 眠りの森のブサメン
「・・何をされているんですか?」
歩太郎の顔にされてしまった元・免太郎は、レンタルイケメンのバイトで女と千葉にある夢の国のレストランでランチを楽しんで、そして、さっきまでいたトイレから出てきていた。
「えっ・・いや・・・」
女は、慌てて手を振り、思わず手を引っ込めた。
『・・・・なんで私は・・もっと早く・・・』
後悔をしても遅かった。慎重に錠剤型の毒を、元・免太郎のコップの水に盛ろうとして、女は失敗をしていた。
「ん・・?」
だが、彼女は違和感を覚える。手のひらにさっきまであった錠剤の感触がないのだ。
「・・・えっ・・・」
周りを見渡す。テーブルの下に視線を落とす。自分が持っていた白い錠剤が、どこにもない。床など、どこかに落ちていたら、すぐにわかるはずだが、それがどこにも見当たらない。
「どうしたんですか?」
不審に思ったぶさお(レンタルイケメンの際の免太郎の源氏名)がこっちを見てくる。
「いえね・・コンタクトレンズが落ちちゃったかな~~なんて・・」
「本当ですか!?一緒に探しますよ!」
「いいんです!一人で探せます!」
女は、自分たちのテーブルの下や周辺を探したが、どこにも錠剤らしきものはなかった。
『・・・ちょっと大きめの錠剤なら、落としたらすぐに見つかるはず・・・なんで・・?』
こんなミスは初めてだった。確実にターゲットを静かに殺してきた自分が、こんなにも初歩的なミスをするなんて・・・
『・・・・・・・・・・どこにもない・・ってことは・・ないと思うけど・・・ん・・・?・・・まさか・・』
目の前の食べかけのリゾットや水が入ったコップが目に入る。
『・・・えっ・・・まさか・・?・・』
匂いも味も特にしない暗殺用の毒の錠剤は、体内に入っても証拠は一切、出てこない。一度、入ったら速攻で溶けやすく、料理に入れることも可能。だから今まで使ってきた。
『・・・まずい・・・』
料理がまずいわけではなく、こればっかりは確かめようがない。確かめたら、私が死んでしまう。
「・・・・・・・・」
「どうしたんですか?食べないの?」
「・・うん・・・ちょっと・・お腹・・いっぱい・・・」
お腹をさする女。もういいやという意思表示を示す。
「じゃあ・・・・全部、俺が食べて良い?」
『なぜ・・そうなる!?』
いや、優しい・・じゃない・・むしろ食べてくれた方がいいけど・・そうじゃない・・常識的に・・『そうはならんやろ!』と女は目の前で自分の食べかけのリゾットを頬張るブサメンを見て、心の中で突っ込んだ。
「あ・・・ありがとう・・」
「残したら夢の国に悪いしね・・SDGsってやつ?」
「知らないでしょ。その言葉」
「うん。よく知らない。でも言葉の響きがかっこいいから使っている」
「ぶさおなのに?おもしろい」
涙がいつの間にか出ている女。
「どうしたの?泣きながら笑っているけど・・?」
ぶさお(元・免太郎)が自分を気遣ってくる。
「いや・・・ごめん・・・」
「謝ることないよ・・・」
「本当に・・・ごめん・・・」
「・・・・・・・・・・」
意識が遠くなる元・免太郎。
「えっ・・・」
気が付くと、テーブルの上に頭を打ち付けて、意識を失う。
「・・・ごめんね・・・・」
女は、しばらくの間。その場で泣いていた。
つづく。
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