第24話 真実の愛を知って

「う・・・」

口を押える元・免太郎。ほくそ笑む目の前の女。すると

「うまい!」

「でしょう!?」

はたからみたら、美女と野獣。正確に言うならブサメンと美女のカップル。はしゃいでいる元・イケメンのブサメン(書いてて意味が分からない)とそれを微笑みながら見る謎の大人の女性。ここは千葉の海を埋め立てた、ネズミが支配する夢の王国にあるレストラン。中に人間がバイトで入っているネズミのキャラクターが、ゲストの食事している席を周り、『ハハッ』と不敵に笑いながらハイタッチのサービスをするだけで、涙を流して喜ぶゲストを見ながら、二人はお皿に盛られた料理に。

「あっ、三木さんが来たよ!」

「違う。ネッキー・マウス」

「そうだっけ?」

「キャラクターの名前、覚える気ないでしょ?」

「まあね」

さらっという元・免太郎。

「そう言うのは、ほんとのこと言わないの」

「なんでさ?」

「たまにはウソをつくの。女の子の気を引くために」

「ウソはつけない性格なんだ」

コップの水を飲み干す免太郎。

「だろうね。わかる」

「何がわかるのさ?」

「・・・君のこと」

急に、真剣な目に変わる目の前の女。

「私のこと・・知りたくないの?」

「・・・・・・・・・」

「例えば・・・名前とか・・・」

「あなたはレンタルイケメンのお客様ですから・・教えてくれるなら・・聞きたいけど」

急に、お客と依頼者に変わる元・免太郎と大人の女性。夢の王国で夢から覚めかける2人。美女と野獣のBGMが店内に流れ始める。

「・・そこはビジネスなのね」

「・・・・・・・・・」

なんだろう。さっきまでの雰囲気が、ガラッと変わっていく。デートだった世界が、急に現実に変わる。まるで魔法が解け始めているように。

「・・・あなたは・・なんでレンタルイケメンなんかやっているの?」

女はそう聞いた。

「・・・・助けたい人がいるんです・・・取り戻したい未来があるんです・・」

「・・・・・・」

「信じてもらえないかもしれないんだけど・・」

「・・・・・・」

「自分は、本当にイケメンだったんです・・・・身も心も」

「・・・・・・・・」

「笑わないんですか?」

元・免太郎は、飲んでいたコップをテーブルに置いた。

「冗談で言っている・・目じゃない・・んだもの・・・あなた」

気が付くと、目の前の顔が、イケメンにうっすら見えてくる。さっきから・・その顔はやけに女の目に焼き付き始めている

「・・・お金がいるんです・・だから・・あなたと今、デートしているんです・・」

「知っているわ・・これが私たち・・・本当のカップルでないことも・・」

「・・すいません・・」

「謝らないで・・何も悪いことなんかしてない・・」

女は、そっと手をテーブルの上に置いた。

「でも・・・あなたを好きです」

「!?」

心に響く言葉。それが急に自分の心を温かくする。

「今は、あなたのことを好きでいる自分がいる。それは・・・魔法でもなんでもない。本当です」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・ビジネスライクだと思ってもいいんです・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・トイレ・・・行ってきます」

席を立つ元・免太郎。

『来た!』

女は心で叫んでいた。今しかない。テーブルの上に置いた手をひっくり返す。そこには白い錠剤がひとつ、手のひらの中にあった。

「・・・・・・・・・・・」

つばを飲み込む。ふと、目線をおとす。さっきあいつが口に含んだ水が入ったコップが目の前に飛び込んでくる。

「・・・・・・・・・・」

周りを見渡す。こちらに目線を送る人間は誰もいない。

『いま・・しか・・・』

『・・あなたのこと・・・今は好きです・・』

「・・・・・・・・・」

手が震える。何をしているのだろう?ここは夢の国。奴は、野獣。どんな人間でもない。人間の顔を・・・して・・

「・・・・・・・・・・・・」

なんだろう。心が手を動かさない。一瞬で終わる喜劇の幕を降ろせない。こんな簡単なことが、なぜ自分にはできない。あいつに、なんで、私が心を動かされる?こんなこと、プロではない。こんな・・・

「・・・どうしたんですか・・・・?」

「あっ・・・・」

あっけない幕切れは終わった。


私は、いつのまにか、美女と野獣の物語に入ってしまっていた。


真実の愛を知ってしまっていたのだ。


つづく



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