第23話 夢の国での元イケメンと謎の女

「ねぇ・・楽しい?」

「楽しい・・かなぁ・・」

千葉なのに東京と名乗る、世界一有名なネズミが牛耳る、夢と魔法の王国で、絶叫系のアトラクションに乗りまくり、足が震えている元・イケメンの免太郎は、レンタルイケメンのバイトで知り合った謎の大人の色気を放つ女性と、昼間からデートを楽しんでいた。

「あはは・・絶叫系、苦手なんだ?」

「・・いやあ・・そんなこと・・あるんだけど・・」

「あるじゃん!」

「君は絶叫系は得意なの?」

「まあまあね」

「ふへぇ~」

何個、絶叫系のアトラクションを乗ったのか覚えていない。こんなに乗り物を乗ったのは小学生以来だ。身体が追い付かない。

「・・・・・・・・」

「今度は何に乗ろうか?」

彼女は平然とした顔で、歩太郎の顔をした元・免太郎の顔を覗き込んでくる。

「ちょ・・ちょっと」

「ん?」

「ランチ・・」

「あれ乗ろうよ!」

ランチという名の休憩をしようとした元免太郎の腕を引っ張る。

「ええ!?」

「あれ乗ったら、ランチね」

彼女の指をさす先にあったのは、お化け屋敷型ジェットコースターである「ホラー・アパート・ライド」と呼ばれたアパートの中をコースターで駆け巡るアトラクションだった。

「・・・・・」

その場で固まる元・イケメン。

「もしかして・・お化け・・も苦手?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「お化けとアトラクション・・俺、大好物!」

顔が引きつるイケメンだったもの。

「やった!」

「行こう!そのあと、ご飯食べようね!」

念を押すイケメン。

『女の子が望む夢をかなえなければ。ここはあのネズミが支配する、夢の王国なんだ!』

そう自分に言い聞かせて、

「行きましょう、お姫様」

いきなりぶさお(元・免太郎)は手をつなぎ、彼女を引っ張る。

「えっ・・」

レンタルイケメンでそんなサービスは、頼んでいない。ので、急に手をつないだぶさおに目を丸くする女。

「・・・・・・・・・」

なんだろう。このブサメン。サイコパスすぎる・・いきなりこっち(女)の許可を得ずに手をつないで・・・これで女が喜ぶ・・とでも・・

「・・・・・・・・・」

しかし、自分のそんな予想に反して、なんだか手があったかくなっていく。なんだろう・・こんなにもブサメンなのに・・なんか・・たのしい・・

「どうしたのお姫様・・」

「ううん・・なんでもない・・」

ポジティブな人間は一緒にいるだけで、楽しい。それだけだ。顔ははっきりタイプじゃない。イケメンに一瞬、見えたのだって、砂漠の蜃気楼みたいなもの。そう、だ。

「2人乗りだって!」

「まあね」

「ゴーストが僕らの席に乗ってくるんだって!こわいね」

「まあ・・ね・・」

「あ・・あいつら・・この暗闇でチューしてる!いいなぁ」

「・・・・・・・・」

まるで・・子供だ。子供のようにはしゃいでる。私に気を使ってる?つまんなそうな顔を一瞬したから?この男・・ただのサイコパスじゃないのかも・・


意外と優しい・・のかも


「面白かったね!」

「・・・・・・・」

「どうしたの・・?」

「・・ううん・・なんでもない・・」

「お腹痛い・・?」

「ちょっとアトラクションに乗って気分が・・」

「ごめんね。俺だけはしゃいじゃって・・」

「・・・・・・・・」

こいつを殺すタイミングがどこにもなかった。あれだけスキだらけなのに。なんか、子供を殺すようで、気が引ける。お金は前金でもらってるのに・・

「・・・・・・・・・・・・」

「そうだ・・ランチにしよう!そうしよう!」

元・免太郎は、そう言って、ホラー・アパート・ライドを出て、周りを見渡す。

「いいよ・・ぶさおくん」

「いや・・ご飯を食べれば、気分が良くなるよ!」

人の話を聞いてるんだか、聞いてないんだか。まったく無理して・・

「あ・・あれ・・・!」

目の前に、おしゃれなレストランが見える。

「あそこにしよう!」

「えっ?」

また、ぶさお(元・免太郎)は自分の手を引っ張っていく。今度は、彼の手は冷たい。緊張しているのだろうか?こんな私のために必死になって・・・

「・・・フフッ・・」

急におかしくなり笑うわたし。

「どうしたの?」

「・・なんでもない」

まだ、時間はある。思い出せ。私はこいつを好きにならせるんだ。そしてこっちのペースにもちこんで、


優しく殺してあげる


女は、免太郎の手を握りながら、強く自分の手で握り返す。それは、暗殺のゴングが鳴った瞬間であった。


続く

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