第20話 レンタル・イケメン

「こんにちは~レンタル・イケメンのご指名ありがとうございます。ぶさおです」

渋谷のハチ公前で、待ち合わせ場所に来た男は、そういった。

「・・はっ?」

女は『ありえない』といった顔で、男を見た。その男は、なんというか、イケメンではなく、ただの勘違い野郎だったからだ。

「あの・・・レンタル・イケメンを利用したんですけど・・」

「ええ・・間違いないですよ」

ぶさおと名乗った男は、自信満々にそう言った。

「・・・ど・こ・が?」

怒気を含んだ女の言葉に、何か問題でも?とまったくひるまない男。やばい、こいつ勘違い野郎ではなく、『サイコパス』だ。

「・・・イケメンなんです。心が・・」

「はっ?」

女は、魚のように口をパクパクしている。

「だから、顔はブサメン、心はイケメンのぶさおです。よくひとからブサ・イケメン戦士とか言われたり・・・してないんですけど」

「言われないんかい!」

思わず突っ込んでしまう女。これはぶさおのペースだ。

「今度イケメンとデートするから、本番の緊張しないように練習をお願いしたいんだけど・・・」

「依頼内容は知ってます。デートの予行練習ですよね。だからイケメンの心を忘れていない俺がイケメンの何たるかを教えますよ」

自信満々が消えない男。なんだこいつ、マジでポジティブ過ぎる。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・なにか・・・?」

「あ~・・・・もう・・・・」

女は頭を掻きむしった。

「さあ、今日は天気もいい。夢の国にでも行きましょうよ」

「・・・キャンセル」

「え?」

「だから、キャンセルで。それに正直、イケメンの心ってよくわからん」

「・・・それは困るなぁ・・・」

「大丈夫。あんたにお金は払う。だからキャンセル」

「・・・・いいんですか・・・」

「今日は・・少し笑ったから・・許してあげる・・・今度、同じこと言ったら、そのときはぶっ飛ばす!」

女は、そう言って元・イケメンの免太郎に現金を手で渡すと、渋谷の喧騒に消えていった。

「いいのかなぁ・・」

残された元・免太郎は、なにもミッションをしていないのにお金をもらった罪悪感を感じていたが、お客さんが、満足しているならいいかと納得した。

「あんた・・・何やってんの?」

後ろから、声をかけてくる声が一つ。

「め・・女狐さん・・」

この間、校門で口論をした相手が、目の前に立っていた。制服を着ているところを見ると、学校帰り?にしてはまだ早い時間だ。

「今日、学校じゃん。あんたサボってナンパでもしてるの?」

「女狐さんも・・休み?」

「今日はちょっと寄るところがあるから、午後から登校」

「そうなんだ」

「あんたは?」

「休学してるんだ。アルバイトをして」

「ナンパのバイト?」

「レンタルイケメン」

「えっ?」

女狐りんこは、目を細めた。

「その顔で?」

「性格で勝負」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「アルバイトでお金稼いで・・なんかするの?」

「・・・・・まあ・・・ね・・・」

「・・・・・・・・」

何か、言いたくないことを隠している。女狐りんこは、細い目で直感的に思った。

「そういやさ・・・この間は・・・悪かった・・・」

「えっ・・?」

急に謝ってきた女狐。

「免太郎くんとケンカみたいになっちゃってさ・・あんたにもそのイライラをぶつけて・・ごめん」

「・・・・・・・・・・・」

「性格良夫くんも休学してるし・・・それに免太郎くんも・・・」

女狐りんこの寂しそうな横顔を元・免太郎は見る。自分にかかわった人間が、すべて学校を休学している事実を重く受け止めて、もしかしたら自分に謝罪をしてきたのかもしれない。

「ねぇ・・・なんか・・・最近・・変じゃない・・?」

「なにが・・?」

ギクリと、緊張が元・免太郎の中に走る。

「歩太郎君は・・何か知っているんじゃないの・・?」

そうか、自分は今、歩太郎の顔をしているんだと、初期設定を忘れそうになる。

「君は・・・この件はかかわらないほうがいい・・・」

「・・・なんか・・嫌な言い方」

目を細める女狐りんこ。自分がかぶっていたキツネの面のように。

「そういえば・・・知ってる?美崎愛のこと?」

急に、話が変わることに、元・免太郎はちょっとついていけなかった。

「・・・知ってる・・・可愛い子だよね・・」

最初はおしとやかなで美人な女の子、という印象しかなかったが、怒るとちょっと男っぽい口調の子になる、そんなミステリアスで二面性がある女の子だった。まだ、ちょっと好きだったかも。もう少しで、いいところまでいけた女の子。元・免太郎は、彼女のことを思い出して、すこし照れていた。

「あの子・・・・最近・・付き合ってるらしいよ」

「!?」

一気に、地獄へ叩き落されるキモ・イケメン戦士。女狐りんこのその衝撃的な告白に心臓が握りつぶされそうになりながら、かろうじて出てきた言葉。

「だ・・・・だれ・・・と・・・?」

許さん。神が許しても、元・友達以上恋人未満のイケメンである俺が絶対に許さん。

「もしかして・・・ショック受けてる?」

女狐りんこが、そう煽ってくる

「う・・うけてねーし・・べつに興味ねーし」

「じゃあ・・言わない・・」

「言って・・気になる・・どこのイケメンの骨かどうかもわからん相手じゃん・・」

「つまんないよ・・順当すぎて


あのイケメンの池 免太郎よ」


「!?」


いろんな意味で身近なところで一気につながった運命の赤い糸。元・免太郎はこんなところで、世間の狭さを実感していた。

「今から、いくべさ!」

イケメンっぽくないしゃべり方で女狐りんこを誘う元・イケメン。

「どこに?」


「美崎愛の豪邸だよ!」


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