第19話 ブサ・イケメンの勇者

不審な男によって銃で撃たれた真島白雪(みゆき)は、救急車で運ばれて病院で眠っている。


それは、まるで魔女の罠によって毒りんごを食べた白雪姫のように。


それを見届けたイケメン王子こと「元・池 免太郎」は転校生でブサメンの顔を持つ醜 歩太郎によって変な錠剤、ウマレ・カワールを飲まされ「醜 歩太郎」のようなブサメンの顔に転生した。しかし彼は、イケメンのプライド(心)だけは、まだ、忘れていなかった。


「・・・俺の心は・・・まだブサイクにはなっていないぞ!歩太郎!」


彼の目は、自分に薬を飲ませ、ブサメンの顔にした張本人に向かっていた。


「この男を知らないか?」

カメラで隠し撮りをした写真を通りの人間に見せる男。黒いコートとマスクと帽子。それに黒縁のメガネを自分の身体にはめ込んで。

「・・ああ・・あそこの地下にあるバーに入っていくのを見たよ」

その写真を見た男は向こうを指さして言った。

「本当か?ウソだったら・・」

「間違いねぇよ。あのブサメン顔は・・・」

「・・・確かに・・・」

含み笑いをする男。

「ありがとよ・・」

そう感謝を込めて自分の脇腹にあたる、冷めたい何かを引く男。

「・・・・・」

男は壁にもたれかかって、暗闇の中でそのまま沈み込んだ。

「・・ここに来たのは内緒だぜ、永遠に」

階段を静かに降りていく。バーの看板が暗闇の中で虹色のように光り輝いている。

カラカラ

「いらっしゃい」

暖かいロウソクのような色をフロアいっぱいに灯したバーの店内。こんなおしゃれなバーにいるはずのないあのブサメン顔は

「あっ・・・」

男は帽子を深くかぶる。そこに相手を見つけた。

「・・・・・・・・」

暗い店内で丸テーブルにひとり。女もいない中でビールらしきものを立ったまま飲んでいる。顔は少し赤くなっているが、どうやらやつで間違いない。

『歩太郎の顔をした・・元イケメン・・・あれが池 免太郎か・・』

周りを警戒するわけでもなく、ひとりで、ビールのような酒を飲んでいる。

『・・・確か未成年だろうが・・あいつ・・・』

事前調査では高校生だったはず。こいつはとんだ法律違反・野郎だ。元イケメンの名が泣くな。ブサメンになったから自暴自棄になったのだろう。そんな当たりをつけて、男は奴の近くのテーブルに移動し、

「お客様、ご注文は?」

ウエイターらしき人間が、男の近くに寄ってくる。

「ミルク」

人差し指をまっすぐに垂直に立てる。

「おふざけで?」

「冗談。とりあえずハイボール」

「かしこまりました」

ウエイターが、カウンターに向かって歩き出す。

「・・・・・・・・」

男は、元・免太郎を観察している。すると、あることに気が付いた。

『・・やつめ・・・なんということだ・・・おそろしいほど・・・ブサイクだ・・・男の俺でも思うんだから・・・女ならなおさら・・・・やつめ・・女とキスしたことあるまい・・・あの顔で・・俺の勝ちだ・・』

勝手にマウントをとり、勝手に勝利宣言をする男はポケットにしまいこんだ煙草の箱を取り出し、ライターで火をつける男。

「ふぅ~」

「こんばんわ」

「!?」

声がする。振り向くと、自分の横顔の近くに、浮かび上がる一人の男。

「ゴホゴホ・・・なんだ」

「すいませんね。この店・・禁煙なんすよ」

「・・・・えっ・・・バーなのに・・・?」

キョロキョロと店内を見渡す男。壁際にタバコの絵にバッテンの文字がついた絵が飾らている。

「だから、これは没収です」

「触るな」

男は抵抗する。

「それと・・・あなたを逮捕します」

「えっ?」

急に声が低くなる男。なにか俺は失敗(ミス)でもしたのか

「これ・・・」

目の前の男の手には、銃らしきものが握られている。

「・・バカ・・・な・・・」

慌てて男は、自分の懐にしまってあったサイレンサー付きの銃をまさぐる。

「ホラ・・俺の銃じゃ・・・な・・・」

「22時11分 現行犯(逮捕!)」

その言葉を幕開けに、周りにいた男たちが、一斉に銃を持った黒いコートの男にとびかかる。いつのまにか、サイレンサー付きの銃をバールのような警棒のようなもので叩き落し、男を一瞬で羽交い絞めにする。

「・・・てめぇら・・・はめやがったな・・!」

「素人すぎる・・・お前・・プロじゃないな・・」

そんな言葉の応酬があった後、目の前のテーブルでビール風のジンジャーエールを飲んでいた男が一言。

「・・・こわかった・・・よお・・・・」

元・免太郎である。彼は暗殺者に向かっていく勇気がないまま、震えながら、ジンジャエールを飲む役を、演じ続けていた。

「おとり捜査・・のご協力感謝します」

「ありがとう・・・ございます・・・めっちゃこわかった・・」

半べその元・免太郎は、ブサメン顔でちょっと泣いていた。元・イケメンが台無しである。

「実際に被害も出ています。自分たちもここまでうまく行くとは・・」

「これで・・ちょっと安心して眠れます・・」

「あなたの命を狙っている相手・・奴だけですか?」

私服警察官のような、一般サラリーマンのようなスーツを着た男が元免太郎に話しかける

「わかりません・・・でも・・・・」

元・免太郎はジンジャーエールを一気に飲み干して、顔がさらに赤くなった。もしかして・・アルコール入ってる?


「・・白雪姫と俺の顔が、元のイケメンに戻るまで、アイツを


あの歩太郎との戦いは、これからです」


この世界で、最高にヒーローっぽくないキモ・イケメンの勇者の誕生であった。


「あ、そうそう。このバーで飲んだジンジャーエールのお酒、一杯、1000円らしいですよ」


「バイト・・でも・・しなきゃ・・・」


つづく

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