第17話 本当の名前を教えて

「私は・・こんな顔じゃなかったの・・・本当よ・・・」

「・・・わかってる・・よ・・・」

自分の中で銃で撃たれた真島さんが、息も荒くなりながら、元・免太郎にそう言った。

「あいつと・・醜 歩太郎と出会う前・・私はフラれるという経験をしてこなかった・・・それだけ顔に自信があったし・・男なんてなにもしなくても寄ってきたの。私は人生をなめていた。だから、たまに違うタイプの男と付き合ってみたくなったの。


それが、本当に・・間違いだと気づいた・・・」

「・・・・・・・・・・・」

元 免太郎は何も言わずに真島さんを抱きしめていた。彼女の目からは、うっすらと涙のようなものが流れているのがわかった。

「あいつと出会って、気のあるそぶりを見せて惚れさせた。すぐ簡単だった。露出度の高い服だけで顔が赤くなって・・面白かった。からかうのよ。適当に遊んで、あいつを捨てるつもりだった。でも、あいつには闇の執着(ねたみ)と頭脳があった。それは、私の予想外をはるかに超えていた・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「あいつと別れよう・・と思った時には・・もう・・薬を飲まされて・・・


目を覚ましたら・・誰も・・私に振り向く・・男は・・いなくなっていった・・」

「そんなことないよ・・・真島さんは・・かわ・・いいよ・・」

口の中が乾いている元・免太郎。

「それより・・救急車を呼んだから・・」

スマホのアプリで、すでに緊急メッセージ(エマージェンシーコール)を送信していた元・免太郎。

「いいの・・・」

「よくないよ・・君は可愛いんだ・・生きてなくちゃ・・・もったいないよ・・」

「うそ」

「・・・・・・・」

「普通・・そこで黙る?」

「ごめん・・」

「あなた・・・顔はブサメンになったけど・・・かわいいね・・わたしより・・」

「初めて・・イケメン以外の誉め言葉・・聞いたよ・・」

「・・・・・救急車が来るまで・・・聞いて・・・」

真島さんは・・血を抑えていた赤い手を元・免太郎の頭にもっていった。

「本当に私が・・かわいいなら・・・キスして・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・うそ・・・」

「・・・・・・・・・」

「どうして・・してくれないの?」

「・・・これが・・最後になるような気がして・・・だから・・しない・・」

「私がブサイクだから・・?」

「そんなことない。俺がブサイクになったから・・」

「あなたは・・イケメン・・なんでしょ・・?」

フフッと真島さんは笑った。

「ああ・・そうだった・・・俺は顔はブサイクになっても・・心はイケメンの誇りを忘れたことは一度もない・・」

「・・じゃあ・・して・・・」

頭の後頭部に手を回す真島さん。

「君の名は?」

「えっ?」

こんな時に、アニメのタイトル・・・じゃなかった自分の名前を聞いてくる元イケメンの天然少年「池 免太郎」は空気が読めないのかと真島は思った。

「真島・・なんていうの?」

ああ、そういうことか。

「真島・・白雪・・白雪とかいて・・みゆき・・・」

「なんか・・白雪姫・・ってあだ名が付いたでしょ?」

「ええ・・あたり・・・可愛かったから・・」

「自分で言うんだ」

「あなたも自称 イケメンでしょ。おあいこ」

チュッ

不意に来た、人生初めての女の子とのチュー。


それは、血の味がした。


元・免太郎は、目を閉じている目の前の白雪(みゆき)が一瞬、美しい美女に見えた。それはまるで、本当の白雪姫のように透き通った白い肌、濁りのない瞳、ふっくらとしたほっぺ、赤い唇をしていた。

「・・・・白雪さん・・もう一回・・いいかな・・・」

「・・・・・・・・」

白雪は答えない。

「・・・初めてだから・・・よくわかんなかった・・もう一回・・チューしていい?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・怒っている・・・?くどい・・・?」

「・・・・・・・・・」

「・・・おい・・・真島さん・・・!」

「・・・・・・・・・」

「・・おいってば!・・・怒ってるなら・・・はやく・・何か言えよ!・・・


イケメンの王子様が・・・目覚めのキスをしたんだぞ!


こういう時は・・・・白雪姫は・・・目を開ける・・・のが


物語のハッピーエンドじゃないか!!


なんで、キスしたら・・・・・キスをしたら・・・


逆に、白雪姫が永遠の眠りにつくんだよおおおおおおお!」


救急車のサイレンが、遠くで鳴っているのが


やけに五月蠅(うるさ)く聞こえていた。


つづく




白雪姫のようなキスで眠りに入る


ウマレカワールの副作用で

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