第二章 究極のイケメン、誕生

その日、世界が震撼した。


雷が鳴り響き、風が吹き、雨が降った。


そう、今日は台風の日だった。


学校は臨時休校。不要不急の外出はするなと学校から連絡。イケメンだった免太郎もまた、醜歩太郎(ブサメン)の顔に転生した後、自宅待機。何もせず、自分の部屋を天井を見ていた。


『・・あんた・・・学校から帰ってきて・・なにふざけてるの?そのお面?・・』

自分の家に帰ってきた、心はイケメンこと「元・池 免太郎」は、ブサメンこと醜 歩太郎に変な薬を飲まされて、歩太郎のような個性的な顔(ブサメン)になり果てて、それを隠すために、お面をかぶって帰宅した。

『・・・ちょっと学校の文化祭で舞台があってね・・お面をかぶったミュージカルなんだ・・・人間を食う鬼を専用の刀で倒す冒険活劇でさ・・そのイケメンのお面を・・かぶってないとダメなミュージカルなんだよ』

苦し紛れの嘘を言うたび、免太郎は心が痛む。

『・・えっ・・それって・・鬼の面じゃん・・』

母親がバッサリ言う。

『人間に化けた・・かっこいいラスボスだよ・・・』

『・・・ふぅ~ん・・・』

『・・・・・・・・・・』

『・・頭、おかしくなる前に・・夕飯・・食べな・・』

母がリビングに元・免太郎を誘導する。

『・・・・・・・・・』

黙ってテーブルの上にあった肉料理を椅子に座って食べる元・免太郎。

『・・・なに・・・?なんかついている?』

口を動かす元・免太郎。

『・・・お面の上から・・器用にご飯を・・食べるのね・・あんた・・』

『・・コーヒーも飲めるよ・・』

コーヒーを被っているお面の上から浴びせるように飲む、元・免太郎。

『あちち・・』

『・・きもい・・アホっぽい・・』

『それ禁句。こどもの自己肯定感、だださがりだよ・・』

『・・・自己肯定感を上げるんじゃなくて・・学校の成績をあげろや・・』

『母さんの子だよ・・無理だよ』

元・免太郎が言う。

『父さんの子だろ・・良い大学行けや・・』

『さて・・と・・寝ようかな・・』

食器を片付ける元・免太郎。

『明日は?学校ないんでしょ』

『・・まあね。台風がくるし』

『出かけるんじゃないよ』

『わかってるよ!お休み』

自分の部屋にあった鏡は押し入れにしまい込んで、自分のベットに寝転んで、天井を見つめる元・免太郎。

『免太郎・・・俺の勝ちだ!』

捨て台詞を吐いて、自分の前から姿を消した歩太郎。あのあと、どこを探しても元・歩太郎の姿はなかった。そして性格良夫の姿も・・・

「・・・・・・・この顔で・・・俺は・・・一生を過ごすのかな・・・・」

お面を外して、免太郎は、つぶやく。

「人間・・・顔・・・じゃない・・・か・・・」

スマホを操作して、鏡のアプリを起動し、歩太郎の顔になった自分の顔を、ちょっと見てみる。

「うわっ・・・・」

つぶやく。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・」

「・・・そんなに・・・悪く・・ない・・・じゃん・・」

あれ?目が慣れてきたからだろうか?そこまでブサメンに見えないのはなんでだろう?歩太郎への憎しみも、何か、自分の中で消えかかっている。

「・・いやいや・・俺は・・・」

ピリリリ!

「!?」

ベットの横にあったスマホの着信音が、突然、鳴る。

「も・・もしもし・・・」


「ごめんね・・急に呼び出して・・・」

「どうしたの・・?こんな夜に・・」

台風が少し落ち着いた夜だった。家を静かに抜け出した元・免太郎を電話で呼び出したのは、やはり真島と呼ばれる女子高生だった。夜の公園で落ち合った2人。街灯の下の光が2人を、静かに照らしている。

「・・・・・・・・・・・」

歩太郎の元恋人には見えない個性的な顔を、改めてしている。いやどうしてこんな顔になったのか・・改めて問うことはすまい。イケメンの心だけは、汚してはいけない。そう思う、元・免太郎だった。

「・・どうしたの・・?」

「・・な・・・なんでもないよ」

「・・・嵐が来るの・・・」

「そりゃ・・台風だからね・・・」

何当たり前のことを真島さんは言っているのだろう?そりゃもう、来てるじゃんと、元・免太郎は思った。

「違うわ・・やつが・・・歩太郎が・・来るわ・・・」

遠くでうごめく黒い雲を見つめて、真島さんは言う。雨がやんで少し台風が小康状態に入っても、風がやむことはなかった。

「えっ?どういうこと?」

「やつは・・なったわ!」

「・・・なった?」

「性格良夫の性格を乗っ取って、人間としての究極を奴は手に入れたわ!」

「・・・・良夫は・・・・・?」

そういえばスマホで良夫の携帯を鳴らしても、誰も出なかった。LINEを送っても既読にならない。元・免太郎は、背中に寒いものを感じていた。

「大丈夫。生きているわ」

「わかるのかい?」

「転生錠剤のウマレ・カワールはまだ完全じゃない。何が起こるか私たちにもわからないものよ。それに人間の性格は顔と違って目に見えないもの。こればかりはどこまで錠剤を飲めば性格がよくなるのかは、歩太郎自身もわかっていないはず。性格良夫の性格を・・・完全コピーするまで、まだ時間がある・・」

「・・・・やつは・・・次に何をするの・・・?」

「究極を手に入れたやつの・・次の目的は・・・ただひとつ・・・」

「えっ」

「私たちを・・・・・消すこと・・」

パン!

その刹那(瞬間)、だった。乾いた音。どこかで聞いたことあるような、ないような音。いや、一生、聞きたくない、音だった。

「えっ・・・・」

崩れ落ちる音。それは自分ではなかった。目の前の彼女である真島が、俺の方に寄りかかってくる。それは死の匂いがするもの。重い。その体がずんと重力によって俺の身体に寄りかかる。まるで糸が切れた人形のように力が抜けた抜け殻のように。

「ま・・まじ・・・」

「・・・・・め・・・・ん・・・・た・・・」

お腹に暖かいものが伝わってくる。それが、真島さんの血であることに気づくのに、元・免太郎はしばらく時間が、かかった。


事態は予想以上に加速して、免太郎たちに襲いかかってくる。そう、もう、逃げられない。


歩太郎のイケメンの支配から・・・


つづく

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