第11話 ケンカのあと
「今日の免太郎くん・・なんか変・・・まるでイケメンじゃなくて・・そう・・・・あの歩太郎(ブサメン)みたい」
ポニーテールを揺らして、キツネのように目を細めた女狐(めぎつね)りんこが、言う。
「・・・いや・・・はは・・・」
ウマレ・カワールの薬で免太郎の顔を自分の顔にした元・醜 歩太郎は、苦笑いをする。
「・・・歩太郎になにかされた?」
ギクッ!
「いや・・別に・・それよりもこのハンカチ・・洗って返すよ・・」
女の子に人生で初めて優しくされたことにより感動の鼻水をぶちまけた、りんこのハンカチをもって、歩太郎は、そう言った。
「ああ・・・そう・・ありがとう・・」
女狐りんこは、嫌そうな顔をまだしている。
「それよりもさ・・さっき・・歩太郎くんのこと・・言ってなかった?」
元・歩太郎は、話題を必死で変えようとする。
「ああ・・歩太郎ね・・最近見ないから・・・ちょうど・・良かったと思って」
「えっ?」
元・歩太郎は、女狐りんこの目をまっすぐ見つめた。
「あいつ・・なんか・・・その・・・ね・・」
頭でちょっと考えながら、言葉をひねり出そうとして、うまく言えない女狐りんこ。
「・・・歩太郎くんはね・・・いい人だよ・・」
元・歩太郎が、口から、そう、ひねり出す。
「えっ?」
女狐りんこは、驚いてキツネ目のように細い目をする。
「彼は何より頭もいいし、それに・・・意外と・・優しい・・ひと・・だよ・・・」
自分で自分のことを擁護する。なんだろう・・この感じ。
「でも、好みじゃないの。わかるでしょ?」
女狐りんこは、バッサリいう。
「顔は・・・アレだけど・・・でも・・・いいところもあるんだ・・人間・・・・顔じゃないよ」
だんだん、自分の心臓の鼓動が早くなっていく。歩太郎は過去の自分自身とこんな形で、出くわすとは夢にも思わなかった。イケメンであれば、どんなトラブルだって回避できる、と、信じていた。まさか、こんな形で過去の自分に足を引っ張られるとは。
「でもさ、免太郎くんだって、歩太郎のこと・・いろいろ言ってたじゃない。今日は、熱でもあるの?」
「ないよ」
今度は歩太郎がはっきり言う。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「君のように、外見でしか人を判断できない女の子を、僕は嫌いだな」
「!?」
女狐りんこは、さらに目を細めた。自分が被っていたキツネの面によく似ているな。そう歩太郎は思った。
「あ・・・その・・・ごめん・・・」
自分でとんでもないことを言ってしまった、と自覚した時には、もう、相手は怒りに走り出していた。
「あんた、何なのよ!いきなり!」
烈火のごとく怒る女狐りんこを、歩太郎は、今日、いや初めて見た。
「ごめん。だって、歩太郎くんのこと、けなすから・・」
「あんたと関係ないじゃない!あいつのこと何を知っているのよ!」
「そうだけど・・人の外見で物事を判断したのは、いけないんだよ!そう思うだろ!?」
「人の好みなんて、私の勝手でしょ!?誰を好きかなんて、別にいいじゃない!」
「僕は、歩太郎くんのこと・・好き・・・だよ・・」
「はぁ!?」
「彼のこと・・顔だけで判断して・・もっと・・何も知りもしないで!」
「んっ!だったら勝手にすればいいでしょ!?私はしらない!」
さっきまでの感動は、どこかに消え去って、女狐りんこも、いつのまにか、どこかへ消えていった。後に残った歩太郎こと、池・免太郎だった「まがいもの」は、その場でずっと立ち尽くした。
「なにを・・やっているんだ・・・おれは・・・」
こんなはずじゃなかった。女の子とケンカをするつもりはなかったのに・・イケメンの顔を手に入れたのだって・・こういう思いをしたくないから・・・なったというのに・・・
「どうしたの・・・?すごい声がしたけど・・・?」
教室のドアを開けて、性格良夫が仏のような顔をして、僕を見ている。
「ははっ・・良夫くん・・・遅いよ・・・遅すぎる・・よ」
歩太郎は、目に涙を浮かべながら、彼の手を引っ張った。
「免太郎君・・どこへいくの・・?」
「いいから・・」
免太郎のまがい物は黙って、性格良夫の手を引っ張って、階段を下りて行った。
そして
『もう・・迷わない・・俺は・・・絶対に・・すべてを手に入れてやる
頭脳も・・・イケメンの顔も・・・そして性格も・・・すべて・・最高を手に入れて・・
完全体になって・・
そして・・・』
歩太郎は、決意をもって、歩き出した
つづく。
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