第10話 性格が良いことは いいこと
「ちくしょう!イケメンは外見さえ良ければ女にモテまくるんじゃないのか!?」
イケメンこと、池免太郎の顔(外見)を手に入れた元ブサイクの「醜 歩太郎」は、母校である放課後の高校に来ていた。ここに来た理由はただひとつ。性格良夫(せいかくよしお)を探し出し、奴の性格を自分の身体に埋め込んで、今度こそ、人間としての絶対的・生命体になること。それだけであった。
「イケメンで頭がいい完全体である俺が、女にモテないのは今までの過去のブサイクの性格のせいだ!性格さえよければ、今度こそモテる!俺は神になれるはず!」
歩太郎は廊下を走り、まっすぐ自分の教室に向かっていた。今日は、確か良夫は学級委員長としての仕事があったはず。おそらく教室で仕事をしているに違いない。そこを狙って、やつを口説き落とす!
「あそこだ!」
3-Bの文字が見えてきた。中から光が漏れている。時刻は午後4時5分。まだそこまで暗くなってはいない夕刻の時。教室の中で誰か人の気配がする。
「・・・・・・・・・・・・」
教室につながるドアの窓をのぞく。
『・・・いた!』
学級委員長の性格良夫は、短髪で満面の笑みを浮かべて仏のような顔をしている。副委員長の女狐(めぎつね)りんこと一緒だ。女狐りんこはポニーテールで少し髪が茶色に染めており、笑うと目が細くなり、そこがどことなくキツネに似ているのだ。鋭い目つきが可愛いけど。
「だからさ・・こういう風にやれば・・みんな幸せになれると思うんだ・・」
性格良夫は女狐と何かを話ながら、手を動かしている。早く作業が終わらないかなと思いながら注意深く、2人の話を黙って聞くしかない歩太郎。
「でもね・・この男が邪魔なのよ・・早く死んでくれたらいいのに・・」
『えっ?何という会話だろう・・やつら・・殺人事件の計画を2人で練ってやがる。性格良夫は・・もしかして実は・・サイコパス殺人鬼・・?』
歩太郎は、手に汗がにじんでいた。
「ああ・・殺しちゃった・・・」
『なんだって!そんなこと言ったら、いきなりこの小説がミステリー小説になっちゃうじゃないか。俺は金田〇少年にならなきゃいけない・・しかし俺は今、そんなことをしている場合じゃない・・・早く目の前の殺人鬼を捕まえなくちゃ!』
歩太郎は、スマホを取り出し、警察に連絡をしようと画面をタップしようとする。
「まったく・・りんこはスマホゲームが下手だな」
警察に連絡する指が、止まる。
『なんだよ・・ゲームかよ・・もう少しで警察に迷惑電話するとこだったよ・・・』
慌ててスマホの電源をオフにする歩太郎は、迷惑クレーマーにならずに済んだ。
「でもさ・・歩太郎って消した方がいいんじゃない?」
「!?」
歩太郎は再び心臓が高鳴る。
『今度は、聞き間違え・・じゃない・・実名じゃないか・・しかも歩太郎って・・・俺じゃないか・・・いいや・・俺は今はイケメン・・イケメンの免太郎なんだ・・今は・・』
「そんなこと言っちゃだめだよ・・・歩太郎くんだって生きてるんだ・・人間なんだよ?」
「・・・・・・・・」
さすが性格が良い性格良夫だ。わかるやつは外見で判断しない。しかしまさか俺が、人間というカタチで擁護されるとは思わなかった。
「歩太郎くんてさ・・あれは・・人間の顔じゃないよ・・」
「!?」
女狐りんこが、余計なことを言う。殺意の波動が歩太郎の周りに発動する
『・・・女狐りんこ・・・この恨み・・・昔のブサメンの俺が許しても・・・イケメンに生まれ変わった俺が許さん!』
「人を外見で判断するのはよくないよ・・・りんこ・・」
性格良夫のその優しい言葉に、殺意の波動が消えていく歩太郎。
「人間・・・は・・顔じゃないよ」
「・・・・・・・・」
なんか日本語としては同じような言葉なのに、区切っている場所を少しずらすと・・こうも意味が違うものが・・・?歩太郎は二人のやり取りが早く終われと神に願った。
「そういえば、喉、乾かない?」
りんこが立ち上がる。どうやらジュースを買ってくるらしい。
「僕が自販機で買ってこようか?」
さすが性格が言い良夫が言う。
「いいわよ。いつも買ってきてもらってるから。私が買ってくるね」
「ありがとう。あとでお金渡すよ」
「今日は、私のお・ご・り」
りんこはそういうと座っていた椅子から立ち上がり、こっちに向かってくる。
『やばい・・・女狐がこっちに向かってくる!』
廊下にいた歩太郎は、隠れる場所を探した。
ガラッ
女狐りんこが、教室のドアを開けて廊下に飛び出す。
「あれ・・・?そこにいるのは・・・」
慌てて隠れようとして失敗した歩太郎は、りんこと目線を合わせられずに顔をそむける。
「もしかして・・・免太郎・・・くん?」
りんこが歩太郎を見て、そう言う。そうか!ウマレ・カワール(人間の外見を変える薬)はどうやらすごくいい薬だと、歩太郎は今、はっきりそれが分かった。
「や・・やあ・・・今日もりんこは・・可愛いね・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・なんて・・ちょっと・・クサかった・・・?」
免太郎のようなイケメンの言葉をしらない歩太郎は、顔を赤くしながら精一杯、免太郎のような言葉を恥ずかしながら、口からしぼりだした。
「・・・免太郎君・・・・」
「・・は・・・はい・・・」
な・・・殴られる!歩太郎は、直感的に思った。
が、
「やだぁ・・はっきり免太郎君に言われると・・マジ照れる」
予想外に、女狐りんこが、顔を赤くし照れていた。
「え・・・・?」
歩太郎(ブサメン)の時には口が裂けても言えなかった、そんな恥ずかしい言葉を言って、女の子が喜んでいる。それが、歩太郎にとって新鮮で、なんかうれしかった。
「・・・・あ・・・ありがとう・・・」
なんだか、歩太郎は涙が出るほど感動して、そんな言葉がつい、口から出ていた。
「え・・?ちょ・・・どうしたの免太郎くん・・?泣いてる?」
感動で涙を流す歩太郎を女狐りんこが、言う。
「い・・いや・・・なんでもない・・」
「ハンカチ・・いる?」
りんこは泣いている歩太郎に手渡した。
「いや・・はは・・・ありがとう」
歩太郎は、目から出た水をハンカチでふき取り、ついでに一緒にでた鼻水も吹いた。
「ブーッ」
ついでにブサメンだったころのクセが出て、ハンカチで思わず鼻水を吹き出した。
「ちょ・・・何やってるの・・・?
今日の免太郎くん・・なんか変・・・
まるで・・歩太郎みたい・・・・」
「え・・・?」
女狐りんこが、何かに気が付く。また心臓が高鳴る歩太郎はイケメンの顔のまま、
思った。
『俺の正体が・・・まさか・・バレ・・る・・?』
女狐りんこが、キツネのように目を細めた。
つづく
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