第9話 イケメンは1日にしてならず

「あの・・・ちょっと・・・いいですか・・?」


街を歩いていると、声をかけてくる高い声が聞こえる。

「なんだい・・?いま・・忙しいんだけど・・」

俺は、そう、面倒くさい顔をする。本当に忙しいのだ。俺にはやるべきことがこれからたくさんあるのだから。

「いえ・・その・・」

「なんだよ・・・早くしてくれよ」

「・・・・好きです!」

目の前の女が、顔を赤くしながら俺を顔を見て、そう言う。

「おいおい・・ちょっと待ってくれよ・・まだ・・俺たち・・会ったばかりだぜ?」

そう言いながら、『やれやれだぜ』というめんどくさいのに、まんざらでもない顔で女を見る俺。逆ナンパなんて、余裕だぜ・・まったく。


「こんなこと言うと・・変な奴だと思われるかもですけど・・・


その・・・


あなたの顔・・・タイプなんです・・・」


「百年の恋」をした乙女が、そこにいた。

「まったく・・困った迷い子猫ちゃんだな・・いいぜ?・・俺と付き合う権利をお前にやるよ」

俺は乙女の腰に、そっと手を回そうとする。すると

「は?キモ・・ムリ!」

俺の手を素早い手刀で弾く恋する乙女。

「あ、いた!」

激痛が俺の手に走る。こ・・こいつは、新手の女戦士か!?女武闘家なのか!?毛利蘭ねーちゃんか!?(名探偵コナンのファンごめんなさい)最近の女性は、男の手をはじく訓練でもしているのだろうか。す・・・しゅごい・・・

「なにしてんの?この変態野郎!」

急に、さっきまでの恋する乙女の目をしていた女が、『千年の恋』が冷めた目で俺を見つめてくる。

「・・・顔はタイプだけど・・オラオラ系とか無理なんですけど・・そのセンスのない例えもキモい。さよなら」

女は、もう、こっちを見ないで歩き始めていた。

「おいおい・・・俺っちが付き合ってもいいって言ってるんだぜ?この俺様が・・・ちょ・・・まてよ・・・はやく自宅で一緒にDVD見ようよ」

「そういう男と付き合う時間とか・・私にはないんで・・」

もう、二度と、恋する乙女は、俺の元に戻ってこなかった。

「・・・・・・・・・・」

元・ブサメンこと『醜 歩太郎』は、その場に立ち尽くして、思った。


『俺は・・女に好かれるイケメンになったんじゃ・・ないのか!?』


元・歩太郎は悩んでいた。せっかく学校を転校までして、転校先のクラスで偶然、イケメンの検体(池 免太郎)が、自分の目の前に現れたとき、歩太郎は思った。

『奇跡だ・・・これで・・俺は完全体になれる・・』

歩太郎は、研究者である父親が開発した錠剤「ウマレ・カワール」(生まれ変わる)を自分の身体で試し続け、頭脳も、身体的能力も、他人の最高の物を手に入れてきた。

あとは、外見だけ。それさえ手に入れれば、自分の野望が叶う。そのために免太郎を嵌めたというのに・・・

「・・・モテなかったころの俺のブサイクな性格が・・・いつまでもイケメンを拒否している・・のか?・・・あの免太郎のような天然マグロのようなイケメンに・・・どうすればなれるのか・・?」

歩太郎はコンプレックスを消すためにイケメンを研究して、少女漫画を読みまくって、壁ドンのタイミングを練習して、イケメンギャクをいくつも考えたが、玉砕。女に全然、もてなかった。免太郎の顔と頭さえあれば、恋人のひとりやふたり、秒で撃墜できると思ったが、撃墜されたのは俺の方で、キモいと捨て台詞を吐かれて、女に去られていた。

「ちくしゃおう!なんで・・イケメンなのに・・モテないんだ!」

そのキモい悶え方をなおしたほうが、モテるかもしれないと、アドバイスしてくれる友達もいないぶたろうは、迷走していた。

「どうする・・・?」

この頭脳で考えろ。きっといい方法がある。顔はイケメンなんだ・・性格さえ治せば・・・ん?性格?そうだ!

「うちのクラスに、性格良夫がいた!あいつ性格が良いから、免太郎のようにたらしこめば・・・きっと錠剤を飲んでくれる・・・そしたら今度こそ、俺は完全体の人間に・・」

ぶたろうは、そう思い立ち、サングラスと帽子を買って、走り出す。

「免太郎に見つからないように、学校に行かなければ・・・まだ・・性格良夫は性格がいいから、学校で先生の手伝いをしているに違いない!ぐふふ」

気持ちの悪いブサイクな笑い声をあげながら歩太郎は独り言を言う。

「あっ、イケメンが走っている」

子供が俺を指をさしてそういう。その瞬間、いきおいよく転ぶ歩太郎。

「イケメンが転んでる」

子供は正直である。

「イケメンもたまにはね」

「かっこ悪い。」

「それは言わない約束」

そんなこんなしている間に、人生の貴重な時間は、過ぎていく。そんな歩太郎を追い越したバスの中に元・免太郎たちの姿があった。

「歩太郎は、どこに行くと思う?」

「とりあえず、俺の学校を探すんだ!」

免太郎たちもまた、学校に向かっていった。


つづく

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