第8話 いなくなったブサメン 残されたイケメン
「醜 歩太郎の豪邸ならすぐにわかるよ・・この道の角を曲がったところさ」
元・イケメンの池 免太郎は道の向こうを指さした。ある日、歩太郎と外見が入れ替わった、元・イケメンのこと「池 免太郎」は、名前も知らない個性的な顔の女の子に手を引っ張られて、醜 歩太郎の顔になった今、その原因を作った張本人の家に乗り込もうとしていた。
「・・・・・ありがと・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
感謝を伝える女子高生の背中。黙々と自分の手を引っ張り歩いていく女子高生の背中に、免太郎は疑問がどんどん沸いていった。
「ねぇ・・なんで君は俺に構うんだい?君には今回の件は関係のない話だろ?」
「・・・・・・・・・・」
「なんか・・よくわかんないんだけど・・すでに俺の正体が君にわかっているみたいだけど・・俺は歩太郎の顔になった免太郎なんだ。みんなは信じてはくれなかった・・・でも・・君だけは・・・・・なんでそれが君に分かったの?」
「・・・・・・・・・・」
「ねぇってば!?俺の話・・聞いてる?」
さっきから俺の手を引っ張る彼女は、沈黙しながらも歩太郎の家まで歩いていた。沈黙している彼女。どうやら彼女には耳はついている。彼女は悪魔とかではないかと一瞬、免太郎は疑った。彼女は雰囲気がただ物ではない。性格はさっぱりしていて、行動が早い。自分が絶望するための時間を作ってはくれない。そこが免太郎には唯一の救いであった。
「聞こえてる・・・免太郎くんでしょ・・あなた」
彼女は見た目よりもはるかに本質を見抜く目がある。
「君は、歩太郎の顔になった僕のこと、イケメンだと思うかい?」
僕は彼女に確かめたくなった。これこそが、自分の最後の砦(プライド)だから。
「いや・・それはまた別・・・むしろあなた・・性格までブサイクになったんじゃないかしら・・」
「ガーン!!」
昔の漫画のように、効果音だしながら、ショックを受ける俺。
「そんな・・・・それだけは・・俺の良さ・・だったのに・・」
「歩太郎の家って・・この家でいいのね?」
気が付くと大皇帝の家・・・いや間違えた大豪邸の家が俺たちの前に現れた。表札みたいなものが見当たらない。泥棒対策だろうが?中世ヨーロッパのような宮殿。白を基調とした立派な家。
「改めて見ると・・歩太郎の家・・・すごい・・・」
つばを飲み込む免太郎だったもの。
「・・・ちょっと・・・」
顔を赤らめて、女子高生がこっちを見ている。まさか、この少しの会話のあいだに、俺に惚れたのだろうか?イケメンパワーはまだ、俺に残っているんだと、免太郎はうれしくなったが・・
「いい加減に・・手を放して・・・キモい」
「えっ・・・ごめん・・」
顔を赤らめたのは俺だけで、女子高生は軽蔑のまなざしで俺を一瞬、見た後、顔をそむけた。俺たちの中で恋は始まらず、女子高生は、無言で歩太郎の家のインターフォンを押した。
「すいません!学校のクラスメイトの真島です・・宿題のプリントを届けに来ました」
こういう時は、男(野郎)ではなく女子高生のほうが初対面の相手が警戒しないだろうということか・・さすが真島さん・・顔に似合わず・・・頭が良い・・ん・・?いま・・なにか・・俺は重大なことを気づいていないような・・まあ・・いいか・・
「あらあら・・すいませんわざわざ・・いま・・玄関を開けますね」
インターフォンの向こうの声も女性の声。歩太郎の母親だろうか?
「・・・ありがとうございます」
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?黙って・・?」
家に入ろうとする女子高生についていかない元・免太郎。
「いや・・・・母親の前でいくら何でも息子を罵倒する気にはどうしてもなれない。これはフェアじゃないよ・・・帰ろう」
「は?」
女子高生は・・あんた馬鹿?といった顔をして俺を睨む。
「あんた・・ぶたろうに・・そんなことをしようと思ったの?」
「だって・・・人生で初めてイケメンじゃなくなった俺の恨み・・・誰にぶつければいいの?どうすればいい?」
免太郎は拳の握りしめ、血の涙を流し・・・てるフリを続けた。どうやら誰かに同情してほしいのだ。
「そんなの知らないわよ・・どうやら・・ブサイク細胞が予想よりもはやく身体を侵食しているみたいね」
「ブサイク細胞?・・・何それ?」
「あなた・・歩太郎にそそのかされて錠剤か何かを飲んだでしょ?」
「あっ?」
歩太郎にこの家で何かを飲まされて、気が付いたら・・・
「あの・・・ぶたろう野郎!」
俺の中の怒りの張飛が・・再び目を覚ました。もはやこのあふれ出る怒りのパワーは今や呂布クラスになっているかもしれない(三国志ネタを知らない人・・・ごめん・・・って誰に謝っているんだろう?)
「まだ試作品の錠剤なんだけど、その錠剤を飲んだ人間はね・・時間が経つと醜い姿に変えていくのよ。「通称B(ブサイク)細胞」。顔の形はね、24時間以内に一番見た身近な人間の顔に変えることもできるらしいわ。」
「なんかすごいけど・・歩太郎は何のためにそんなものを作った?」
「それを本人に聞くために・・ここに来たんでしょ?」
宮殿のような家の玄関までたどり着いた2人は、目の前の豪華な玄関のドアが、開くのを待った。
ギィイ・・
「あら・・待たせてごめんなさい。廊下があまりにも長いからたどり着くまで時間がかかっちゃった・・」
歩太郎の母親らしき女性が目の前に現れた。見た目は40歳くらいで黒髪のショートボブの髪型が似合うわりときれいな女性。あの歩太郎を産んだとは思えない外見に、免太郎は思わず顔を隠そうとした。
『・・・そうだ・・今は俺が歩太郎になっているんだ・・自分の息子が帰ってきたと思って驚くかもしれない・・』
「突然すいません・・急に家まで来てしまい」
隣の女子高生の名前なんだっけ・・?まあいいや・・・彼女が歩太郎の母親らしき女性に謝罪を言う。
「いいんですよ・・娘は・・まだ帰ってきてませんから・・・」
「は?・・娘?」
俺は思わず、そのショートボブの女性に話しかけた。
「ええ・・・愛は学校から帰ってきてませんけど・・用というのは?」
不思議そうに免太郎たちを見る女性
「まさか・・・ちょっと確認したいんですけど・・ここの家って・・」
「ええ・・美崎愛の家です・・・私はその母親です」
「へ?」
二人は顔を見合わせた。ここは、醜 歩太郎の家・・・
ではなかった。
つづく
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