第6話 転生

「みんな、おはよう!今日もいい日になりそうだね!」


朝、学校の教室に入ってきた高校生の「池 免太郎」は、今日もイケメンのような美しい性格のまま、さわやかに同じクラスの仲間に挨拶をする。これでクラスの女子はみんな目をハートにして、また恋に落ちるのだ。いつもと変わらない日常。いつもと変わらない教室。


いつもと変わらないイケメンの俺。


いつもと変わらないはずの現実


・・・のはず・・・


「・・・・・・・・・・・・・」


だが、今朝の教室の雰囲気は、免太郎にとって、すべてが違っていた。

「・・・・・・・・・・・・」

誰も免太郎に朝の挨拶を返してこない。それどころか、まるで汚物でも見るような目で、殺意の波動の視線を送ってくる。

『ヤヴァい・・・殺される・・・』

免太郎は、動物的な勘を発動し、自分は敵ではないということをアピールしなければいけなかった。

「みんな・・聞こえないかな・・?おはよう!免太郎だよ♪」

子供番組のお兄さん的さわやかな挨拶をする免太郎は、正直、イケメンではない。

「・・・ちゃんと・・聞こえてるわよ・・」

すぐ近くでこのクラスで一番の美人である「美崎 愛」が免太郎に声をかける。美崎愛は、個人的に免太郎と良い仲になりつつあるクラスの女子の一人だ。言うならば友達以上、恋人未満って感じだな。自分で言うのもなんだけど・・

「愛。おはよう」

免太郎は声をかける。

「あ?」

なんという短くて男っぽい返事だろう。今日はワイルド系の挨拶なのかなと、免太郎は思い、もう一度

「愛、おはよう!いい天気だね!」

大きな声で話す。

「気安く・・・・・」

「・・えっ・・・・」

「私に声をかけんじゃないわよ!」

いきなり怒りMAXの言葉のボールをぶつけてくる美崎 愛。

「ど・・どうしたの・・?そんなに怒って・・・」

今日の愛はどうしたのだろう?そういえば、この間、食堂のプリンを俺が食べたこと、まだ怒ってるのだろうか。

「この、ぶたろう!」

「ぶ・・・ぶたろう・・?」

イケメンの俺を前にして、あのブサイクがどうしたのだろう?今日の愛は、ちょっと変・・だ・・俺のイケメンの雰囲気よりも歩太郎の方が気になるなんて・・やっぱり・・おかしい。

「愛・・ちょっと熱でもあるんじゃないか?歩太郎はここにはいないよ」

「貴様・・いつから私の名前を何度も呼んで良いって言った!」

鬼のような美顔。いや鬼のような美人。いや・・・美鬼・・・鬼滅の刃とかに出て来そうな鬼の名前・・。なんか日本語がおかしい・・俺はゲシュタルト崩壊しそうだ・・・ゲシュタルト崩壊とか・・ちょっと難しい中二病的な言葉を・・急に使っちゃう俺・・・やっぱり・・イケメンだな・・・・悪くない・・

「何・・笑ってんの・・キモイんですけど・・この歩太郎野郎が!」

「またぶたろう!?俺は・・免太郎だよ」

ようやく俺は、愛に、自分の名前で言い返すことができた。そう、俺は歩太郎なのではない。ちゃんとしたイケメンこと「池 免太郎」なのだ。

「はっ?」

愛の言葉がどんどん悪くなっていく。

「ちゃんと鏡を見てから言いな!」

「えっ・・・なんで・・」

「美崎ちゃんの言うとおりだよ・・君は今日、おかしいよ。まるで免太郎くんみたいなことをいってさ・・」

性格良夫(せいかくよしお)の久しぶりの登場。そういえばこいつの存在自体を第一話から忘れていた。

「・・・・だって・・俺は・・免太郎だよ・・」

「はぁ」

愛が、やれやれというため息をついて、自分のポケットから何かを取り出して俺の前に突き出した。

「ちゃんと見なよ・・・」

美崎の手のひらには小さなピンク色をした手鏡が乗っていた。

「なにを?」

「この世界の現実を・・」

俺は、愛のそんな哲学的な言葉に返事をせず、その手鏡をもって、現実をのぞこうとした。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・どうよ・・?」

美崎愛が、声をかけた

「・・・・・・ぶ・・・」

「ぶ・・・?」

「・・・・ぶ・・歩太郎が・・・ここにいる・・・?」

俺の手は手鏡をもったまま、震えていた。

「なんでって・・・それが・・あんたの顔だからよ・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・」

「ぶたろうに・・・俺は・・・なっちゃった!」

現実は、いつも残酷だった。俺は、今日からイケメンを廃業する。


その死の運命が、今、始まろうとしていた。


「あの・・・・」


そんな俺の前に現れたひとりの女。その女が・・・


つづく

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