第5話 さようなら
「・・・・・・・・・・・・・・」
真っ暗な闇・・・ここは・・・どこだ・・?
イケメンの俺は寒気を感じて瞼を開ける。見たこともない場所・・そういえば・・醜歩太郎に誘われてあいつの家にきて・・そしてよく分からない薬を飲んで・・歩太郎の寝室で・・・寝落ちして・・
「!?」
ここは歩太郎の寝室!・・・そうだ・・ブサイクなあいつとイケメンの俺の身体(顔)を入れ替る約束をして・・・俺は・・
「歩太郎・・・お前!やりやがったな!」
歩太郎の策略に気が付いた諸葛孔明こと、部屋の寝室を飛びだしたイケメンこと 「池 免太郎」は廊下を走り出し、階段を下りて、リビングへと突入する。その途中でハッと気づく。
『歩太郎の家・・めっちゃ・・金持ちやん・・うらやま・・』
いかん。いかんぞ!このままじゃ俺の怒りが、歩太郎の金持ちパワーに負けてしまう。
バンバン!
ほっぺたを2回、叩いて、改めて怒りMAXにした張飛こと、免太郎はそこで、確かに見た。
「やあ・・免太郎くん・・おはよう!いい朝だね」
歩太郎ことブ・・「個性的な顔」のやつが、やけにイケメンのように背中ごしに挨拶をしてきた。
「ぶたろう!よくも俺に変な薬を飲ましたな!許さん!」
拳をにぎりしめて歩太郎の顔に右ストレートを浴びせようとする免太郎に
「免太郎くん・・・おはよう・・って・・僕が・・言ってるんだよ・・」
余裕をもって朝食の用意をしている歩太郎が免太郎のほうに振り返る。
「えっ・・・」
そこで免太郎は、見た。キツネのようなお面をかぶっている歩太郎のようなものがそこに立っていたのだ。
「おまえ・・キツネのお面・・ふざけてるのか!」
「さ・・朝食ができているよ・・食べようか・・・」
お皿の上にパンやスクラップエッグ、コーヒーが俺たちを静かに迎え入れていた。
「何をのんきに!」
「じゃあ・・朝食は油揚げのほうがいい?」
「きつねだけに・・」
歩太郎が突っ込む。
「って違う!おれはギャクを言いに来たんじゃない!昨日、お前の部屋で変な薬を飲ましたな!」
「うん」
あっさり白状する歩太郎。
「それは・・俺たちの顔を交換するための薬だな!早く俺のイケメンの顔を返せ!もとの顔に戻せ!お前のその薬で取り替えたんだろう!?」
指をさして、まくしたてる免太郎は、イケメンの性格ではなくなっていた。
「はい?なんでそんなことわざわざするんだい?そもそも君は不細工な顔だろ。なんでイケメンの僕が君とわざわざ顔を取り換えるんだい?」
歩太郎はキツネのお面をかぶりながら言った。
「ウソをつくな!お前は俺に嫉妬して・・」
「そう思うなら・・洗面所で鏡を見てきてごらんよ」
部屋の開いたドアの向こうを指さし、キツネが言う。
「よし、見てきてやる・・・俺の顔がブサイクになってたら・・お前をぶっ飛ばす!」
免太郎は、歩太郎の家のトイレに向かって走り出した。数秒後
「わあう!」
変な奇声を上げて、まだリビングに戻ってくる免太郎。
「朝なのにブサイクな声を上げないでくれるかい?免太郎くん」
余裕のあるイケメンの声で、歩太郎はキツネの面をかぶりながら豪華な柄のカップに注がれたコーヒーをすする。器用にお面の上からコーヒーを飲む歩太郎の姿に、貴族のような気品を感じる。
『今はキツネなのに・・・』
ってそんなことを気している場合ではない。俺にはやることがある。それは・・
「歩太郎さま!ごめんなさい」
歩太郎に謝ることであった
「いいよ・・君の顔・・・なんともないだろう?」
やさしいイケメンボイスの歩太郎。
「私が間違っておりました。私の顔・・・いつものイケメンでございました」
土下座をしようとする俺の肩を抱いて、キツネの面をかぶった歩太郎が優しくささやく。
「誰でも間違いはあるよ・・すぐに謝ってくれた君は・・やっぱり・・イケメンだよ・・でも・・僕は信じていた・・・」
「ありがとうございます。なんて性格もイケメンなんだ・・歩太郎様は・・」
「フフッ・・・」
一瞬、キツネの面の奥にディアボロのような悪魔を見た免太郎はすぐに思いなおし
「こんな時間だ・・歩太郎さま・・今日はもう学校に行かなくちゃ・・」
「ああ・・もう・・そんな時間か・・免太郎くん・・君の荷物・・玄関に置いてあるから・・持っていきなさい・・」
「ありがとう。このまま学校に行くね・・・歩太郎さまは・・?」
免太郎は制服に着替えると、まだキツネの面をかぶりながらコーヒーを飲んでいる歩太郎の方を向いた。
「ああ・・そうだね・・僕はあとで行くよ・・先に君だけ学校に行きなよ・・」
「そう・・ですか・・一緒に行きたかったのに・・」
「ハハッ・・免太郎・・遅刻しちゃうよ・・」
「あっ・・それじゃあ・・・またね・・歩太郎様!」
歩太郎の家の玄関を飛び出す免太郎を見送る歩太郎
「フフッ・・免太郎くん・・本当にありがとう・・」
彼はキツネの面を外した。だが、その姿を誰も見ていなかった。
「これで・・僕は・・絶対的な存在になった・・ありがとう免太郎くん・・」
手から血を流しながら拳に力を込めて、歩太郎だったものは言う
「さようなら・・僕の免太郎くん・・・」
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