第4話 本当のブサイクは・・・

「行こう。免太郎君・・・まさか・・君みたいな人が・・逃げるとか弱虫なこと・・いわないよね」

「・・・・・・・・・・・」

歩太郎は俺の心を先回りしていた。授業が終わったら即座に家に帰ろうとした俺の身体に歩太郎がいつのまにか飛んできて、そう言った。

「いや・・・今日は・・・」

俺は何か言い訳を考えて、よく頭をひねった。だが・・何も浮かんでこなかった。

「・・行こうよ・・・君にとって・・・救いなんだよ・・・これは・・・」

何かわけのわかんないことを言いながら手をつかんで、僕を廊下までひっぱる歩太郎。なんて強引で積極的なんだ!?

「ヒュー!ヒュー!もう、お前らそんな関係なのかよ!?」

その一連の俺たちの姿を見ていたクラスの連中が声を上げる。

「ウッソー!免太郎君、ショック!」

俺のための女子たちが、そんな黒い声援を上げる。俺だって、こんなことをしたくはないのに・・・

「ん・・・まてよ」

俺は思う。

『はいはい・・・読めたぞ・・・奴の作戦が!・・私にも見える・・どうせ・・うまく丸め込んで俺のイケメンの外見を乗っ取って・・自分が今までに体験してこなかったイケメンぶりを存分に楽しもうって魂胆だろう・・その手には乗るわけない』

「歩太郎くん・・さっきの話・・・本当かい・・?」

僕は校門を出てまっすぐ歩く歩太郎の背中に言葉をぶつけた。

「ん・・?どうしたの?」

「俺は・・・自分で言うのもなんだけど・・今の顔に満足しているんだ・・・君が何を考えているかわからないけど、君の身体をとっかえる気はないよ・・・残念だけど・・」

「・・・・・・・・・・」

俺の手を引っ張っていた歩太郎の手が止まる。

「それに・・・逆に君に言わなきゃ・・いけないことが・・・あるんだ・・・」

「えっ?」

「・・・・君の顔・・・・その・・・・ブサイクだよ・・・」

ついに、言ってしまった、俺の告白。これで歩太郎が本当の意味で目を覚ましてくれたら、この物語はここで終わる。皆様、短い間ですが、ありがとうございました。物語はハッピーエンド。夢から覚めた歩太郎と俺はめでたしめでたし



「免太郎君・・ついに性格まで不細工になっちゃったんだね・・」

「!?」

物語は、まだ終わらなかった。歩太郎はサイコパスを通り越してラスボス級の勘違い野郎だった。

「・・・・ついたよ・・・」

「えっ?」

そこには、見たこともない豪邸が免太郎の目に飛び込んできた。

「え・・・・・えっ・・・?」

三階建て?いや・・四階建て?こんな広くて高そうな豪華な一軒家・・・免太郎は見たことなかった。

「驚いた?ここの家は・・僕の家さ・・ここに、君の望むものがある。きっと・・そのねじ曲がった性格さえ直してくれるもの・・がね」

どの口が言っているんだ!と歩太郎を殴り飛ばしたい衝動を、必死で抑えつつ、免太郎は何も言わず、ただ歩太郎の言われるがまま、その豪邸の中へ入っていった。

「父が研究者でね、いろんな特許を持っているんだ。そのお金で建てた家だよ・・」

「・・・・・・・・・・」

東大に入れる頭の良さをもつ歩太郎の遺伝子は顔ではない。これを知れば、クラスの何人かの女子は歩太郎を好きになるのではないか、そう、免太郎は思った。

「・・・・・・・・」

いつのまにか歩太郎のペースになっている。この家に入ったときから、自分は何か歩太郎に負けている・・そう自覚する自分がいた。


もしかして・・俺は・・歩太郎のいう


性格も外見も・・「不細工」なのではないか・・?


今までの俺がイケメンであるというのは・・俺の妄想・・?あれだけ歩太郎が俺をブサイクだと確信をもって言い切れるということは・・俺の本当の姿はブサイク・・なのではないか?みんなそれを黙って・・俺をイケメンだと・・持ち上げているだけ・・?


えっ・・・そうだった・・のか・・・


「歩太郎・・・さま・・・」


俺は・・朦朧とする意識の中で歩太郎に話しかける。この豪華な歩太郎の家の雰囲気にいつのまにか飲まれている。

「もしかして・・私(わたくし)めは・・・ブサイクなのではないでしょうか?」

俺は歩太郎にひざまづいた。

「ようやく・・気が付いたね・・おめでとう。免太郎くん・・・」

歩太郎は俺を遥か上から、見下してそう言った。

「はい・・・わたくしめは今まで・・自分のことに気が付きませんでした・・・なんと恥知らずだったのでしょうか・・


歩太郎さまのいうとおり・・私はブサイクでございました・・それをしらず自分がイケメンだとふるまっていて


何と恥ずかしかったことか・・・生き恥でございます・・・」

自然と目から水が流れているのを止められそうになかった。

「いや・・いま・・気づけてよかったよ・・免太郎くん」

「そう言っていただけるだけで・・」

「大丈夫だよ・・・免太郎くん・・・これさえ飲めば・・・君も明日から・・・」

見たこともない白い錠剤を俺に渡す歩太郎。左手には水を持っている。

「これを飲んで・・・そうすれば・・・今までの悪夢から・・・君を開放するよ」

「ありがとうございます」

俺は歩太郎から渡された錠剤を口にいれ、水をゆっくりと胃に流し込んだ。

「ああ・・・おいしゅうございました」

「さあ・・もう夜も遅い・・・今日は泊っていくと良い・・・君のためにベットも用意してある」

歩太郎は俺の手を取って、寝室へいざなった。

「ここは?」

窓のない白い部屋、天井には豪華なシャンデリアが明るく部屋を照らしている。

「僕の寝室さ。今日はここで寝ると良い」

「ありがとうございます。歩太郎さま」

「ここで、朝まで良い夢を見ると良い。今までのことはすべて忘れて・・・・」

「見られますか?幸せな夢を」

「ああ・・明日からは、君は・・・」

そして免太郎は、ゆっくりと瞼を閉じた。


つづく

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