第3話 美と醜のあいだで、愛を叫んだけもの

「いま・・・なんて言った・・・の?・・よく・・聞こえなかったんだけど・・」

池 免太郎は、自分が『イケメンですね』、以外の言葉を拒否するような耳の機能を持っていたので、醜歩太郎のその言葉をすぐに認識することを拒否していた。

「だから・・・・池免太郎君の顔・・ちょっと・・言いにくいんだけど・・・


ブサイクだよね・・」


『貴様!言ってはならんことを!!』

俺は、その歩太郎の顔を、顔面右ストレートで、とっさに殴っていた・・・・


もちろん、妄想の中で・・・


「歩太郎くん・・・なっ・・何を・・・言っているんだい・・」

拳を歩太郎の顔面にぶつけることなく、俺はまっすぐ、自分の中から湧き上がる怒りに震えながら思った。俺の初期設定を忘れるなって言ってるだろう!俺は性格『も』イケメンなんだ。こんな顔面偏差値のスライムレベルの小童(こわっぱ)の妄言に、いちいち怒って暴力を振るなど、言語道断。俺が許しても免太郎が許さないぞ・・って何を言っているのかわからないくらい動揺している自分がいた。それを隠すために

「だから・・・ぶさ・・・」

「・・ま・・待った」

俺はようやく冷静に歩太郎の口をふさいだ。

「この話・・・やめよう・・な」

「どうしてさ・・・?」

歩太郎は、変なことを言っているような顔をしてない。むしろきょとんとしている。そうか、やつは、アレだ!今、流行している、サイコパスってやつだ!

「だって・・生まれつきの顔なんて・・・人によってイケメンにも見えるし、ブサイクにも見えるだろ。ホラ、歩太郎の顔だって・・」

俺の中の悪魔が、歩太郎のあの顔を指さした時

「イケメンでしょ、僕の顔」

「はっ!」

世界の時間が、2度、止まった。それは超能力のせいではない。なんということだ!こいつは、俺を罵るだけでは飽き足らず、まさか自分の顔が、俺よりもイケメンとぬかしやがった!


まさに・・歩太郎はマウント・サイコパス野郎だ!

「・・・歩太郎・・くん・・鏡って・・・知ってるかい・・?」

こいつは、おそらく鏡を見ないまま、この年まで生きてきたに違いない。一度、現実(リアル)を教えた方がいい。俺は優しい。なんせ、性格もイケメンだから。

「知っているよ」

「いま、見に行こうか?」

「いいよ」

なんだろう。この自信。しかし、すぐのうち砕いてやる。奴の鼻・・いや・・顔偏差値すべてを・・・

「ホラ・・見なよ・・現実ってやつを・・」

俺は男子トイレにある鏡で、肩をつかんで歩太郎とともに、鏡の前に立つ。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・イケメンが映っているね・・」

ようやく気づいたか歩太郎。現実の残酷さに・・そして俺の美しさに・・ひれ伏すのは・・やっぱり・・お前の方だ・・

「やっぱりイケメンは僕さ・・・免太郎くん・・残念だね」

「は?」

こいつ・・・何度、世界の時間を止めれば気が済むんだ!?いや・・俺の視力が落ちているのか?こいつのみなぎる自己肯定感は、遥か俺の上を言っていた。鏡を見ても折れることがないみなぎるパワー。ある意味、彼は大物だ。

「こんな顔・・・他にはない・・・どう思う・・・免太郎君」

そういえば・・確かに他にはない顔をしている歩太郎・・なんだろう・・・自分のすっきりした顔が・・やけにぼやけて見える。こんなにも堂々としてくる人間を今ママで見てこなかったせいか・・自分の美という軸が・・・何だから揺らぎ始めている。

「そこでだ・・君に折り入って話をしたいんだ・・」

歩太郎は、鏡を見ながら俺に話しかける。

「今日の放課後・・・僕の家に来てよ・・・」

歩太郎にいきなり身体を奪われる!とっさに俺は両手で自分の身体をガードした。

「ハハッ・・・別に取って食べようっていうわけじゃないんだ・・君にお願いがあって・・」

「お金ならないぞ」

たかる気かもしれない歩太郎をけん制する俺。しかし笑いながら違うというジェスチャーを返す歩太郎。

「違う、違う。君に見せたいものがあるんだ」

歩太郎は言う。

「・・・君にチャンスを与えたい・・一度・・・取り替えないかい?僕の身体と君の身体・・・・イケメンの顔を含めて・・・」

「えっ・・・?」

なんだろう・・・この展開・・・まさかとは思うが・・・


「君の〇は」じゃないか!


俺は、全力でその場から逃げ出す。そんな展開は、許されない。僕が歩太郎になるわけがない。顔も性格もイケメンである俺が、なんで歩太郎にならなければならない。


そう。現時点で何のメリットもない僕が、


そのあと、どれだけそのことに後悔したか。


思い知ることになるなんて・・・

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