第24話 昨日の敵は今日の友 <回想編>

「弘樹くーん、今日、グランドホテルで同窓会だってね。いいな~楽しんでる?僕は今、西中岡駅南口でナンパ中!そろそろかわいい彼女欲しいっす!美人の彼女がいる弘樹君が羨ましくて!」

ハハハ。勇馬君。相変わらず明るいなあ。どれ返信しておくか。

「ああ、同窓会の手伝いでヒイヒイやっているよ。で、ナンパ上手くいったのかい?」

すぐに返事が届く。

「全然ダメ~。全然成果なし。みんな話も聞いてくれない。悲し~。それにカップルだらけだ。もう鬱になるっす!」

「ドンマイ、勇馬君」

あれあれ。あの快活な勇馬君が苦戦するなんて。

!!!・・・・そうだ・・。

突然、天からの啓示の如く閃いた。優斗君を救う方法が。

「今日はもう暇だから家に帰って寝るわw」

その書き込みを見ると、すぐに右指をフル稼働させて返信する。

「勇馬君!僕の一生のお願いがある!南口にいるんだろ?すぐにグランドホテル正面の庭園まで来てくれないか?」

書き込み届け!すぐに返信が来た。

「なんだい?弘樹君の頼みなら出来ることなら何でも聞くよ。何かあったのか?」

「今ホテルの庭園のベンチに緑のネクタイを締めた黒縁眼鏡の青年が座っている。彼と接触して話を聞いてやってほしい。彼は同窓会の参加者で会を今抜けている」

「なるほど」

「あまり大きな声では言えないからLIMEでしか伝えられないが、彼は大学生活で苦しんでいるらしい。私の直観だけど人間関係も原因だと思う。彼を救ってやってくれ!

僕の大切な人だ。彼の名は山村優斗。頼む」

「了解した。すぐにホテル前の庭園に急行するよ。弘樹君の頼みだ。任せとけ」

「ありがとう!」

ホッと胸を撫でおろす。

庭園に目をやる。優斗はずっと下を向いたままベンチにてうなだれていた。

早く勇馬君!

1~2分も経たないうちに庭園に人影が見えた。こちらへ走ってくる。

ホストが着るような派手なスーツに角刈りの青年が現れた。

遠くで弘樹と目が合った。よう!と言わんばかりに軽く手を挙げ、無言でにっこりとほほ笑む。勇馬だ。

弘樹はペコリと軽く会釈する。

勇馬はすぐに近くのベンチに座っている優斗を見るとさっそくニコっと明るく話しかけた。

勇馬君!彼を助けてやってくれ


アイコンタクトでじゃあ、と挨拶すると弘樹は急いでホテルの中に入ると同窓会会場へと戻っていった。

「高校時代のかつての出来事」をを思い出しながら。


彼の名は長塚勇馬。

弘樹と同い年。西中岡工業高校を卒業。そう、弘樹が高2の頃の西中岡高校乱入事件の当事者であった。

「おらあ!俺とタイマン張る奴。出てこいや!俺は『岡工』の長塚だ!」

ある平日の午後。金髪リーゼントの学ラン姿の勇馬が西中岡高校の正門を乗り越えてズカズカと大股歩きで高校の敷地を闊歩していく。

それを見かけた用務員がすぐに職員室に駆け込んで職員室に残っている教師に報告した。あいにく授業中で職員室にいるのは中年女性教師一人だけだった。

オロオロと戸惑っていると

「何の騒ぎか!」

と校長が職員室に入ってきた。

事情を聞き、外へ目をやると勇馬が喧嘩の相手を求めて大声で騒いでいた。

「困ったな。工業高校の不良か。あの剣幕だと話し合いにも応じてくれそうもないしな。実力行使は後々問題になる。誰か奴を説得する人はいないのか?」

「村上校長先生、そんな人いますか?体育の先生は今日に限って出張なんですよね。誰も行きたがりませんよ。空手部などの生徒に話をつけてもらいます?」

「生徒同士だとさすがにまずいだろう」

「でも・・授業中の生徒も異変に気付き始めているはずですよ」

「どうしたものか」

ガタン!

揉めているうちに勇馬は正面玄関から校舎内に突入してきた。

「俺とタイマン張れる奴はこの高校にはいないのか!」

大声で叫びながら走り回る。

なんだ?授業中の生徒や教師が廊下に出る。

その時だった。

「西中岡高校の皆さん!こんにちは!俺は西中岡工業高校の長塚勇馬!俺は今、喧嘩したくて仕方がない!この高校で一番喧嘩の強い奴出てこいや!タイマン張ろうぜ!放送室で待っているからな!」

大音量で全校に放送が流れる。彼は放送室に入り込みマイクで絶叫していた。

騒然とする校内。落ち着きなさい!となだめる教師たち。

数人の男性教師らが放送室前に急行する。ドアには鍵がかかっていた。

「ドアを開けなさい!」

「喧嘩の強い奴、連れてきたんだろうな?」

「馬鹿言っているんじゃない!出てきなさい!」

「嫌だね。タイマン張るまで帰らないぞ!」

「困ったな・・」

立てこもりが始まった。


その頃、空手部や柔道部、少林寺拳法部、合気道部、剣道部などの格闘技系の部員らが自ら空き部屋の教室にて「緊急招集」していた。

「岡工の不良め。面倒事起こしやがって」

「しかし、こうして非常時にはすぐに集まれるようにと各部活で意思疎通を図っていたのは功を奏したな」

「だな。ただこの後どうする?奴は放送室に立てこもっている。先生らが説得に当たっているが説得に応じて出てきたところを取り押さえるしかあるまい」

「どうやって放送室から引きずり出すのよ。奴はタイマンとか言って決闘を望んでいるんじゃないの?誰かが決闘に応じるしかないんじゃないの?」

「さて誰が行くか・・・」

部員らは顔を見合わせる。

その時だった。

「僕が行こう」

空き教室にブレザーの制服姿の生徒が入ってきた。田中弘樹だ。

「生徒会長!」

部員らは驚きの声を上げた。












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