第23話 スクールカースト最上位と最下位
「いや・・・やめておく・・苦手だし・・」
困惑した表情のまま右手をブンブンと振って拒絶する優斗。
「何しているんだよ。早く歌えよ!」
「後がつかえているので早く選曲してよ」
他の参加者からも不満の声が飛ぶ。イライラが伝わってくる。
ああ、これはカラオケハラスメントだな。カラオケが苦手な人に歌うことを強制させる行為は。
じゃあ。さっと挙手する。
「僕が歌うよ。選曲ブックを貸して」
おおっ、という雰囲気に包まれた。元・人気生徒会長様の出番だからだ。
素早く選曲を終えると正面スクリーンに新たな画面が映し出されノリの良い音楽が流れる。
「田中弘樹。『関東男子のサファイアブルーラブ』を歌わせていただきます!」
マイクを片手に身振り手振りを交えながら熱唱する。コンサート会場のごとく盛り上がる。うん、やっぱりたまにはカラオケもいいもんだ。
チラリと優斗の方に目をやる。
優斗は下を向いてうつむいている。苦手なカラオケを押し付けられるのは辛かっただろう。はやりカラハラはよくないな。成人したらアルハラという問題も出てくる。
ハラスメントという行為に対してもっと真摯に向き合わないと。
そう思いながらマイクを置く。盛大な拍手とともに。
「ごめん、急用を思い出した。今から帰るよ」
幹事の雅敏を呼び止めて優斗は声を掛けていた。
「そうなんだ。残念だな。まだ時間があるから残って欲しかったが」
「本当にごめん」
申し訳なさそうに頭を下げる優斗。
「でも、このままサヨナラじゃちょっとね。そうだ。弘樹君にホテルの外まで見送ってもらうわね」
美帆子は近くにいた弘樹に声をかけて呼び出し耳元でささやく。
困惑する優斗と一緒に会場の若竹の間を後にする。
参加者の歌声が漏れ聞こえるホテル内の絨毯が敷き詰められた廊下を無言のまま歩く。
フロントのすぐ近くまで来た。他のホテル利用者から見えにくい置物のある壁際のあたりで弘樹は足を止めた。
一言でいい。自分の不手際を謝罪しよう。君のいじめ被害を発見できなかったことを。
「改めて、山村君。中学以来だね。元気してたかな?先ほどはあまり話できなかったけどね」
「・・・・・」
「君も中学時代に色々あった。でも僕は当時の会長として・・」
「謝罪?謝らなくてもいいよ・・君は何も関係ないし」
「しかし・・」
「謝って何になるんだよ。ふっ、それとも自己満足?君が謝って僕が笑顔で応じてメデタシ、メデタシって感動の展開を望んでた?やめてくれよ」
先ほどとは打って変わって語気をやや強めた彼の言い方に弘樹は言葉を詰まらせる。
「う・・・・・」
「田中君、会場内で耳に挟んだんだけど君は高校でも生徒会長だったみたいだね。さすがだね。優秀で人望があって。いいなあ、羨ましいな。さぞかし充実した中学高校生活だったでしょうよ。大学だって有意義なキャンパスライフを堪能しているんだろうな。僕なんかと大違いだ。今も昔も」
嫌味を込めて暗い表情で睨みつけるような表情で語りかけてくる。
「それは・・・」
「僕は『一応』だけど大学生をやっているんだけどさ。まあ今思い知ったよ。僕なんか大学に行く資格なんてなかったんだよ。目的もなく、ただ学生生活を送っているだけの・・」
やはり、先ほどの権藤さんに言われた言葉を気にしているのか。
「そんなことはない!」
「気休めはやめろよ!僕はその大学生活自体だって、人間関係だって・・だって・・」
言葉を詰まらせる。そして弘樹に背を向ける。
「山村君・・」
「スクールカースト最上位の田中君には分からないんだろうな。この悔しい気持ちは。歯がゆい気持ちは。何もかもが上手く行っている君には分かるまい。カースト最下位の者の気持ちなんて」
豪勢なシャンデリアを施した天井を見つめる。
「・・・・・」
「今日はありがとうよ。僕みたいな非リア充には同窓会なんて似合わなかったんだ。下手な気遣いはかえって苦痛なんだよ。再び会う事はないだろう!これ以上の見送り結構!」
そのまま早歩きでホテルの外へ去っていった。
「山村君!」
同じく早歩きで優斗を追いかける。
優斗はホテルを出るとすぐにホテル所有の小さな緑地のベンチにフラフラと腰を下ろして下を向いてうなだれた。これ以上、彼を追いかけるのは酷であろう。
クソッ!クソッ!!
弘樹は両こぶしを握り締め、目をきつく瞑り自分の無能を恥じた。
僕は何をやっているんだ!同級生一人もまともに救えないなんて!
仲間が苦しんでいるのに・・・僕は何も出来ないのか!
その時だった。
弘樹のスマホが鳴った。LIMEが誰かから来たらしい。
麻美か、春奈か、それとも綾香さんからか。
「勇馬君か・・」
スマホを見て意外な人物から連絡が来たと思った。
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