第22話 「目的意識もないのに大学なんて行かないもん」

弘樹が優斗を連れて男女5~6人集まっている小グループに合流した。

やはり弘樹が輪に入ると皆の反応がいい。

「どうも、久しぶり・・山村です」

優斗はたどたどしく自己紹介をする。

皆の反応はなぜか芳しくなかったというか、普通ならわっー!久しぶり!山村君!と歓声が上がるはずだが。

弘樹は少々違和感を覚えた。

まぁ切り出してみよう.

「山村君、中学以来だね。今、何をしているの?」

「一応、大学へ行っているよ」

「へえ!大学か。それでどこの大学へ行っているのかな?詳しく聞きたいな~」

「・・・辺銀県辺銀市にある私立辺銀大学。社会科学学部だよ。まぁ何とか頑張って学生生活を送っているけど」

「辺銀県って言えば少し前は小さな地震が結構起きていたよね。災難だったな」

「うん、毎日ビクビクしてた」

「僕は地元の市立大学へ行っているから実家から通っているけれど、遠い場所で一人暮らしなんて大変だよね。その話も聞かせてくれるかな?」

「そうだね・・例えば・・」

あれ?僕と優斗君ふたりで会話しているみたいだ。普通なら他の参加者からも質問が飛ぶんだけど。

その時だった。


「目的意識もないのに大学なんて行かないもーん」


すぐそばにいる女性参加者がボソッとつぶやいたのだ。

「・・・!」

弘樹は内心びっくりした。その言葉はハッキリと聞き取れた。

彼女は優斗に伝えるつもりで言った訳ではないだろう。しかし決して小さくない声で言ったのが聞こえた。同時に彼女はプイっと横を向いて視線を反らせた。場の空気は一瞬固まった。

弘樹は優斗の顔を思わず見た。

彼は険しい顔をして唇を噛みしめていた。視線はうつろだった。

やばい、場を盛り上げないと。

「そうだ。山村君。もっと話を聞かせて・・」

その時グループ内では弘樹と優斗を除いて会話を始めていた。二人は蚊帳の外へ出され始めていた。

優斗はふっと微笑を見せた。

「じゃ、自己紹介は終わったから他行くんでよろしく。・・またな」

一礼すると優斗はグループを去っていった。

次の瞬間、またグループ内の雰囲気が明るくなった。

「おーい、生徒会長!。こっちにも来てくれよ~」

どこからとなく声が飛んでくる。

「ああ、行くよ」

「弘樹君、もう行っちゃうの?寂しいなあ」

「ハハハ、また後で話そう。色々お呼びがかかっていて・・・」

グループを後にする。チラリと優斗に視線を向けてみる。

がっくりと肩を落として立ち去る彼の姿が見えた。

山村君・・・

「もう、権藤ちゃん。はっきりと言い過ぎだよぉ」

「だって・・・」

「山村君ってさあ」

かすかに背後から聞こえる声がした。ヤレヤレといった感じが伝わってきた。

やはり彼は嫌われているのか?そんなはずはない。いじめ加害者ではない。被害者なんだぞ。嫌われる要素はないはずだ。何故?

一瞬疑問が頭をかすめた。しかしすぐに他参加者との会話の嵐が弘樹を待ち受けていた。

楽しく参加者との交流を図ることは大切なことなんだ。

「弘樹君、そろそろアレを始めるわよ。ちょっと準備いいかしら」

美帆子がさっと話しかけてくる

「おお、カラオケだな。この人数だ。盛り上がるぞ~。今行く」

またしても名残惜しそうに弘樹を見送る面々。

「皆様、会話をお楽しみ中、大変恐れ入ります。これからカラオケ大会を始めたいと思います。正面のスクリーンをご覧ください。迫力ある大画面とサウンドで盛り上がりましょう!」

雅敏の挨拶に会場は大歓声に包まれた。

複数のマイクとカラオケ選曲ブックとリモコンが用意された。

さっそく目立ちたがり屋のリア充らがマイクを片手にノリの良い曲の熱唱を繰り広げた。

歌い終わるごとに盛大な拍手が鳴り響く。

マイクを独占せんばかりに複数の曲をはしごする参加者もいた。

「なるべく多くの人が歌えるように配慮をお願いします」

「いろいろと皆を誘って歌っていきましょう」

正副幹事の呼びかけに応じて複数の参加者がマイクを握っていった。


「ねえ、次は山村君、君歌ってよ」

ある男性参加者がマイク片手に会場の隅で固まっている優斗を指さして指名した。

優斗はびっくりしていたがを嚙みつぶしたような表情に変わっていった。

まっぴら御免というのがありありと見えていた。












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