第21話 因縁の同窓会が始まる

夕方の五時過ぎ。同窓会会場の西中岡グランドホテル入口。

「西中岡市立堀境田中学校 97期生 同窓会」の立て看板が静かに掛けられていた。

その会場となる「若竹の間」ではすでに大人数の若人たちで溢れかえっていた。

「懐かしい!」

「元気してた?」

「超久しぶり~」

皆思い思いに学び舎の仲間との再会を喜んでいた。

連絡先交換で忙しい。

同窓会前にどこかで酒を飲んできたのか、顔が赤い奴も数人いた。

「二次会で居酒屋へ行こうぜ~」

という声も聞こえる。

「さて、同窓会開始時間の五時半までもう少しだ。最初の挨拶が緊張するよなあ」

会場正面の立てかけられたマイクの前で同窓会正副幹事と弘樹は待機していた。

「大丈夫よ、雅敏君。これさえ終われば後はグダグダにやっていればいいし」

「そうとも。幹事主催の二次会もあるけれどこれは本当に僕たちと親しかった人達だけだから気が楽になる。頑張ろうぜ」

弘樹はふと参加者らの中を見渡した。

山村君はまだ来ていない?

その時だった。緑のネクタイをした黒縁眼鏡をかけた青年が受付係の女性に声を掛けているのが見えた。

あ、山村君だ。見覚えのある顔を見て安堵する。しかし安堵の感情の後に後ろめたい気分が芽生えた。あのいじめ事件の被害者だ。頃合いを見て仲良くなろう。そして謝罪しよう。

山村優斗。彼はスゴスゴと若竹の間に入ると申し訳なさそうに会場の隅で待機した。

再開を喜ぶ同窓生の中で彼に話しかける者はまだいない。彼は緊張のあまりか表情が硬かった。

五時半。時間だ。幹事の雅敏がマイクの前に立ち、声を出す。

「時間になりました。私は幹事の梅田雅敏です。皆様お忙しいところ、第97期生、西中岡市立堀境田中学校同窓会にお集まり頂き本当にありがとうございます!ここに同窓会開催を宣言いたします!」

ヒュー!!パチパチ!!同窓生は一斉に拍手と歓声を上げた。

「本当に手短に挨拶を済ませますよ。長々と話を繰り広げる校長や教頭とは違うんでwここにはいないけど校長先生、教頭先生ゴメンナサイw」

どっと会場から笑いがこぼれる。

「酔ってんのか~」

うれしいヤジも飛ぶ。

「今日は懐かしい学び舎の多くの仲間と我らが恩師が何人かおります。三時間少々の時間ではありますが楽しみましょう!よろしくお願いします!」

拍手のあと副幹事の美帆子が挨拶をする。

「副幹事の林美帆子です。午前中は成人式、午後は親戚とか友人回りとか忙しかったと思います。そんな中、堀境田中学の懐かしい面々と再会するためにお集まり頂きありがとうございます。参加者はなんと200名近くです。驚異の参加率です。私はうれしいです。今日は存分にお楽しみください」

さすがに中学時代は男女ともに人気があった美帆子だ。羨望の眼差しが美帆子に向けられているのがよく分かった。さて次は僕だな。

「いよっ、生徒会長~!」

すかさず掛け声が飛ぶ。

「この同窓会の手伝いをさせていただいた生徒会長をしておりました田中弘樹です。正副幹事はとても優秀なので私は楽しく手伝いをさせて頂くことができました。うれしく思います。彼ら彼女から既にご挨拶を頂いておりますので改めて申し上げることではありませんが、つい最近、我らの堀境田中学校は創立100周年を迎えました。この西中岡の地で先輩方が汗を流してこの郷土に尽くされてきたのであります。その輝かしい歴史と功績を受け継ぐべく、先輩方に応えるため、我々は仲間と交友関係をさらに深めようではありませんか!」

ぐっと右手の拳を握ってガッツポーズをとる。

すごい歓声と拍手が巻き起こった。決まった。

雅敏も美帆子もよくやったといわんばかりに拍手している。

う~ん、満足。思わず笑顔がこぼれる。

そして待望の歓談の時間に突入した。

立食形式のパーティで基本的に立ち話をしながら食事をする。もちろん、椅子やテーブルも用意してあり利用もできる。

さっそく中学時代の人気者の周りには人だかりができた。もちろん、雅敏や美帆子も人気があったがさらに生徒会長をしていた弘樹は引っ張りだこであった。

あちらこちらで参加者に呼ばれたり、集まったりしてきて行きつく暇もない。

中学時代の話題に花を咲かす。中学時代の恩師も盛んに弘樹に話しかける。

かつてのソフトテニス部の顧問や担任の先生。その他の教師らとも懇談する。

みんな現在は様々な状況下にある。

大学や短大、専門学校に進学している者、就職している者、残念ながら現在は無職状態の者もいた。それでも彼らはあっけらかんとしていた。若者らしい楽観からと楽しい場だからだろう。

なんと結婚している者もいた。幸せそうだ。

もちろん、優斗をいじめていた連中と同じように不祥事を起こした者などは欠席している。まだ十代だから参加者が多いのかもしれない。少なくても今が不幸な人間は参加しないはずなのだ。

弘樹はちらりと会場を見渡す。優斗君はいないかと。

優斗は独りぼっちで会場で孤立していた。ずっと下を向いていたかと思えばキョロキョロと挙動不審に周りを見渡す。そして食事をを手に取り黙って一人で食べていた。

そして会場の片隅に移動しソフトドリンクを口にしていた。

あっいた。彼だ。

「山村優斗君だよね?久しぶりだね。もしよかったらこっちへ来て話さないか?」

「・・・・」

弘樹の誘いに黙って頷いて優斗は弘樹らが集まるグループの中に入っていった。


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