第20話 中学いじめ事件とは

西中岡グランドホテル「若竹の間」。

この大広間はよく同窓会にも使われるらしく、カラオケ機器も完備している。

誰しも若い竹だった時代を思い出してほしいからとホテルの従業員が言っていたな。

「フフフ、お待ちしておりましたぜ。同志諸君」

足を組みながら意地悪な笑顔を振りまく雅敏。

「早いな~。さっすが幹事ね。やる気が違う~」

「一本取られたな。なるべく早く行こうと思ったけど、僕はまだまだだ」

「よし、役者が揃ったところで最終確認だ。ホテルの担当者にもOKを出すから」

3人は着席し今まで打ち合わせしてきたことを書類を交え簡潔に確認する。

「さて、こんなもんでいいだろう。立食形式でいいよな。それにしても酒を出さないでソフトドリンクと料理だけで良かったのかな」

「雅敏君、参加者の中には成人した者も多少はいるだろうが大多数の参加者はまだ未成年なんだ。さすがに公共の場所では堂々と飲酒はまずい」

「確かにね。準備段階の頃は私も酒くらいは・・と思ったけれど主催者側がアルコール提供はちょっとコンプライアンスに照らし合わしてもどうかと思う」

「だな。どうせ参加者たちは『二次会』として居酒屋に繰り出すんだろうしな。それに同窓会開催前から顔を赤くしている奴も絶対にいると思う」

「そう、アルコールに関しては少なくても我々主催者は関知しないということで」

同窓会準備段階でソフトドリンクコースを押したのは弘樹だった。ほかの2人は少々不満だったが今となっては最善の選択だった思う。

まぁ弘樹は未成年だけど美久台から帰った時に少し地ビールを口に含んでしまったが・・・。

苦かったな。

「そういえばさ」

「どうした。雅敏君」

「同窓会参加者の名簿。既に目を通しただろ。例の3人はやはり欠席だったな」

「例の3人?どういうことよ」

美帆子も少し目を丸くしている。

「栗山、芹田、梶本。例のいじめ事件の加害者連中だよ。中学の時に大問題になったろ」

「ああ、あったわね。寄ってたかって山村君をいじめ抜いて顔面を怪我までさせたって。そんな奴ら、欠席して正解だよ」

「さすがに恥ずかしくて出席できないはずだよなあ」

「・・・・・・」

中学の時のいじめ事件か。忌まわしい思い出だ。僕は生徒会長として無力だった。

問題が表面化したのは3年生の時で既に生徒会長は退任していたが、被害者の山村優斗君は1年生の時から地獄のいじめを表で裏で受け続けていたらしい。僕が生徒会長としていじめを察知できなくて結局彼を救うことができなかった。

山村君とは別クラスだったからと言い訳は通じない。

『全員正座しろ!!』

当時、校長の怒号により3年生は体育館にて全員正座させられて教師らから強い叱責を長時間受け続けた。今も強く印象に残っている。

『お前らは勉学や運動を共にしてきた仲間なんだろ?彼は1年の時から被害をうけていたそうだ。そんな仲間が苦しんでいるのを何故気づいて助けてやらなかったんだ!それでも仲間なのか?仲間を救えよ!』

痛恨の極みだった。反省しなければならない。

二度にわたる山村君の顔面負傷事件。弘樹が聞いた概要がこれ。

1回目は栗山の家に呼び出された時に3人からリンチにあった時。夏休み中だったため、学校にはバレることはなかった。

2回目は3人に校舎の屋上に通じる階段の踊り場に呼び出されてリンチ。梶本にむりやり上履きを脱がされてその上履きで顔面を滅多打ちにされ、芹田と栗山は面白がっていた。

校舎内での事件のため事が初めて公になったって訳だ。

山村君は保健室のベッドでぐったりと横になっていて、傍らで担任の先生がどこかに連絡をしていて必死に対応に当たっていたらしい。

加害者連中とその親らは二度にわたり山村君にお詫びに訪れたそうな。

山村君の無念を思うと胸が痛む。そういえば博さんも中学生の時に暴力的ないじめを受けて被害者なのに教師連中から疎まれていた。

中学時代といえば青春期の初期だ。山村君も博さんも青春期の初っ端から躓いてしまった。中学時代、すでに美帆子と交際できてリア充だった自分は恵まれ過ぎていた。

「・・弘樹君?」

「どうしたの?怖い顔しちゃって」

ハッと我に返る弘樹。

「いや、少し考え込んでいた。大丈夫だ」

「例のいじめ事件のことか?」

「深く考えないほうがいいよ。弘樹君は悪くないよ」

「ごめん。気にし過ぎたかな」

ポリポリと頭を掻く。

「まぁ、その山村君は今日は出席の予定だな。欠席の連絡は入っていない」

「そうか・・」

今更ながら思う。

年末に大学の売店店員の村田さんに言われた言葉。

あなたは幸せが当たり前だと思っている、と。その指摘は的確だった。

自分には何ができるだろうか。

「では料理とお飲み物をテーブルに運ばせていただきますね」

雅敏から連絡を受けた従業員らが飲食物の準備を始めた。

山村優斗君。この後、僕は君に詫びよう。生徒会長として力不足であったことを。











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