第25話 校庭の乱 <回想編>
「生徒会長自らが行くことはありませんよ!こんなチンピラのために」
「会長自身の身に何かあったら・・・・」
「我々が何とかしますよ」
部員たちは騒然としている。
弘樹はさっと手を挙げて彼ら彼女らを制止し、静かに見渡す。そして口を開く。
「万が一、この事が外部にバレてしまえば君達の部活動に支障が出る。大会が近いだろう?」
「でも会長だって・・・」
「僕はいいんだよ。こんな時に矢面に立つのが生徒会長ってやつさ。時間がないから行くよ」
ニッコリと笑うと体を反転して歩き出す。
「会長は格闘技経験はおありですか?」
「それなりにね」
ふっと呟いて空き教室から出ていく。
しばらく呆然としていた部員だったが
「俺らも行くぞ!会長に続け!」
「お、おう!」
ぞろぞろと弘樹の後に続いていった。
放送室前。
男性教師らと放送室内の勇馬の睨み合いは続いていた。
「田中君!そして君たちはなんだね!」
「先生、生徒会長として事を収めるためにやってきました。お任せください」
「しかし・・」
「分かりました。お任せしますよ」
年配の男性教師が場を打開するべく弘樹に許可を出す。
「ありがとうございます」
一礼するとドアに向けて静かに切り出す。
「失礼する。僕は生徒会長の田中弘樹だ。とりあえず校庭にでも出て話をつけようじゃないか」
「何?生徒会長だと?ラスボスのお出ましってか。フン、お前部活なんだよ?」
「ソフトテニス部」
満面の笑顔で答える。唖然とする一同。
「テニスぅ?舐めてんのか!では喧嘩経験とかはあるんだろうな?」
「喧嘩は殆どないけど空手と合気道なら少し習ったことがあるけどね」
「・・・まあいい。このままじゃ埒があかねえ。こんな狭い空間は飽きたから出るか」
ガチャリと放送室のドアが開く。そして互いに目を見る。
「君が長塚勇馬君か」
「なんだ。拍子抜けだな。爽やかボーイじゃねえか。ようし校庭に行こうぜ」
「校庭はこちらだよ」
弘樹と勇馬、男性教師と格闘技系部員らが大名行列のように校庭に繰り出した。
「上着はここの植木の上にでも置いてくれ。お互い動きづらいだろうし」
「・・やる気満々じゃねえか。気遣いは感謝する」
お互いにブレザーと学ラン上着を脱ぐと校庭中央に陣取った。周りをギャラリーが囲む。
それだけでない校舎の窓から一斉に生徒や教師の視線が二人に注がれている。
その中には麻美や雅敏の姿もあった。
「役者は揃ったし、チャッチャと始めようぜ」
「お手柔らかに頼みますよ」
お互いにファイティングポーズをとる。
しばらくの静寂が包む。
先に仕掛けたのは勇馬だ。
強い踏み込みがこちらに来たと感じたと同時に彼の左拳が弘樹の顔面めがけて飛んでくる。さっと右手でガードする。
いきなり右ストレートを繰り出してこないあたりボクシングの知識があるのではないかと一瞬感じた。こいつ並の不良ではないな。
更に踏み込んで左を打ち込んでくる。さっと後退してこぶしの射程圏外に逃れる。
すぐにこちらも反転して踏み込んで左パンチを繰り出す。
なんと彼は瞬時に体を右に傾けて弘樹のパンチをかわした。なんという反射神経と身のこなしだ。
そこへ勇馬の左膝が弘樹の体めがけて閃光のごとく迫っていた。膝蹴りは脚をつかみづらく防ぎにくい。逃れられるか。こちらもすぐに後退を始める。
「くっ」
完全ヒットではないものの弘樹の腹に膝が刺さった。かすかに痛みを感じる。
危なかった。後退を始めてなかったら悶絶していたところだった。
体のバランスをとるのも上手い。さすが大口を叩くだけあるな。
勇馬の左足が戻るのと同時にこちらも右ローキックを放つ。
瞬時にあちらも右足で受けてくる。右足に痛みが走る。やるなあ。
「うおおお」
ひたすら狂ったように両拳が自分の顔面に向けて無数に飛んでくる。
右に左に体を動かしくねらせてパンチをかわし続ける。
ソフトテニスで培った体幹を舐めんなよ。
パンチを打ち込むあまりにガラ空きになっていたボディに向けて下から強烈な左を放った。ガードをすっかり忘れていた勇馬の腹に見事に突き刺さった。
「ぐう??」
苦悶の表情を浮かべて膝を落とし身をかがめる。ならやることは一つだ、
強烈なエルボーを彼の左肩へ叩き込んだ。終わったか。
いや、そう簡単に決着がつくわけないもんな。次の瞬間なんと苦し紛れにタックルを仕掛けてきたのだ。こいつ化け物か。どこにそんな余裕があるんだよ。
ならば・・
瞬時に低い態勢をとると同時に勇馬の胸倉をつかんだ。
「どりゃあああ」
渾身の力を込めて勇馬の体を持ち上げる。あああああ。
そのまま左に態勢をねじ込んだ。これで決める!
体が宙を浮いていく。
柔道の背負い投げもどきが炸裂した瞬間だった。
情けなく勇馬は天を仰ぐ羽目になった。
そこへすぐさま右拳を勇馬の鼻先に向けて繰り出す。
「ヒィッ」
恐怖のあまり目を閉じている。
・・・・・・
ここまでにしておくか。鼻先で寸止めしておいた。
彼はおそるおそる目を開けた。
拳はそのままにして問いかける。
「どうだい?まだやるかい?」
「・・・うう」
しばらくの間ビクビクと怯えていた。
「あんたも強かったな」
「・・・分かったよ・・俺の負けだ・・」
力なく答えるのを見届けると鼻先の拳を引っ込めた。
次の瞬間、校舎から校庭のギャラリーから大歓声が響いていた。
拍手拍手の嵐だった。
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