第14話 美久台観光と胸騒ぎ

綾香には今更、ホテルを変えることはできないとやんわりと伝えた。

ビジネスホテルは客室に部外者を上げることに対して厳しいところが多い。自分が泊まる予定のホテルがラブホテルとかだったらありかもしれないが。

何を考えているんだ・・・。

自分も男だ。若い女性に好かれることは嫌ではない。

しかし自分の彼女である麻美を裏切れない。

ざんねーん、と綾香は少々ふくれていた。まぁアルコールが大量に入っているからだな。いつもの綾香はいい子なんだと思う。

アイスを食べてひと段落したところで各自更衣室へ戻り着替えて表に出る。

館外へ出るとイルミネーションがまばゆいばかりの光をちりばめていた。

まさしく光の絨毯であり、光のトンネルが四方八方へ光を放ち輝いている。

「すごい・・・」

「うわーっ、綺麗!!」

思わず声が出る。

温泉に入る前にもイルミネーションを目にした。しかし辺りが暗くなった今では格段に光のレベルや感動が違う。

少し歩いて巨大なツリー状のイルミネーションに到達した。

沢山の人がデジカメやスマホカメラを向けている。

「彼女さんとこういう所、行ってみたいですよねえ」

「はい、ぜひ行きたいです。来年のクリスマスイブはここでもいいくらいですよ」

ツリーを見上げる。無数のLED電球が巨大な三角を作り色とりどりの主張を繰り広げている。

「ねえ、弘樹さん・・」

「はい」

「わがまま言います。私と手を繋いでくれませんか?彼女いるのはわかっているけど」

「はい?」

「ここはカップルだらけだよ。みんな手をつないでいるよ。肩を抱き合っているよ。この場では私たちは『カップル』だよ。何もしてないなんて違和感あるよ・・・」

突然の言葉に言葉を失う。

「しかし・・」

「大丈夫だよ。手を繋ぐ位なら彼女さんを裏切ることにはならないよ。私は今とても寂しい・・・。お願い・・」

アルコールが抜けていないからとはいえ綾香の懇願に困惑した。

悩んだって仕方がない。最後までヤッちゃうわけじゃない。手を繋ぐくらいなら・・・

弘樹は黙って左手を差し出した。

ゆっくりと綾香は右手で弘樹の左手を包む。ああ柔らかいな。若い女子の手って。

「ありがとう・・。しっかりとしたスポーツマンの手だ。うふふふ」

恥ずかしながらの笑顔がぎごちない。それはこっちも同じ。ただ苦笑する。

しばらくの時間の後、二人はツリーを後にした。

美久台駅行きの無料シャトルバス乗り場に向かった。

「よし、私決めたぞ~」

「ん?」

「私も卒業後は美久台のための仕事に就く。生まれ育った美久台のために尽くす。目指すは市職員!ゆくゆくは市議でもいいな。弘樹さんを見習うわ」

「いいですね~綾香さんならできますよ」

「やってやりますよ!」

ガッツポーズを決める。

まもなくシャトルバス乗り場に着いた。

「また明日ね。美久台駅前で待ち合わせしましょう。別の観光名所を案内しますよ。もちろん市役所にも行こうか」

「よろしくお願いします。で、これから綾香さんはどうします?自宅までのアテあります?」

「私は大丈夫。ここから少し歩いたところに富丘という駅があってそこの近くが自宅だから。今から帰るよ」

「なら心配ないですね。明日も美久台の案内お願いします」

ぺこりと頭を下げる。

「またLIMEで連絡するね。お互い地域の発展を願う同志よ!」

まもなくシャトルバスがやってきた。

お互いに手を振りバスに乗り込み発車した。

「ハハハ・・・いい子だったな。綾香さん」

酒が入っていたとはいえ、とても積極的だったなあ。

前にも思ったが気さくな近所か親戚のお姉さんって感じだ。

思わず苦笑する。

しかし次の瞬間、違和感というかしっくりしない気分に陥った。

「誰かに見られている?」

まさかね。気を取り直してその場を後にした。







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