第13話 美久台観光と違和感

それからは怒涛の観光巡りとなった。

大型ショッピングモールに無料シャトルバスで美久台ショッピングモールに二人で降り立つ。そしてしばらく歩く。新年早々なのにかなりの観光客がやって来ていた。

「なんて大きい場所なんだ。そして広い!西中岡のところとは比較にならない。何倍の広さなんだ・・・」

あたりを見渡し絶句にも似たような感想。それを見て綾香は微笑む。

「ここ美久台ショッピングモールは元々は遊園地だったの。ウエスタンな雰囲気の街並みを再現しているわ。店舗数はズバリ200以上あるわね」

「200?そんなに!店舗マップを見ても3エリアに分かれていて完全にテーマパークですよ。これはどの店に行こうか迷いますね」

「弘樹さんは行きつけの店とかあります?」

「私はスポーツメーカーの店に行きますね。自分自身がアスリートですから。そしてキャンプ用品店とか登山メーカーの店も個人的にはお勧めですよ。それらの店の服は派手過ぎず丈夫ですからね。御用達ですね」

「私も同意見よ。ナイクやアーティタス、ブマーなどに行くわね。私はソロキャンプにハマっているから。お互い趣味会うわねえ」

「キャンプいいですよね。私も昔はよく行きましたよ」

談笑しながらモールの街並みを散策する。

大手スポーツ用品店やキャンプ・登山用品店をめぐる。特に何も買わなかったが。

あ~あ、こりゃ完全にデートだよ。麻美、ごめんな。絶対に浮気じゃないよ・・・。

麻美に見つかることは絶対にないけれど。少しばかり罪悪感が沸く。

ポリポリと頭をかいて苦笑いだ。

「?」

その時だった。妙な違和感が弘樹を襲った。

気のせいか・・・


美久台ショッピングモールを後にしてインター近くの蕎麦屋の中に二人はいた。

綾香おすすめのお店だという。

「へえ、田舎蕎麦ですか」

「美久台の蕎麦はつなぎに山芋を使用しているの。やや太くて食べ応えがあるのよ」

蕎麦猪口に蕎麦を少しだけつけてすすり、よく噛む。

「美味しいですよ。都会では繊細な細い麺が多いですが野趣あふれる田舎蕎麦もいけますねえ」

「でしょ~」

二人共に四角いザルに盛られたもり蕎麦を注文していた。

蕎麦好きならもりでしょ。なんと綾香は板わさと日本酒を嗜んでいながら蕎麦をすする。

「やっぱり蕎麦にはビールもいいけど日本酒だよね。弘樹さん、ドン引きしてる?君もまもなく成人になるでしょ。蕎麦とアルコールは会うよお。ハマること間違いなし!」

「ハハハ・・・」

「東京は江戸前の蕎麦が有名じゃないの。藪・更科・砂場・・・名店が多いわね。弘樹さんが羨ましい」

「確かに東京では昔から蕎麦と酒は江戸の人々の文化でした。今でも酒を楽しみつつ蕎麦を食べる人は多いですよ」

「うん、今度東京に行ったらテレビや雑誌で見る老舗の蕎麦屋さんに行きたい。案内してね」

豪快に蕎麦をすすりつつ、やや顔を赤らめて日本酒を堪能する綾香。

「はい・・近いうちに・・」

麻美、これは浮気じゃないぞ・・・・。


二人は美久台駅前で一旦別れた。すでに日は落ちて夕方になっていた。

弘樹は駅前のビジネスホテルにチェックインしてシングルルームにいた。

ベッド上で仰向けになりながら深くため息をつく。

「僕は綾香さんと会ってから、いや美久台に来てから少しおかしい。どうかしている」

彼女に対してオドオドとした言動をしてしまった。

ふと頭をよぎる。私は博さんの気が出てきている??

その時だった

綾香からのLIMEが鳴る。先ほどの蕎麦屋で交換していたのだった。

さて、時間だ。行くか。

ホテルのフロントでキーを預けて外出する。

玄関を出ると綾香が待っていた。

「行きましょ。シャトルバスが出ているわ」

行先は美久台温泉ビール園。綾香によると温泉も有名らしい。

そしてさらに有名なのが地ビール。本場ドイツ系のビールを醸造しているという。

でもさっきから妙なのだ。視線なのかそうでないのかこちらを見られている気がしないでもなかった。キョロキョロと気にする。気にするな、楽しい旅行だろ?

シャトルバスを降りて温泉ビール園にて二人は別々に入浴をする。

内湯だけでない。露天風呂もすごく広い。

「うー!極楽極楽!やっぱり温泉は最高だなあ」

背筋を伸ばして露天風呂につかる。

その後、館内着を着て綾香と落ち合った。

案の定、座敷の館内レストランで綾香は地ビール三昧だ。

同じく美久台名物のソーセージ・ハムの盛り合わせとともに。

「ねえ、弘樹さん、ちょっと失礼なこと訊いていい?」

でき上りつつあった綾香が顔を赤らめながら問う。

「はい、なんでしょう」

弘樹はウーロン茶だ。まぁ何を訊かれるかは予想はついている。

「彼女いるの?」

「はい・・・います。すみません・・・」

「やっぱりぃ~。いるんだあ。爽やかなイケメン君だし。彼女いて当たり前かあ・・でも謝ることないよ~羨ましいなあ、弘樹さんの彼女ってどんな人なの?」

無難な受け答えをするか。

「高校時代からの付き合いで大学の同級生。同じソフトテニス部に所属しています」

「へえ~、どんなタイプ?私と同じロングヘアかな」

「いえ、黒髪ショートで根っからの運動部女子ですよ。優しくてしっかりしてて私にはもったいないくらいかな」

「羨ましい!悔しいけど彼女幸せにしてやりなよ。弘樹さんに彼女いなかったら・・・即アタックを・・私も髪切って黒くするかなあ」

ジョッキをグイっと傾ける。

「・・・いいですけど、今それをやったら・・」

ミス美久台でしょ。髪型とか勝手に変えられるの?観光大使的なことやっているし・・詳しくは知らないけど。

ちょっと面倒な展開になってきたぞ。

「私はミス美久台だから結構、行動制限はあるんだよね。アイドルと同じでさ」

綾香は愚痴りだした。いろいろ窮屈な思いもしていることとか、他にも一人準ミスの子がいて微妙な関係とか。

まずい、ここはほかの客もいるんだぞ。ミスの名を隣の客に聞かれたら・・・。

気にしなくていいに越したことはないが。

酒のピッチが速くなっている。追加のオーダーでビールとポテトフライが来た。

ここは綾香の話を傾聴するべきだろうが、いつかは止めないといけない。

しばらくしてから弘樹は切り出す。

「そろそろアイスでも頼みますか?ここを出たら温泉ビール園内を散歩しましょう」

「弘樹さん・・このままビジネスホテルへ帰るの?」

綾香は弘樹の目をじっと見つめる。伊逹眼鏡からでもトロンとした目がよく分かった。

ピンクの館内着から伸びた綾香の肉感的な脚が崩れている。

やばい。さすがに弘樹は困惑を隠せなかった。が無下に扱うわけにもいかず。

さてどうしようか。








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