第8話  リア充の年末年始

手に取った観光情報本をパラパラとめくる。吉岡県全体の観光情報が載っていたが美久台市のページを流し読みしてみる。

関東に隣接する地域にあり都心から行きやすい。東京新宿から「特急みくだい」が一日に何本か出ている

一番の売りは国内最大級のショッピングモールだ。西中岡のそれに比べて何倍も大きいらしい。そして美久台の銘水を使用した地ビールとウイスキーづくりが盛んだ。そして冷涼な気候を利用し作られたハムソーセージは明治時代から有名らしい。

また陸上自衛隊の駐屯地も複数存在し夏の演習はメディア等で報じられる。

もちろん、温泉も有名だ。

なるほどね・・・よし!ここにするか。直感というより何かに引き付けられているような気がしないでもなかったが。本を閉じる。

それを手に取り、真横の地図コーナーへと足を向ける。

もちろん、美久台市とその周辺の都市地図だ。これこれ。そしてレジに直行する。

会計を済ませて書店を出て電車に乗った。

堀境田駅に到着し、自宅目指して歩みを進める。坂の勾配がきつい所もある。これは高齢者にとっては足腰にくるはずだ。ニュータウン地区の交通網整備は喫緊なんだろう。

大学はそのまま冬休みに突入する。来年1月7日までだ。正月3日間は初詣や親戚回りなどで慌ただしいから4日から一泊がいいかな。

自宅の弘樹の自室に戻り、ベッドに横になって考える。

壁には西中岡市の都市地図が張り付けてある。

例年ながら忙しい年末になりそうだ。

まず、来年の成人式に合わせた中学同窓会の年内最後の準備の確認として雅敏らとLIMEで連絡を取り合い、必要なら実際に会ってみないといけない。

中学同窓会。中学時代にも思い残しがないと言ったら嘘になる。

いじめ事件もあった。それは心残りだ。その点も雅敏らと話し合わないといけない。

テニスラケットをもう一本ほしい。自宅用に。テニスの素振りを寝ながら行う。彼女の麻美を誘ってみるか。

あいつもユニホームをもう1着欲しいと言っていたしな。

旅行に行くならホテルの予約と特急券の購入もしなきゃ。何よりも旅行の準備を始めなきゃ。買うものはあるかな。

大晦日の年越し蕎麦は弘樹が蕎麦を茹でることを家族と約束していた。特に春奈が楽しみにしている。お兄ちゃんの茹でた蕎麦が食べたいとウキウキしていたな。

何か美味い乾麺の蕎麦はなかったかな。できれば蕎麦湯が飲めるような蕎麦粉含有率の高い商品がいいよな。スーパーにも行かなきゃ。

ああ、忙しい。色々と思考を巡らせているうちにベッドから飛び起きた。

そう忙しいってことはいい事だよな?


年は明け、新年1月1日。雲一つない快晴だ。

テレビでは年始ということで芸能人が晴れ着を着てワーワー騒いでいる。

それを尻目に父や弘樹、春奈は雑煮をかき込むと朝早く家を出た。

郵便局員である父は1年で一番忙しい日である。年賀状の配達だ。

弘樹は麻美と初詣に行くために。春奈は友人らと初詣。若者にとっても大切な日である。

父は一足早く堀境田駅に向かう。弘樹と春奈はそれぞれ友人や麻美の家に向かって歩く。

「じゃあね、お兄ちゃん、桐岡先輩によろしく。昨日のお蕎麦美味しかったよ。今年も良い年にしようね!今年こそ明るい世の中になるといいね!」

「おう、お互いに今年も充実した1年になるといいな」

ブンブンと大きく手を振り、走り出す春奈。本当に元気がいいよな。うさぎかハムスターみたいな感じだよなあ。

「さて、麻美の家は1丁目だよな早めに行こう。少し歩くけど新年早々いい運動になるぞ」

駆け足で走り出す。朝の陽ざしが眩しい。まだ早朝ということで人影もあまりない。

やや上り坂の綺麗なニュータウン道路をしばらく走ると公園が見えてくる。

「あけましておめでとう!弘樹さん!」

公園のベンチに腰かけているコート姿の若い女性がいたと思ったら麻美だった。

「麻美か。あけましておめでとう。今年もよろしくな」

「あけましておめでとう!早く弘樹さんに会いたくて・・」

さっと駆け寄ってくる。

「待った?早く出てきてくれてありがとう」

「大丈夫、さっき着いたばかりだから。今日の初詣すっごく楽しみだね」

さっそく腕を組んで歩き出す。

「恥ずかしいな・・」

「照れない照れない。人はいないから堂々とイチャつこうよ。ふふ」

「今日は大胆だな。やっぱり年始はテンションが上がるのかな」

「弘樹さんも昨年暮れから大胆だったよ~。ラケットを買うときにねえ・・」

「ああ、その話か・・勘弁してくれ~」

年末に二人は大型スポーツ用品店で買い物をしていた。

弘樹はもう一本のラケットを。麻美はもう1着のユニホームを購入に来た時だ。

麻美がスコートを選んでいる時だった。麻美はいつもは紺のスコートなんだけど

白もいいよねえ~って呟いた時だった。

「白かあ・・・」

とニヤニヤしながら微笑する弘樹の表情を麻美は見逃さなかった。

「あの時は変態的な顔をしていたよねえ?」

麻美も意地悪な顔をしてニヤニヤと笑う。

「いや・・その・・アハハ」

笑って誤魔化す。

「弘樹さんも健全な青年男子ですもんね。分かる分かる。お楽しみは後日だよ~w」

「・・はーい」

「さて、行こう。神社混んでいるかもね」

「そうそう、明日からの箱根駅伝楽しみだよね。今年も青海大学が優勝するのかな」

「青海の原島監督はやり手だからね。選手達も粒ぞろいだ。今年も決まりかなあ」

仲睦まじく一緒に手をつないで堀境田駅に向かう二人であった。











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