第9話 恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を出世させることにした

 孤児院の子供たちを屋台に連れて行ってから、私は学園祭の実行委員の仕事に戻った。学園祭には学内・学外の人がたくさん来ているから問題事が大量に発生している。迷子、スリ、喧嘩など上げればキリがない。

 生徒会メンバーはそれらの対応に走り回っている。私も問題事の対応を手伝っていたら、競技会の開始時間が迫ってきたから、私は競技場へ向かった。


 私が出場する競技会は学園祭で開催されるメインイベントの一つ。

 競技会は剣と魔法を使用した実戦形式で行われるのだが、何の制限もないと命の危険があるため幾つかルールが設定されている。剣は模造刀を使用し、魔法は中級魔法まで使用できる。その制限さえ守れば何をしても構わない、という競技だ。


***


 競技場に到着すると他の出場者との顔合わせが行われた。出場者は全員で10人、私以外は全員男性。ロベールもいた。この競技会は危険なのでお世辞にも出場者は多いとは言えない。


 私とロベールは順調に勝ち上がり、決勝戦に進出した。決勝戦の対戦者は私とロベール。


「約束を覚えているかしら?」と私はロベールに聞いた。


「もちろんです。僕も要求事項を考えてきました」


「どういう?」


「それは内緒です。試合で僕が勝ったらいいます」


「えー、ケチね。ところで、手を抜いたら許さないわよ」


「もちろんです。全力でいきます」


 決勝戦が開始した。


 私は魔法で身体強化し、さらにフレイムウォール炎壁を周りに複数配置している。単体では中級魔法のフレイムウォール炎壁とはいえ、これだけの数が同時発動していると上級魔法と変わらない威力がある。ただ、私は防御のために魔法を利用しているだけで、ロベールに対して魔法攻撃をするつもりはない。


 一方のロベールは身体強化をしているものの、他の魔法は発動していない。


――そんな状態で私に勝てると思っているのかしら?


 そう思っていると、ロベールが私に向かって突進してきた。


――速い!


 でも、私はフレイムウォール炎壁を配置しているから、ロベールはその隙間から攻撃するしかない。ロベールの動きは簡単に予想できたから、私は剣を振ってロベールの攻撃をなした。


「お姉ちゃん、頑張れー!」孤児院の女の子が私を応援している。


「ありがとー。頑張るよー!」私は子供に手を振った。


 その瞬間、ロベールはまたフレイムウォール炎壁の隙間をぬって攻撃を仕掛けてきた。

 単調な攻撃だ。私はロベールの進路に土壁を出現させた。

 ロベールは土壁を一瞬で破壊し、同時に水属性魔法で私のフレイムウォール炎壁をかき消した。


――やっと、やる気になったわね


 ロベールの放った水属性魔法はフレイムウォール炎壁によって水蒸気になって、ロベールを包んでいる。私はその水蒸気に向けてライトニングボルト雷撃を放つ。

 さすがにロベールはこの攻撃には面食らったようだ。雷撃の直撃をくらっている。


――やり過ぎた?


 私がそう思った瞬間、ロベールは何事もなかったように私に向かってきた。

 ロベールの無事を確認した私は、ロベールの方へ突進すると、腹部に掌底を当ててウィンドショック風撃を放った。

 ロベールは後ろに飛んで衝撃を殺したものの、ダメージは受けている。


「もう終わりなの?」


「まだまだです!」


 ロベールはアイスランス氷槍を私に向かって放った。私はウィンドストーム風竜巻でそれらを吹き飛ばす。次に、私はロベールがいた場所に視線を移した。


――え? どこにいった?


 その瞬間、ロベールが上から剣を振ってくるのが見えた。

 アイスランス氷槍はフェイントだったようだ。


――間に合わない……


リプレイス交換


 次の瞬間、ロベールは競技場の床に激突した。


 私は床に転がったロベールから眼鏡を取り上げて「どう? 降参?」と確認した。


「はい、参りました」


 その瞬間、審判が宣言した。


“勝者 マーガレット・マックスウェル・ウィリアムズ!”



***


 競技会は私の優勝で幕を閉じた。

 私は控室に座っていたロベールに「大丈夫?」と話しかけた。


「ええ。ケガはありません。ところで、最後は何をしたのですか?」


「簡単なことよ。ロベールと私の位置を交換したのよ。ロベールは空中から下に向かっていたけど、地面に立っていた私の場所に移動させたらどうなる?」


「地面に激突しますね」


「そういうこと」


「時空魔法か。そういう使い方できるとは知らなかったな」


「とりあえず、勝負は私の勝ちね。私のお願いを聞いてもらえるかしら?」


「もちろんです。「死ね」とかはナシですよね?」


「もちろん言わないわ」


「それならば」


「ろ、ロベール……、あ、あなた……、わ、私の婚約者になりなさい」


「え? マーガレット様?」


「マーガレット様じゃなくて……」


「失礼しました、デイジー。ありがたいことですが、私の家は男爵ですから、私の身分では婚約なんて……」


「じゃあ、爵位を上げればいいじゃない。伯爵くらいまで上げればいいわよね?」


「伯爵? 何を言っているのですか?」


「少し時間が掛かるけど、私があなたの爵位を伯爵にするわ。これでいいかしら?」


「僕を伯爵に?」


「そうよ。何か問題ある?」


「……」


「ところで、あなたのお願いは何だったの?」


「それを聞きますかね……」

 ロベールは顔を赤くして言った。


「ふーん」

 私は意地悪く言った。


「何ですか?」


「別に……」


「分かりました。言いますよ……」


「早く、言いなさいよ」


「この後のダンスパーティー、僕と一緒に踊ってもらえませんか?」


「よくってよ。でも、ちゃんとエスコートしなさいよ」


 私がそう言って手を差し出すと、ロベールは私の手を取った。



 こうして、


恋をした公爵令嬢ロベール貧乏男爵を出世させることにした



<おわり>



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この話は『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させることにした』に続きます。

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