第四章 家族編
プロローグ
「では罪業衆が動いたのではないのだな?」
落ち着いた雰囲気のある和風の高級料亭の一室。開けられた襖の先に見える縁側と美しく整えられた庭。カコンと鹿威しの音が聞こえる。
その部屋の中には数人の人影があった。
声を発したのは星守一族の先代当主である星守明乃だった。他には星守朝陽の妻である結衣の姿もあった。
「そうねぇ。罪業衆に目立った動きはないわ。四罪が動いて無いのは間違いないわよ。でも幹部である九曜の誰かが動いた可能性はあるわね」
明乃と対峙しているのは浅黒い肌の筋肉隆々の男だった。年の頃は三十半ばから四十くらいだろうか。
しかし顔には薄らと化粧が塗られ、たらこ唇にはルージュの口紅が塗られている。口から発せられる野太い声は女口調であり、肩甲骨の辺りまで伸びるウェーブの懸かった栗色の髪を弄りながら、その男は明乃に説明を続ける。
彼の名はグロリア。もちろん偽名である。彼曰く、本名は捨てたとのこと。ちなみに外国人では無く純粋な日本人である。
年齢不詳で明乃の古くからの友人であり、一流の情報屋として活躍する男である。
「九曜か。しばらく前に数人が入れ替わったと聞くが」
「正確に言えば三人よ。相変わらず九曜のトップたる羅睺(らごう)と計都(けいと)の称号を持つ二人は入れ替わりは無いようだけど、下の方は変動があったみたい」
九曜にもランクが存在する。星に由来する称号を与えられ、その中でも羅睺と計都の名を冠せられた二人の妖術師は四罪にこそ劣る物のその実力は国内では最高クラス。
他の九曜に比べてもその実力はぬきんでており、四罪に最も近い存在と言われている。
「奴らか」
「そうよぉ。明乃ちゃんも知ってるでしょ? あの二人よ」
忌々しそうに呟く明乃に砕けた口調で話を続ける。
「貴方とも因縁があるあの二人が動いた可能性は無くは無いわ。でもあたくしの考えとしては、今回は罪業衆じゃないんじゃないかと思ってるのよ」
「なに?」
「罪業衆以外にも疑わしい存在はいくつかあるのよ。まだ情報不足なんだけどこの間、京極の子と火野の子、それと明乃ちゃんのお孫ちゃんが倒したっていう六道を名乗った妖術師。あれ、どうにもきな臭いのよね」
その言葉に結衣は顔をしかめ、明乃もどこか表情を険しいものにした。
「明乃ちゃんに頼まれて調べてたんだけど、六道の名を騙った術者は、どうも三流妖術師じゃなさそうなのよ。京極が先に動いて拠点を調べてたからこっちも思ったほど調べられなかったけど、少なくとも九曜上位クラスの実力者であったのは間違いないわね」
八城理人によりもたらされた情報により警察や京極が調べた結果、件の妖術師がただ者では無かった可能性が浮上した。
理人の証言では超級クラスに匹敵する妖術師と伝えられたが、まさか四罪を上回る妖術師が在野にいるはずが無いと否定的に見られてはいる。
「明乃ちゃんの方がSCDから情報を仕入れられるとは思うけど、それはまだ聞いてないの?」
SCDとは警察庁・怪異事案対策局の略称である。
Strange case Countermeasure Division(ストレンジ ケース・カウンターメジャー・ディヴィジョン)は、警察庁に存在する妖魔や霊が起こす怪異や、退魔師や妖術師などの霊能力者関係にいたる事案を処理する総合管理監督組織である。
公的な機関であり、六家や星守との繋がりも強く、様々な案件で六家や星守とは協力関係にある。
「いや、京極の方から圧力がかかっていた。きな臭いとは思ったが、まさか本当に裏があったのか」
「本当に六道の生き残りだったのかもねぇ。だとしたら京極としては見過ごせない案件ね。でもそれを討つなんて優秀な子達ね。明乃ちゃんもお孫ちゃんを少しは見直したんじゃないの?」
グロリアの言葉にうんうんと結衣は満面の笑顔を浮かべている。だが明乃の方は露骨に嫌な顔を浮かべた。
「ふん。それは京極の娘と火野朱音が優秀であっただけだろう。真夜にはそんな力も能力も無い。あの子は攻撃系の霊術が一切使えないんだ。他者と協力して大きな事を成したとしても、本人にそれに見合う実力が伴っていなければ、ただの寄生やおこぼれに預かったに過ぎない」
「もう。相変わらず辛辣ね。そんなにお孫ちゃんがあの子と重なるの?」
直後、明乃から恐ろしいまでの殺気が漏れ出した。ビリビリと周囲を揺らすほどの圧力が放たれ、周囲の襖や障子が揺れる。
「黙れ。あいつのことを二度と口にするな」
「剣呑ね~。少し落ち着きなさいよ。あたくしが悪かったから」
ごめんなさいと謝罪するグロリアに明乃は殺気を収めた。
「……私も悪かった。それと真夜の事はいい。今は朝陽や結衣の手前、好きにさせる。退魔師を目指さないのであれば、私が口を挟むことでも無い。だがこれで調子に乗り退魔師として活動したいと言うのならその限りでは無いがな」
「御義母様……」
「結衣、覚えておけ。事が起こってからでは遅いのだ。失ってから後悔しても後の祭りだ。朝陽にも言ったが、真夜のことを本当に大切だと思うならあいつを退魔師にさせるな。退魔師は半端者が生き残っていける甘い世界では無い」
有無を言わさぬ明乃の言葉に、結衣は反論しようとするが明乃はさらに言葉を続ける。
「今回の件で増長されても困る。朝陽やお前が釘を刺しても意味が無いのならば私が直接出向く」
「真夜ちゃんの所にですか?」
「そうだ。ちょうど、向こうの知り合いにも会う必要が出来たからな。お前も同行しろ。ただし真夜にはこの事を伝えるな。無論、朝陽にもだ。あの子が一人暮らしに際して、どのような生活をしているのか抜き打ちで見る必要もある」
「わかりました。では私と御義母様の二人だけでですね」
明乃が厳しい顔をしているのに対して、結衣は満面の笑みを浮かべている。結衣的には朝陽ばかりが真夜に会ってばかりなのが不満だったようだ。
(真夜ちゃん、驚くだろうな。でも御義母様がご一緒だともっと驚くだろうけど)
真夜が明乃を苦手としていると言うよりも嫌っていたのを結衣は知っている。明乃の物言いや真夜に対する態度ならばそれも致し方ないが、それでも結衣は義理の母を嫌いになれなかった。
(サプライズにしてはちょっと刺激的だけど、私も久しぶりに真夜ちゃんと直接会えるのが凄く楽しみ!)
一人暮らしをさせるにあたり、色々と心配はしたが先日の電話での会話の際、どこか大人になったなと感じることが出来た。
自分から真昼と仲直りすると言い出すほど、真夜は落ち着いたのだと安堵した。
(真昼ちゃんとの事も心配だったけど、これでまた仲の良い兄弟に戻れますね)
真昼も先日の火野との共同での事件の後、どこか吹っ切れたような大人びた顔をするようになった。いや、事件前まで笑顔を浮かべることがめっきり減っていたのに、最近では生き生きと毎日を楽しそうに過ごしている。
真夜の話を出せば、以前は塞ぎがちになっていたが今ではその話題になると、嬉しそうな顔をする。
(また家族皆で集まれるのが楽しみね!)
ウキウキする結衣の内心を察した明乃ははぁっと大きなため息を吐く。
(朝陽から近況は聞いているが、火野の娘と連んでいることで下手に気を大きくされても困る。真夜自身に自身の実力を理解させる必要がある)
淡い希望など、儚い夢など抱かせないようにさせなければならない。現実を突きつけ、本人に理解させ、受け入れさせなければならない。
真夜の幼馴染みであり、頭角を現している火野朱音の側にいることで自分も退魔師として活動できる等と勘違いされては困る。
(朝陽も朝陽だ。火野の娘と共にいさせて真夜に現実を分からせようとしたのか? そんな事をせず、もっと違う場所に真夜をやるべきだったのだ)
いつまでも真夜に希望を抱かせ、自分達も真夜の成長を願い期待し応援する朝陽と結衣に失望と怒りを覚える。
同時に、自分自身にも苛立ちと怒りを覚える。なぜならそれはかつての……。
(……いかんな。グロリアのせいで感情的になっている。すべては今更だ。何もかも遅いんだ)
明乃は自らの中に燻る感情を追い払い、再びグロリアに話を向ける。
「引き続き調査を進めてくれ。また罪業衆が動きそうならば報告をくれ。最悪の場合は、星守が動く」
「いいけど、今の罪業衆は昔に比べてさらに厄介になってると思うわよ。いくら星守でも単独じゃあ難しいかもしれないわよ?」
「構わん。四罪は人間から妖魔へと堕ちた連中だ。どのみち、いつかは奴らと雌雄を決せなければならない」
妖術師のすべてが退魔師と敵対しているわけでは無い。だが罪業衆は決して退魔師達と手を取り合える相手では無いのだ。
「わかったわ。でも明乃ちゃんも気をつけてね」
「心配は無用だ。では頼む」
明乃はそう言うと席を立ち、結衣を伴いこの場を後にする。
(真夜への懸念事項も片付けなければならない。最悪の場合は、私が……)
星守の落ちこぼれと最初に真夜に対してレッテルを貼ったのは誰だったのか。それは分からない。
しかしそのレッテルを定着させる要因を作り、容認したのは紛れもなく明乃であった。
(あの子は星守にふさわしくない星守始まって以来の落ちこぼれだ。だからこそ、退魔師を目指させるわけにはいかない。もし今の真夜が調子に乗っているようなら……)
だが明乃は知らない。その真夜がすでに真昼どころか明乃や朝陽を上回る実力を有していることを。
彼がすでにどれだけの功績を立てているのかを。どれだけの人間を救っているのかを。
異世界で、そしてこの世界での彼の功績を彼女はまだ知る由はなかった。
◆◆◆
自室のリビングで真夜は何故か唐突に嫌な顔をした。
「ど、どうしたの真夜? いきなりそんな顔して」
「あ、あの。やはり今回の件は真夜君的には不快でしたか?」
心配そうに訪ねるのは朱音と渚だった。
「悪い。この件についてじゃなくて、何か不意にムカついたと言うか、嫌な感じになったって言うか。とにかく渚のせいでも朱音のせいでも無いから心配するな」
二人に謝罪しつつ、真夜はばつが悪そうな顔をする。二人は真夜の言葉に安堵する。特に今回の話を持ってきた渚はホッと胸をなで下ろす。
いつものように三人で集まっているのだが、今回はいつもと話す内容が少し違っていた。今回の話は渚が真夜達のマンションに引っ越してくると言う話だ。
それも真夜の隣の部屋。真夜の部屋を挟んで両脇を渚と朱音が住むことになった。
「今の住人の方には、京極がより良い条件を提示して引っ越してもらう手はずになっています。引っ越しが完了するまでしばらく時間はありますが、十日前後で引っ越しを終わらせる予定です」
「それにしても急よね。ええと、なんで渚がこのマンションに越してくることになったんだっけ?」
「すべては京極の上の判断です。まあ私としてはありがたい面と厄介な面がありますが」
渚は父である当主から急遽もたらされた内容は驚くものだった。
「端的に言えば、お二人の監視と懐柔ですね。特に朱音さんは先日の件で六家内でさらに名を上げました。京極は星守真昼さん共々、朱音さんも注目しています」
「あたしは別にそこまでの事はしてないんだけどね。真夜がいなきゃ妖魔にされてたか死んでただろうし」
「それでも対外的には朱音と兄貴が解決したって事になってるからな。けど京極がいくら六家とは言え、他家にそこまで興味を示すのは珍しいな」
京極は昔からすべての属性の霊術を使えるため、他の六家を見下す傾向にあった。それが他家との確執を深めているのだが。
「以前ならばそこまで注目をしなかったのですが、立て続けに起こった事件の影響ですね。京極にはご意見番を初め、楽観的な考えの者が半数近くいますが、当主である父や一部の者はそこまで楽観していないようです。ですので、最悪の事態を考えて京極以外の六家を利用しようとしている節があります」
父から言われたのは、朱音とついでに真夜と懇意にしろと言う命令と、さらにその先にいる星守真昼に繋ぎを付けろと言う物だった。
「父は朱音さんや真夜君を通して、私が真昼さんと縁を結べと言うことでした」
京極から真昼に直接接触していけば警戒心をもたれる可能性がある。特に先代当主の星守明乃はそう言った事に敏感だ。
しかしこれがすでに縁を結んでいる相手からの経由ならば、多少なりとも警戒心を解かれるかも知れない。
「それにこう言っては失礼なのですが、真夜君と朱音さんはご実家の方とは折り合いが悪いと言うのを京極の方でも掴んでいます。そこも利用できる材料と判断されたようです」
京極は他の六家の事情についてもある程度の内情を掴んでいる。これは他の六家にも言えることだが、真夜と朱音がそれぞれの実家から以前からどう言った扱いを受けているのかも分かっていた。その辺りの事情も上手く利用しろとの言われている。
「京極としてはお二人をご実家から離反させ、取り込みたいという思惑もあるようです。朱音さんの場合は掌返しもされるようならば、京極を頼ってみないかと。あと真夜君の方も退魔師として活動する気ならば手を貸すのもやぶさかでは無いと」
「へえ。色々考えてるのね。でもそれって上手くいくと思ってるのかしら? 前までなら真夜と真昼の仲って絶望的に悪かったのに。それにあたし達を取り込むねー」
「そこも上手く取りなせと言うことですね。それで恩を売って、上手く動かそうと言う魂胆でしょう。真夜君に対しても六道幻那の件を利用して褒めそやして懐柔しろとの事でした」
「成功するかどうかはともかくとして、試してみる価値はあるな。星守の落ちこぼれが京極に目をかけられてるってなれば、前の俺ならもしかすればそこそこに京極家に好感を抱いてたかもな」
手としては悪くないと思う。真夜を都合の良い手駒にすれば醜聞なりを作って、星守を切り崩すのにも使えるだろうし、真昼との仲を改善するように持って行けば恩も売れる。どちらに転んでも利になる手だろう。
朱音に対しても上手くすれば火野との関係を悪化させ、火野の権力失墜にも利用できるかも知れない。
「失敗しても京極としては痛手は殆ど無いしな」
「はい。かなり不愉快な策ではありますが」
「渚が気に病む必要はねえよ。それぐらいの腹芸を考えられるくらいじゃなきゃ、京極の当主なんてのは務まらないだろうしな。利用できるものは何でも利用する。利用される側にとっては腹立たしいが、策略の一つとしてはありだろうよ」
「でもそんな裏事情をあたし達に話してもよかった?」
「良くはありません。あくまで秘密裏にこちらの思惑を悟られずにとの事でした。ですが……」
朱音が疑問を口にすると渚はどこか悪い笑みを浮かべながら答えた。
「別段、父達の思惑のすべてに乗る必要はありません。私に求められる結果は真夜君や朱音さんと懇意にすることと星守真昼さんと縁を持つことです。その過程の内容までは指示されていませんので」
二人が裏事情を口にしなければ問題ないと渚が言うと、真夜も朱音も苦笑した。
「そうだな。思惑があろうが俺達は好きにすればいいだけの話だからな」
「そうね。とにかく今回の件はある意味ラッキーって考えましょう。渚もいちいちこっちに来る時間が省けるんだし。所で学校はどうするのよ? あたし達の学校に転校してくるの?」
「現状はそのままです。仮に転校するとしても二学期からでしょう。学校の方もここからはそれなりに離れてますが、通えない程ではありません」
京極としては渚の転校も視野に入れているが、何かしらの事情があるのかそこまでには至っていない。
「あと今回の件ですが懐柔も目的ですが、六道幻那の残党による襲撃も懸念されています」
「残党の襲撃?」
渚の話に朱音は怪訝な顔をした。
「はい。彼らの拠点と思われる場所をいくつか調べたらしいのですが、一人として捕縛できず生け贄に集められた人間も発見できなかったと言うことです」
「八城理人の方はどうなんだ? あいつは何て言ってる?」
「彼ら以外の仲間は知らないとのことです。彼が隠し事をする理由もありません。すでに彼も目的は達せられてますからね。すべて話したとSCDの方にも供述しています。京極では氷室家が六道幻那と繋がりがあったのではと疑惑の目を向けていますが」
「氷室としては黒龍神の件がバレないか心配だろうけどな」
あの醜聞を京極に知られれば氷室はかなり立場が悪くなる。とは言え、事件自体は解決したし、黒龍神も討伐したのは氷室と水波流樹となっているので、致命的ではないが氷室としてはさらに京極との関係が悪化するかも知れない。
「はい。ですのでまだ仲間がいる可能性が高く、さらにその残党が六道幻那の復讐を考えているならば彼を討った関係者が三人揃っていれば、何かしらの行動を起こすのではと考えているようです。あとは今回の古墳の件もです。何者かが暗躍しているのは間違いなく、その相手が朱音さんを再び狙う可能性があると考えているようです」
「なるほどね。それで、あの古墳の件を仕組んだ奴の目星はついているのか?」
「京極では罪業衆が動いたのでは無いかと考えています」
「罪業衆って、あの国内最悪の妖術師集団の!?」
真夜の問いかけにあくまで現時点の京極の推測ですがと前置きを置きつつ渚は答え、朱音は驚愕に声を張り上げる。
「最強の妖術師の集団だって触れ込みだったな。確かにこんな大がかりに動く奴となれば、可能性は高いだろうな。で、京極からは他に人員が動くのか?」
「今のところ表だってはありません。ですがもしかすれば秘密裏に監視がつく可能性はあります」
「それ、かなり不愉快なんだけど。もし見つけたら抗議してもいい?」
「朱音さんのお気持ちは十分に分かります。その際は私の方から京極に伝えます。不愉快に思われておりこのままでは関係に響くとすればある程度は黙認してもらえるでしょう。ですがその可能性は低いと思います」
京極本家もあくまで今回の渚の引っ越しは渚のたっての希望で、共に死地を乗り越えた同年代の者達と交流を深めたいと言う建前にしたいらしい。
「それに京極の狙いはお二人の懐柔もですが、六道幻那の痕跡を見つけることにもあります。私達の事は都合の良い囮として見ている面もありますからね。相手が動きやすいように監視や護衛を付けずに誘発しようとすると思います」
「面白くないけど、上等じゃない。もし仮に襲ってきても返り討ちにしてやるわよ」
「それと京極としては下手に人員を増やしてもし俺達に何かあったら、それこそ火野と星守と大問題になりかねないからな。けど渚だけだった場合、何かあっても被害者面して、火野と星守と共同戦線を張れる可能性もあるか」
「はい。父はどこまでも京極の利益のために行動しています。最悪、私達がどうなろうと構わないのでしょう」
「渚はそれでいいの?」
「もう慣れましたから」
朱音の言葉に渚はどこか悲しげな笑みを浮かべながら答えた。朱音は渚の姿に胸が痛む思いがした。
「大丈夫です、朱音さん。私としてはお二人と同じマンションに住める事を喜んでいますし、もしかすれば一緒の学校に通えるかもしれませんからね。そちらの方が楽しみです」
本心からの渚の言葉に朱音と真夜も安堵する。三人ともそれなりに家庭環境で問題を抱えているが、渚の場合は助けてくれる、味方になってくれる家族がいない。それを真夜も朱音も不憫に思った。
だがそれを口にしない。それは彼女に必要なことではない。ならば渚が喜ぶことをしてあげるべきだ。
「よし! じゃあまずは渚の引越祝いの前倒しをしましょうか! あっ、もちろん引っ越しが終わった後でもしましょう!」
「そうだな。今日はピザでも頼むか。俺が奢るぞ。ちょうど臨時収入も入ったからな」
「いいわね! 渚は今日はゆっくりしていけるの?」
「はい。明日は学校もお休みですし、京極からの仕事もありませんので」
「じゃあまた家に泊まっていきなさい! 今日はとことん遊ぶわよ!」
「まあほどほどにな」
真夜は多少窘めつつも、朱音の言葉に乗り今日はとことん遊ぼうと決める。
三人はこの日、夜遅くまでゲームやトランプなどで遊び明かすのだった。
そして翌日、突然の来訪者に真夜達は驚くことになるのだった。
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