第六話 分断。そして……

 

 予め結界を発動させ、こちらの存在をできる限り気づかせないようにしながら、式神を突入させて内部を伺う早苗と勇助。内部は巨大な石造りの部屋であった。


 炎により薄らと照らされた内部は、明らかに他の部屋とは大きさも広さも違っていた。学校の体育館よりも一回り以上も広く、天井も高い。さらに壁も地面も綺麗であり、凹凸が全くない。


 中には等間隔で石で造られた石棺が並べられており、その数は十二。さらに奥にも一つの巨大な棺が鎮座していた。壁には絵画や紋様などが描かれており、ここが特別な部屋であると感じさせられる。


 ゲコゲコゲコ


 中からは蝦蟇の鳴き声が聞こえてくる。


「数は……、六、七、八…全部で十体ですね。炎を見つめています。あっ、一番奥にさらに大きな個体がいます! それも槍を持った蝦蟇です!」

「槍を持った蝦蟇……。まさか周防(すおう)の大蟆(おおがま)か!」


 周防の大蟆とは、江戸時代に描かれた物語に登場する妖魔である。体長が二百四十センチもあり、口から虹のような物をはき出して、触れた物を吸い込んでしまうと言う伝承がある。


 天敵である大蛇まで喰らうほどの貪欲さを持ち、さらに槍で人間を襲うとも言われている。上級妖魔並の強さである可能性が高い。


 中にいる個体も茶色いヒキガエルを巨大化したような姿であった。


 蝦蟇達のことを伝える早苗の言葉に、勇助は突入するべきかと思い悩む。


「……棺の影に入っている奴もいるな。危険だが、突入する。幸い、中の方が広い。戦うにしても中の方が有利だ」


 通路は広いとは言っても、大人数での戦闘には向かない。ここが外ならば炎の大出力で一気に倒せるのだが、この閉鎖空間では出力を抑えなければならない。それにおびき出すと言っても、向こうはこちらの思惑に乗ってくれるとは限らない。それならば多少危険だが内部へと突入して一気に倒した方がいいだろう。


「だが万が一を考え、君島さん、星守君と楓さん、朱音お嬢はこの場で待機。最悪の場合、フォローを頼む」


 内部へと援護と外部への報告。外の式符使い達との連絡が取れるように、小型の無線機を預けている。入り口の扇風機の付近には防御結界も展開しており、外でも万が一何かあれば連絡が来るようになっている。


 真昼や朱音がいれば、後ろからの追撃があった場合には対処できるだろう。


「内部への突入は剛、星宮君、火織お嬢、それと赤司と倉田君と俺だ。大蟆は火織お嬢が対処してくれ」

「ちょっと待ってくれよ! 上級クラスくらい、俺が仕留めるぞ!」

「いいえ、私が倒します」


 大和と剛が案の定、不満を口にする。だが勇助はそれを見越していた。


「不確定要素が多い上に、内部をできる限り壊さないためだ。火織お嬢なら霊器を持って一撃で倒せるだろうからな」

「うん。ボクの霊器なら上級妖魔でも一撃で倒せるよ」


 勇助の言葉に火織が力強く頷く。彼女は朱音と同じ霊器持ちであった。だからこそ、勇助は火織に始末を頼んだのだ。


「それに内部にはまだ十体の妖魔がいる。それらの対処もしなければならないだろ? 剛にも星宮君にもそちらを頼みたい。これも重要な役目だ。火織お嬢を除いて、五人で十体。一人につき二体を速やかに排除する必要がある。悪いがここは聞き入れてくれ」


 勇助の言葉に剛も大和も不満顔だが、一応は言うことを聞いてはくれるようだ。


(まあここで俺の指示を無視するようなら、減点ものだ。あとの報告書にもきちんと記載するからな)


 退魔師と言っても、歴とした職業である。それぞれの報告書の類いは存在するし、国に対しても報告する必要もある。今回の監督者は勇助であるため、現場での独断専行は彼の監督不行き届きでもあるが、その個人へのペナルティも当然存在する。だからこそ、二人も異議は申し立てても、馬鹿な真似は控えるのだ。


「全員、用意をしてくれ。霊器の解放も許可する」


 その言葉に霊器持ち達が力を解放する。ここまでは全員が霊力の温存や全力で力を振るえなかったために具現化させていなかったが、勇助の許可も下りたことで霊器を解放した。


 火野一族の宗家の三人。朱音、火織、赤司がそれぞれの霊器を顕現させる。


 彼女達は火野一族の中の若手のホープであるが、その三人ともが霊器を発現させていたのだ。


 朱音は真紅に輝く槍なのに対して、赤司は真紅に輝く七支刀、火織は真紅に輝く片刃の大剣であった。


 赤司の七支刀は無骨な作りであるが、発せられる霊力は霊器の名に恥じるものではない。火織の大剣もそれに劣らず高く、この狭い通路では役に立たないが、扉の向こうの大きな空間でならば十分にその威力を発揮する。


 だが朱音の霊器から放たれる霊力は、そんな二人よりもさらに上だった。


「な、なんか朱音ちゃんの霊器、強くなってない?」

「……まあね。あたしも色々あったし、強くならないとダメだからね。それとこの程度で満足してられないわよ」


 火織の言葉に朱音は勝ち誇るでもなく、どこまでも平静のままに答える。朱音が目指すのは同年代で最強ではない。たどり着きたいと思うのは、遙かに遠い頂点なのだ。


(それに真夜の霊符の効果もあるしね。自分一人で強くなったんじゃないからあんまり自慢できないから)


 まだまだ自分は弱い。この程度で満足していてはダメだ。周囲の反応を見る限り、朱音と霊器の霊力に対して、さほど驚いていないのは真昼と楓くらいだ。勇助も朱音の成長に驚いており赤司も若干、顔が引き攣っているように見える。剛も大和も驚愕しており、信成と早苗はどちらかと言うと畏怖しているようでもある。


「ふ、ふん! そんな霊力が何だ! 俺の守護霊獣を見せてやる! こい、雷獣!」


 自分を奮い立たせるかのように、大和がそう言うと彼の足下に一匹の獣が出現する。体長は六十センチくらいだろうか。狼に似ていて、尻尾が長く二股に分かれている。さらに普通の狼と違うのは、前脚が二本なのに対して、後脚が四本もある。


 雷獣と呼ばれる存在で、文字通り雷を操る存在だ。伝承では複数の姿で伝わっているが、大和が契約を結んだ雷獣は狼に似た姿で、上級の上位の力を持っている。


「見ていろよ、朱音! 俺とこの雷獣はお前ら霊器持ちにも劣らないと証明してやる!」

「ええ。楽しみにしているわ」


 朱音は事を荒立てたくないので、大和に期待しているような台詞を言う。ただここ最近、やばい存在と遭遇しすぎたせいで朱音自身の感覚も麻痺しているようで、「ふーん。上級上位の霊獣なんだ。凄いわね。で、だから何?」と言う程度の感想しか浮かばない。


 朱音を驚愕させたいのならば、ルフや鞍馬ほどではなくとも、あの強化された赤面鬼くらいの守護霊獣を連れてこいと言う感じだ。


(子供って言うのは、凄い速さで成長していくんだな。火野と星守の未来は明るいな)


 勇助から見れば朱音もだが、大和も十分に凄い退魔師であると思う。勇助自身、大和とその守護霊獣を相手にして勝てるかと言われれば、厳しいと言わざるを得ない。


 この場にいるのは、そんな退魔師界を牽引するであろう優秀な若者達ばかり。これを喜ばずにはいられない。


 しかしこの霊力の放出は結界を張っていても相手に気づかれる可能性が高い。だからこそ、すぐにでも行動に移す必要がある。


 内部の妖魔の位置を再度確認し、他の妖魔は誰がどの位置にいる個体を倒すかも前もって確認しておく。


「よし。全員準備は調ったな。では突入するぞ」


 勇助の号令の下、突入の人員が内部へと一気に踏み込むのだった。



 ◆◆◆


 薄暗い部屋の中に安置されている人型や馬型の埴輪の数々。それを見据える一つの影があった。


「流石じゃのう。あちこちきちんと浄化しておるわ。これではここにおった怨念や悪霊の類いはひとたまりもあるまいて。じゃがまだまだ甘い」


 ぬらりひょんはそう言うと、羽織の内側から何十枚もの札を取り出すと、おもむろにそれらを宙へと放り投げた。札はそれぞれが闇色の光を放つと、近くにあった埴輪へと一枚ずつ張り付いていく。


 札はそのまま埴輪の中へと吸収されていく。すると埴輪達の目に怪しい赤い光が宿った。


「こやつらの怨念は消えきっておらん。時間をおけば消えていただろうがのう。それでも幻那特製の札は強力だからのう。これでこやつらは中級の妖魔並の力を得た」


 何十体もの中級妖魔がこれにて作り上げられた。ただし、これで終わりではない。この程度など今ここに来ているメンツには雑魚でしかない。


「さてと。続けていこうか」


 薄ら寒い笑みを浮かべるぬらりひょんは、今度は紫色の宝石を三つ取り出すと、それらを近くの三体の、埴輪の中でも武人の姿を模した物へと取り付ける。


 ずぶずぶずぶ……。


 額に取り付けられた宝石から黒紫色の光が溢れ出した。


 埴輪の色が土色だった埴輪がどす黒い闇色に染まり、その顔も仁王のように険しくなる。まるで生きているかのようであり、恐ろしいまでの殺気と怒気を放ちだした。


 鎧も土で出来ていたはずなのに、今は鉄などの金属で出来ているかのような質量感を放っている。


「ほう。これは中々。やはり幻那の作る玩具はいい。妖霊玉と言ったか? やはり古い怨念の籠もった物とは相性が良いようじゃな。最上級妖魔と言ったところか。まだまだ上を目指せそうだが、幻那に良い報告が出来そうだのう」


 三体の強大な手駒をさらに生み出したぬらりひょんは、満足そうに呟く手にジャラリと音のする物を持った。


 黒く染まった勾玉がつなぎ合わされた首輪だった。


「そろそろ向こうも始まった頃か。ここにいるのが蝦蟇だけだと思っておるようなら、痛い目を見るぞ」


 まあそうなってくれている方が面白いんだが。と、どこまでも不気味な笑みを浮かべながら、ぬらりひょんは作り上げた配下達を引き連れ、古墳の最奥へと進むのだった。



 ◆◆◆



「ゲコッ!? ゲコッ!?」

「はぁぁっっ!」


 内部に突入した六人は、それぞれに割り当てられた相手へと攻撃を仕掛けていた。


 雑魚の蝦蟇達は、為す術もなく燃やさせるか、切り裂かれるか雷で焼き尽くされるかした。


 最奥にいる周防の大蟆の元へ最短距離で一気に詰め寄る火織は、大剣を振りかぶると、そのまま地面を蹴り頭上に飛び上がり、一刀両断すべく相手に向かい振り下ろした。


 周囲を破壊しないように抑えながらも、ただ一体を葬り去るために霊力を刀身に収束する。中級どころか上級妖魔でさえも軽く葬り去る一撃。


 だが……。


「ゲコゲコ。無駄でぇ」

「なっ!?」


 ガキンッと三つ叉に別れた槍が霊器の大剣を受け止めた。剣と槍の激突は周囲に余波をまき散らす。突風のように霊力の衝撃波が周囲へと広がる。


「くっ!」


 大剣を引くと火織は後方へと一度大きく飛びずさる。


「ゲェッコゲェッコゲェッコ! 来たな退魔師。この周防の大蟆である俺っちが相手をしてやらぁ」


 赤い長い舌を出しながら人語を話す周防の大蟆。槍からは禍々しい妖気が溢れ出している。いや、正確には槍の柄に取り付けられていた紫色の宝玉からだ。


「その槍、普通の槍じゃない!?」

「ゲコ! その通り! こいつぁ、中々の優れものでぇ!」


 大蟆がそう叫ぶと妖気がさらに膨れあがった。それは大蟆に纏わり付くと大蟆自体の妖気も厚みと禍々しさを増していく。


「こいつ、上級じゃない。槍の力を加味すれば最上級なのか!?」


 火織がまさかの強さに驚くが、まだ負けるとは思ってはいなかった。確かに自分一人では苦戦は免れないだろうが、朱音や赤司、それに真昼もいる。最上級一体ならば、戦い方を制限されていても勝てるはずだった。


 しかしその認識が甘い物だったと、彼女は、いや、この場にいる全員が思い知らされる事になる。


 ガコンッ!


 重々しい音を立てながら、入り口の扉が独りでに閉じてしまったのだ。


「なっ!?」


 それだけではない。カタカタカタと石棺が音を立て始めた。


 ドンドンドンドン!


 十二の石棺の蓋が一つずつ、順番に頭上を吹き飛んでいく。棺の中からはオドロオドロしい妖気が溢れ出していく。


 周囲の空気がよどみ、妖気が溢れ出し充満していく。


「こ、こいつは!」


 勇助は周囲を警戒しつつ、突然の異常事態に戦慄する。棺の中から何かが這い出してくる。それはミイラになってはいたものの、かつてこの地を治めていた豪族に仕えし武人達。白い衣服に袴と言う古墳時代特有の出で立ちに剣を腰に差している。


 だがその形相はミイラ化していても憤怒の相が張り付いている。


「オォォォォォォォォ!!!」


 憎悪を振りまくかのように、十二体のミイラはこの場にいる生者たる者達を睨みつける。


「こいつら、全部最上級妖魔クラスの力だ!」


 勇助は敵の強さを正確に把握する。十二体のミイラはこの姿になっても生前の恨みに依る物なのか、凄まじいまでの力を有していた。


 全員に緊張が走る。閉じ込められただけではない。強力な妖魔が蝦蟇を含めて十三体も出現したのだ。


(この状況はまずい! 星守君や朱音お嬢達とも分断された! このメンツで、これだけの数と質を相手にするのは危険すぎる!)


 勇助は状況が切迫していると判断し、服のポケットに入れていた緊急の連絡ボタンを迷わず押した。これで少なくとも外にいる式符使いと真昼には中の状況は伝わるはずだ。


 ガコン。


 そして最奥の、ひときわ大きな棺の蓋が開いた。


 中には白い祭服とも古代の巫女服とも言える衣服を身に纏い、腰には白い腰帯と肩からは白いたすきを掛けた存在。首には緑色の勾玉の首飾りと腰には銅鏡が据えられていた。


 永い年月が経っているであろうに、他のミイラ達とは違いただ眠っているかのような顔をしており、ふくよかな顔で歳のころは二十代前半だろうか。


 だが顔には額と鼻の辺りにかけて、赤い朱肉か血でTの紋様が描かれ両の頬にも別の赤い印が刻まれていた。


 カッとその存在は目を見開く。血のような赤い瞳であり、獣のように瞳孔が縦に割れていた。


 上半身を起こしたその存在はふわりと宙へと浮かび上がった。


『憎し、憎し、憎し!』


 一際強い妖気を発する巫女のような存在。白い服からは想像も出来ない程のどす黒い妖気が溢れ出している。それはまるで別の人間の肉体に何者かが憑依しているかのようであった。


「な、なんなんだ、お前は!」


 不意に大和が叫んだ。彼もこの突然の状況に理解が追いついていないのだろう。


 巫女のような女は、ギロリと大和に視線を向ける。それだけで大和も守護霊獣の雷獣も身体が硬直してしまった。


『妾は磐之媛(いわのひめ)。……磐之媛命(いわのひめのみこと)!』


 磐之媛命とは古墳時代の仁徳天皇の皇妃とされた女性の名前である。


「馬鹿な! 磐之媛命は奈良のヒシアゲ古墳に埋葬されたと言われているはずだ! それが何故こんな遠く離れた地で怨霊の類いになっているんだ!」


 勇助は目の前の存在が、磐之媛命の怨霊であったとしても、この場所にいるはずがないと声を上げる。


 だがそんな彼を彼女は鼻で笑う。


『妾がどこにいようと妾の勝手じゃ。じゃが、妾は憎い。妾と言う者がありながら、別の女にうつつを抜かすあの君が! しかも妾が死んだことを良いことに、他の女どもを宮中に連れ込むなど!』


 彼女は古事記の記述によると、嫉妬深い女と記載されている。そのエピソードはいくつかあるが、その嫉妬心が原因で死後に悪霊と化したのだろう。


 だがその力はただの悪霊の物とも思えない。少なくとも特級の力を放っている。


 それに仮に悪霊になったとしても、その存在は少なくとも埋葬されたと言われる古墳内かあるいは縁がある仁徳天皇陵の方に向かうはずだ。それが何故、他人と思われる女性の肉体に宿っているのか。


(くそっ! 予想外すぎる! 何がどうなっている! しかしこれはまずい! 特級クラスが一体に最上級クラスが十三体! 外の四人と合流しても、かなり厳しいぞ!)


 この場にいるもので、単独で特級に対処できる者はいない。勇助も、赤司も火織も最上級ならばまだしも特級は無理だ。他の三人も同じだ。いや、単独で最上級と戦えるかも怪しい。


(質も数も負けている! せめて外の三人と合流できれば!)


 だが勇助達はまだ気づいていなかった。外でもすでに危機的状況が訪れていることを。


 ◆◆◆



「嘘でしょ! 分断されたって言うの!?」


 外では突然閉じられた扉の前で、焦りを隠せない朱音達が必死で扉をこじ開けようとする。


 だがどのような力か、扉はビクともしない。


「朱音さん、退いて。ここは僕が壊すよ」


 真昼も緊急事態と言うこともあり、古墳の保護よりも中の六人の安全を確保するために行動に移そうとする。

 しかし……。


「真昼様! 何か来ます!」


 警戒をしていた楓が叫ぶ。全員が来た方の通路を見ると、不気味な妖気が漂ってきた。真昼が施した浄化の霊符を物ともせず、それらは姿を現す。


 三体の黒い鎧を纏った武人。憤怒の形相の仮面のような顔を貼り付け、彼らはゆっくりと朱音や真昼の方に近づいてくる。


「何よこいつら!? こんなやつらさっきまでいなかったはずよ!」


 気配からして最上級妖魔。それが三体。こんな存在がいたならば、見落とすわけがないはずだ。


 三体の武人から妖気が溢れ出し、周囲に満ちていく。朱音達の方にまで妖気が流れて来ている。


「わからない。でも中の事も気になるから、早々に終わらせよう」

「……そうね。高々最上級妖魔三体。さっさと終わらせましょう」


 真昼の言葉に朱音も同意する。隣では楓も頷き、早苗も少し恐怖に震えているが、何とか気を強く持ち事に対処しようとしている。


 彼らに油断はなかった。朱音は霊器を構え、楓も目の前の敵に対して全力を出そうと身構える。


 また同時にこの危機的状況において、真昼は自身の切り札を切ろうとした。


 しかし朱音達は気づかなかった。この場にいる、もう一体の存在に。


 ジャラッ……。


「えっ?」


 真昼がその音と感触に気がついたのはそれが首に巻かれた後だった。見れば真昼の首元に黒い勾玉の首輪が巻かれていた。


 ―――くかかかか。この妖気に紛れては、さしものお主らも儂の存在に気づかなかったか―――


 耳元でそんな声が聞こえた。直後、異変が真昼を襲う。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」

「真昼!?」

「真昼様!」


 地下に叫び声が木霊する。それはぬらりひょんの罠であり、彼らの悲劇の始まりに過ぎなかった。


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