第九話 それぞれの思惑


「うちかて暇やない。どっかの馬鹿が阿呆なことするから、こうやって忙しい中、来てやったんやろが」


 ギロリと眼帯に覆われていない左目を細めて理人を睨む氷華だが、しばらくすると大きなため息を吐いた。


「……ほんまにお前は阿呆や。いくら志乃の為とは言え、一人で暴走したあげく、六道一族の人間かもしれん相手と連むやなんて」

「ははっ、最初はあいつがどんだけやばい奴か知らんかったんや。それに黒龍神を倒すためには、毒をもって毒を制するくらいしかないやろ?」

「それでもや。せやけど、それもこれもおじゃんになってもうたやないか」


 「……そうやな」


 自嘲するように呟くと、理人は氷華から視線を逸らした。


「話は大まかに聞いたで。京極と火野、ほんで星守の落ちこぼれの三人に討たれた。仲間割れをしとったそうやけど、それでもそないな三人に討たれるような相手なら、お前の見込み違いや」

「……そうやな」


 違う。見込み違いなどでは無い。六道幻那ははっきり言って化け物であった。その知性や能力を持ってすれば、十分に黒龍神を倒せる強さを持っていた。


 しかしその幻那を倒した相手が、それ以上の化け物だったと言う話だ。


 氷華は星守の落ちこぼれと言った。理人は事前に真夜の正体を聞いた時、あり得ないと内心で驚愕した。


 あれが落ちこぼれ? 自分と狂司を圧倒する使い手が落ちこぼれなど何の冗談だ。


 だが退魔師界の一般的な認識では星守真夜は無能の烙印を押されている。


 だから仮に自分が騒ぎ立てたところで、信じては貰えないだろう。


 しかしその実態は、理人ほどの使い手でも恐ろしいと感じた幻那を圧倒し、強大な力を持つ堕天使を従えた存在。


(何が落ちこぼれで無能や。あれで落ちこぼれやったら、殆どすべての退魔師が落ちこぼれで無能やないけ)


 それが可笑しく思える。しかし氷華に事実を告げるつもりも無い。言えば信じてくれるかも知れないが、そうなれば星守との氷室の関係もややこしくなる。


 あの男は幻那以上に恐ろしい存在だ。仮にその実力を今まで秘匿していたとすれば、星守一族そのものが絡んでいるはずだ。そうなれば現状の星守の戦力は六家の半数、あるいはすべてと相対しても勝利できるのではないかと思える。


(氷室家自体には思い入れは無いけども、氷華様には恩があるからな。俺のせいで星守と関係悪化は避けたいしな)


 だからこそ、秘匿する。真夜がその正体を明かすまでは。


「で、そんな馬鹿で阿呆でついでに愚かな俺に会いに来て、どうするつもりや?」

「決まっとる。お前を連れて帰る」

「おいおい。そりゃ無理やろ? 俺は逮捕・拘留されてる身やで? 取り調べもあるし、俺自身もやらかしとるんやで?」

「ふん。そんなもの、うちがどうとでもしたるわ。幸いと言って良いのか分からんが、お前が誘拐したのは犯罪者や。まあせやから良いってわけやないけど、この件でうちは警察やら何やらと司法取引をする。あとお前は六道一族の生き残りとおぼしき人間を監視するために、氷室家から相手側に潜入していたと言うことにしたる。京極の方にもうちが話を通しといたるから安心せえ」


 氷華は理人が攫った人間が裏社会の人間であった事で、警察や検察にもそこらへんは無理を通して犯罪者を一掃したと言う風にするらしい。他にも彼らが持っていた様々な犯罪の証拠や資料で、警察の検挙率を上げる等に協力したことで、目こぼしを貰う算段であった。


 司法国家である日本で司法取引するとは言え、そんな事が許されるはずも無いが、裏の裏の存在である退魔師とその中でも強大な権力を持つ、六家の一角である氷室家であるからこそ出来る力押しである。


「そないなことしたら、警察やらなんやらに氷室が睨まれへんか? いや、京極にも借りを作ることになる。なんでそこまでして、俺を連れてこうとするんや?」

「そないなもん、お前ほどの使い手を氷室は、いや、うちが手放したくないと言うのは建前や」

「建前かい」

「当たり前や。それだけでお前をどないかしようと思うか、ボケ!」


 ガンガンと鉄格子を蹴りつける。普通なら看守が来そうだが、予め結界を張っているのか音があまりしない。


「今うちが次期当主って事で、どんだけくそ親父に面倒な事押しつけられてると思うとんのや! さらにこの忙しい中、お前がやらかしてくれたんやからな! しかも氷室の影の中でも一、二の手練れで、さらにうちが目をかけて、色々仕込んでたお前がおらんようになったから、余計に仕事が倍増したんやぞ!? この責任、どう取ってくれんねん!? ああっ!?」


 鉄格子を掴み、まくし立てると理人はその剣幕に冷や汗を流した。


「そ、そらすまなんだ……」

「すまんで済んだら警察はいらんわい! ………ふぅ。まあお前に当たんのもこれくらいにしといたる。けど建前とは言え、お前を手放したないのはほんまや。あとはお前も分かっとるやろ? 志乃の事や」

「っ!」


 氷華の言葉に、理人の顔が歪む。


「あんたにとっては悪い知らせや。志乃が生け贄にされるまでの猶予が短うなった。次の日曜には神域へ赴く」

「何やと!? あと一ヶ月は猶予があったんとちゃうんか!?」

「黒龍神からの使者が来たんや。来週に花嫁を引き渡せって。くそ親父はそれを受け入れた」

「完全に黒龍神に屈しとるやないか」

「当たり前じゃ。くそ親父含め、老害共は二十年前にしくじった。あの時点で他の六家や星守に協力を依頼していれば、あるいは何とかなったかも知れん。けどな、現時点ではそれも無理や」


 どこか諦めるかのように、氷華は顔を背ける。さらに自らの右目を覆う眼帯を指先でなぞる。


「せやろな。奴はこの二十年で完全に力を取り戻しとるはずや。俺も、直接相対したからよう分かる。あれは、六家すべてと星守とで協力せな倒せん化けもんや」

「お前、あいつと戦って良く五体満足で済んどるな」

「終始遊ばれとったわ。しかも戯れに見逃されただけや」

「……そうか。とにかく、氷室は親父含め長老共は今更、他家に協力を求めへんやろ。十年前の失敗もあるからな」

「十年前?」


 理人も初めて聞く話に首を傾げる。十年前と言えば、自分も何らかの話くらいは耳に入っていそうな物だが。


「……十年前に一度、水波が秘密裏に手を貸してくれたんや。けど……」

「……なるほどな。そこでも失敗したっちゅう事か。はは。もうお手上げやないけ。他家には協力は求められず、現当主含め、上層部は現状維持と言う名の覇級妖魔の言いなりやないか。氷室も落ちるとこまで落ちたな」


 理人の言葉にギリッと氷華は歯をキツく噛みしめた。


「そうや。否定できん。でも、それでもうちは……」


 何かに耐えるように、必死に拳を握りしめる氷華に、理人は何も言えなくなった。


「話を戻すで。うちは最後に志乃にできる限りの事はしてやりたい。あの子はうちの年の離れた可愛い妹や。あの子はお前に会いたがっとる。だから連れ戻しに来たんや」

「……こんな俺が志乃に会う資格なんてないわ」

「お前の意見なんて聞いとらん。うちは志乃の望みをできる限り叶えたるだけや。お前が志乃に顔向けできんとかどうでもええんや。つべこべ言わず、うちの命令に従えや」


 鬼の形相で理人に命令する氷華。これが次期当主でええんかと思わなくも無いが、現当主よりは好感が持てると思うのは不思議である。


「とにかくそのつもりでおりや。今すぐには無理やけど、志乃が神域に行く前にはここから出して、氷室に連れて帰るからな。あと、逃げるんやないで。もし逃げたら……、わかっとるやろな?」


 凄みを利かせた氷華に、理人はただ大人しく従うのだった。


 ◆◆◆


「おいしいです」

「ああ。本当に」

「ふふん、お褒めに預かり光栄ね。あっ、おかわりもあるから」


 真夜の家のリビングでは、朱音が作った夕食のオムライスが振る舞われていた。


 黄色く輝くようなオムレツ。外は少し固く、しかし中はとろとろ。チキンライスも鶏肉と刻みタマネギだけだが、味付けもしっかりしており、塩こしょうも均一で味のムラも無い。


 さらに付け合わせとしてキャベツの千切りと、わかめスープが添えられている。


 渚と真夜は朱音のオムライスを夢中で口に運んでいる。


「ご飯を炊いててよかったわ。でも味付けはそんなに凝ってないわよ? もう少し時間があれば、色々出来たんだけど」

「いえ、十分に美味しいです。スープもですが、千切りキャベツも綺麗に均一に切られていますね」

「ちょっとしたコツがいるけど、練習すれば誰でも出来るわよ? あと今回は市販の調味料を使ってるから、そこまで褒められる物でも無いけどね」

「いや、十分だろ? こんだけ出来れば。俺なんて料理はからっきしだしな」


 異世界でも料理の練習なんてしてこなかった。朱音が簡単にできると言う料理でも、真夜からすれば難題のようにも思える。


「ま、まああたしも一人暮らし始めて、そこそこ練習してるから!」


 褒められて嬉しいのか、満更でも無い顔をする朱音。とは言うものの、以前から料理の練習はしてきたが、一人暮らしを始めてようやく数ヶ月でここまで来れた。


(よかった。前にも何回か真夜に料理を振る舞ったことがあったけど、今回も喜んで貰えてほんと良かったわ)


 と、内心では少し自信なさげだったのだが、二人に喜んで貰えたので、良しとしよう。


「凄いですね、朱音さんは。料理も出来るなんて」

「こんなのは修行と一緒で練習と経験よ。渚だってすぐ出来ると思うけど?」

「どうでしょうか? お恥ずかしい話、私は料理なんて一切したことが無いんです」

「まあ名家のお嬢様とか、退魔師の一族の宗家の人間が料理なんてしないだろうからな。そんな時間があれば、修行しろって言われるだろうし。朱音みたいなのが稀なんだろう」

「ちょっと。人を変人みたいに言わないでよ!」

「いや、別に馬鹿にしてるわけじゃ無いぞ? 朱音の料理は旨いし」

「そ、そう?」


 真夜に褒められて、朱音が思わず頬を赤らめる。渚はまた自分には出来ない事が出来る朱音を羨ましく思った。


(私も、練習すれば朱音さんみたいに出来るでしょうか?)


 刀は握ったことはあるが、包丁等は握ったことは無い。


「今度、渚も練習してみる?」


 思わずどこか沈んだ顔をする渚だったが、不意に朱音に声をかけられた。


「えっ?」

「いや、興味あるんだったら、どうかなあって思って。あっ、京極の仕事で忙しいんだったら、無理にとは言わないわよ。渚の場合、住んでる場所も遠いでしょうから、いちいちうちに来るのも大変だろうけど」


 どうすると、朱音は訪ねる。


「いいん、ですか?」

「いいわよ、それくらい。それに……。あー、この話はまた後でね」

「おいおい、俺には内緒の話か?」

「そうよ? ガールズトークね。真夜は入って来ちゃダメ」


 朱音の言葉に肩をすくめる真夜。そう言われてはこれ以上聞く事は出来ない。


 何となく、言いたいことが伝わったのか渚は驚いた顔をしている。そんな渚に朱音は苦笑しつつも、あとでねと短く呟く。


「さっ、とにかく先に食べましょ! せっかくの料理も冷めちゃう上に、夜も遅いし、早く寝ないと明日に響くわよ!」


 朱音はそう二人を急かしながら、オムライスをスプーンで口に放り込んでいくのだった。



 ◆◆◆



 夜も深まった頃、朱音は渚を伴い自分の部屋へと戻っていた。


「朱音さん、今日はすいません。夕食だけで無く、お風呂も貸して頂いて。それに服まで」


 風呂上がりに濡れた髪を拭きながら、渚は朱音に感謝を述べる。服はサイズが合わないが、丈は十分にある。一部、朱音にはない部分が強調されているが、それは致し方ない事であろう。


「いいわよ、これくらい。でも寝るのはベッドじゃ無くても良いの?」

「はい。そこまでして頂いては、私も困ります。私は布団で十分ですから」

「わかった。準備はしてるから、いつでも寝てくれて良いわよ」

「ありがとうございます。……それと、先ほどの料理の件ですが」

「ん? それがどうかしたの? 興味があるなら教えるわよ」

「いえ、それはありがたいのですが、どうしてそこまでしてくれるんですか?」


 渚は正直に疑問を口にした。朱音の気遣いや優しさは嬉しい。だが何故ここまで彼女が自分に良くしてくれるのか、それが理解できなかった。


 彼女のことは好ましく思う。


 だが自分は京極の人間だ。火野の宗家の人間が自分のような者と仲良くしていれば、本家の方から何か言われる可能性もある。


 さらに真夜との事を考えればライバルになるであろう相手同士である。それなのに先ほどの料理の誘いも、渚が頻繁にここに来れる理由を作ってくれているような気がしたからだ。


「ああ、そうね。敵に塩を送るって感じだもんね。でも何でかな……、何か渚を放っておけないって思ったからかもね」


 自分でもよく分からないと朱音は零す。


「何となく、寂しそうって言うか、見てて辛そうって感じただけ。ただのお節介よ」


 まあ朱音としても、渚は強敵と感じているが、今後真夜の秘密を共有する者同士としては、連絡を取り合いたいとは思っているし、直接顔を合わせて話す方が良いと思ったからだ。


 だが一番の理由は……。


「それにね、渚もできる限り真夜に会いたいんでしょ? あたしとしてはあんまり面白くないけど、だからって会う口実を潰したり、嫌がらせをしてまで真夜を独占するような嫌な女にはなりたくないの」


 それは昔、自分をいじめていた連中と同じ様な気がするから。相手が気にくわないからと言って、相手の気持ちを考えないで行動するのは、間違っていると思うから。


「もうね、あたしも色々と悩んだわよ。その結果、こうした方が自分も納得できるって思ったから、提案しただけの話。だから気にしないの」

「……朱音さんって、本当にいい人ですね」

「やめてよね。いい人は出会い頭に嫉妬心なんて全開にしないわよ」


 朱音の言葉に思わず渚は声を出して笑ってしまった。


「もう、そこまで笑わなくてもいいでしょ?」

「いえ。本当にすいません。でも私もよかったと思います。朱音さんのような人と友達になれて」

「そう言って貰えてあたしも嬉しいけど、でも真夜の事については負けないからね?」


 そう言って二人は笑みを浮かべ合うのだった。


 ◆◆◆


 薄暗い木々が生い茂る山中。その一角に古びた寺が建っていた。黒塗りの建物であるが、柱だけは血のように赤く塗られた太い木が使われている。


 暗い境内には、淡い橙色の光を放つ灯籠がそこかしこに立っている。


 どこにでもある寺院に思われるが、異様な光景がそこかしこに散らばっていた。


 まず灯籠の柱回りに、無数の蛇が蜷局を巻いていることだ。それだけならばまだ不気味だが、異様でも無いだろう。


 しかしその大きさが問題だ。蛇の大きさは数メートルを超える。大蛇と言っても差し支えないだろう。


 さらに境内には他にも人面蛇身の化け物まで無数に存在する。さらに人間の顔と胴体を持ち、下半身が蛇と言う存在までいる。中には背中から蝙蝠のような翼を生やした物も見える。


 これらはすべて妖魔である。ランクは下級から翼の生えた物は上級の力がある。


「じゃらははは! こうしてみると壮観ぞ!」


 境内に高笑いが響く。草履を履き、黒装束を羽織り、白い帯で結んだガタイの良い長身の男。身長は二メートルに近いだろうか。短髪の黒髪であるが、その瞳は宝石のごとく紅く輝いている。


「うむうむ。ようやくここまで増やせたぞ。それに俺の力も随分と回復したぞ」


 楽しそうに笑うのは、この場所を支配する存在・黒龍神であった。この地はかつて氷室の先祖が黒龍神を封じたことで神域として封じ続けてきた。


 しかし何らかの偶然か、あるいは第三者による物か、はたまた黒龍神の力か、その封印に綻びが生じた。


 結界自体は氷室が幾度もかけ直し、維持を続けていたのだが、先代当主と当代当主の代替わりのタイミングで不幸が起きた。


 それは綻びが生じたタイミングが、当主交代の時期であったのだが、約二十年前のその頃は氷室でお家騒動が起きて、大きな騒ぎになっていたのだ。


 そのため、普通であったならば気づけたタイミングを彼らは不覚に見落としたのだ。ただそれも僅か一日の事だったのだが、その一日が命取りになった。


 黒龍神はそのタイミングで、封印を完全に掌握し、あたかも封印が維持されているかのように偽装した。


 そこから彼は虎視眈々と頃合いを見計らい、復活と解放の時を狙った。


 ある程度、現在の情報をこの地に流れる龍脈を通して得ていた。龍脈に流れる霊力は一部に人間の霊力も吸収し、循環していた。そこから黒龍神は知識を得ていたのだ。


 とは言え、あくまでこの神域を中心にある程度の範囲の人間が死ぬ際に喪失する、ごく僅かな霊力が龍脈に吸収され、それを薄らと読み取っているだけなのだが、それでも現代の知識であるには変わりない。


 龍脈に流れる霊力を取り込み、彼は身体を癒やし、ついには行動に移した。


 龍脈の力をそのまますべて取り込むことは、黒龍神も出来ない。あくまでその一部を吸収し、回復する程度だ。だからこそ、彼は自らの食料となる人間を欲した。


 それが二十年前の惨劇。氷室家を絶望に追いやった虐殺劇。その際、当主候補だった主だった優秀な術者は死亡。命からがら生き残った者達は黒龍神に見逃された二流以下の術者だった。


 その中に現当主であり、氷華の父である男もいた。彼は術者として二流だったが、組織運営には長けていたので何とかなった。


 他家には神域の異変で、当主候補がその異変を解決したが、その結果皆死亡したと発表された。


「じゃらはははは! あの男も大いに役立ってくれたぞ」


 だがそれもこれも、黒龍神と取引したからに他ならない。自らの保身や様々な事情から、黒龍神が望む物を与えれば、暴れ回らずこの地にして大人しくしていると。その際の娯楽は女を捧げると言う事で承諾させた。


「だがそれもこれももう後、少しぞ」


 黒龍神はこの二十年、準備をしていたのだ。自らの力の回復とかつてを超える眷属を揃えた。その数は九九九体。中級が大半だが、上級が九十体、九体が最上級だ。


 現代において、一般的な退魔師では一対一で対処可能なのは良くても中級クラス程度まで。これだけの大軍勢、六家と言えども単独での対処はかなり厳しいであろう。


 それに……。


 寺院の中に三つの人影があった。その身から放たれる妖気は特級クラス。それを見ながら、黒龍神はどう猛な笑みを浮かべる。


「ここでの生活も飽きたぞ。そろそろ大暴れの時ぞ」


 彼は約束を守っていた。しかしそれも自分の準備が整うまでの間に過ぎない。


 彼は妖魔。その本性は暴虐。だから人との約束も本来は何とも思っていない。


「次の巫女が来たら、決行ぞ。人間共の泣き叫ぶ姿を早く見たいぞ。じゃらははははっっ!」


 黒龍神は殺戮の未来を想像し、声高らかに笑い続けるのだった。

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