第十話 蹂躙と罠


 土蜘蛛の群れに突っ込んだ真夜は、一匹に対し軽く振るった拳の一撃だけで粉砕していく。 

 土蜘蛛の群れに突っ込んだ真夜は、一匹に対し軽く振るった拳の一撃だけで粉砕していく。


 身体に纏わり付いてくる個体もいるが、霊符の防御で見えない膜のようなバリアが張られているため、身体には一切触れられず、真夜には全くダメージが通っていない。


「数が多くて面倒だな……」


 真夜の戦闘スタイルでは、多数の敵を複数同時に倒すことはできない。だからちまちまと一匹一匹潰していくのだが。


「ああっ!? なんなの君! 僕の土蜘蛛達を素手で殺すなんて!」

「先にそっちから潰すか」


 でかい奴を優先的に倒していたが、このままでは無駄に時間がかかると考え、先に二人から仕留めることにする。先に目立つ強い個体は仕留めた。残る土蜘蛛だけなら、二人だけでも十分だ。


 真夜は自分の中のスイッチを切り替える。足に霊力を収束し、一気に地面を蹴ると、先に狂司の方へと肉薄する。


「悪いがとっとと終わらせて、帰って寝たいんだよ。だからさっさと倒されろ」


 狂司の顔面に向かい拳を叩き込もうとする。


「うわっ!」

「ちっ、避けたか」

「君、僕の顔を狙ったね! なんて奴だ! この僕の顔を狙うなんて!」

「顔が嫌なのか? じゃあそこを狙ってやるよ」

「最悪だ! こいつ最低だよ! ねえねえ、八城ちゃん! 手伝ってよ! こいつ結構やるよ! 八城ちゃん、こういう相手好きでしょ!?」

「やかましいわ。こんな状況で愉しめるかい。でもまあ、おもろそうではあるな」


 慌てふためく狂司を尻目に、八城は不機嫌ながらも、どこかどう猛な笑みを浮かべている。


「来いよ。二人まとめて相手をしてやる」


 真夜はこの二人が強いことを理解していた。狂司への警戒をおろそかにせずに、八城へも意識を向ける。この二人を自分が引きつけておけば、朱音と渚への負担が減る。


 それにこの程度の相手など、十分に対応できる。


「ほらほら! 八城ちゃん! こう言ってくれてるんだからさ! それにこのままこいつを逃がしてもいいの!?」

「……ちっ、しゃあないな。できればサシで楽しみたいけど、今回は諦めたる」

「そうこなくっちゃ! じゃあ僕もちょっとばかり本気でやろうか」

「なんでもいいから、さっさとかかってこいよ」

「ふん、その威勢もどこまで持つかな? はぁっ!」


 狂司の身体が突如、膨れあがる。筋肉が肥大化しビリビリと着ていた服がちぎれ飛ぶ。首から下は鬼のような肉体になった。顔も人間の物から、牛の物へと変化していく。


 身長は二メートルよりも少し大きいくらいだろうか。しかし肥大化した筋肉はまるで鎧のようであり、頭には鋭利で巨大な角が生えている。


「人間じゃないとは思ったが、やっぱりか」

「ぐふふふ。そうだよ。僕はあの子がさっき倒した牛鬼の一種さ。でもね、僕の力を甘く見ないでよね」


 牛鬼の伝承は様々であり、鬼の顔に蜘蛛のような胴体という存在もいれば、目の前の個体のように、牛の頭に鬼の胴体という伝承もある。牛鬼というよりも、ミノタウロスという印象を真夜は受けた。


 狂司が身体に力を込めると、身体中から黒い妖気が吹き上がる。濛々と立ち上る黒い闇のような妖気は、見る者を恐怖させ、あるいは呑み込むほどの強さである。


 最上級どころか、特級の強さなのは間違いない。


「ちょっ! なんでこんなに強い奴が頻繁に現れるのよ!」

「一人では無理です! 私達もすぐに合流します!」


 朱音も渚も狂司の妖力の増大に焦燥を露わにする。朱音は真夜の強さを知っているが、二対一でさらに昼間からの消耗も考えれば、楽観できないと考えたのだ。


「こっちはいい! 二人は土蜘蛛に集中しろ! 俺の心配はいらねえよ!」

「へぇ! 言うじゃないか! 僕を甘く見てるのかな!?」


 狂司の巨体が一瞬ぶれたかと思うと、直後に真夜の後ろに姿を現した。


 豪腕を真夜の背中に向けて振り下ろすが、真夜の姿はそこには無かった。地面に叩きつけられる狂司の拳は、地面を陥没させるだけでなく、周囲にひび割れを起こした。


「あいつ、あの身体でなんて速さなの!?」

「それにあの攻撃、肉体の強さも並ではありません!」


 土蜘蛛の対処をしている二人も、妖気の強さだけでなく速度も攻撃力も高い狂司の強さに脅威を感じている。


「さあさあ! この攻撃を避け続けられるかな!?」


 連続して拳を振るう。拳圧だけでもかなりの物で、直撃すればひとたまりも無い。いや、かすっただけでも人間ならば致命傷を負いかねない。


 だが真夜はそれらをすべて見切り、回避する。霊符の防御もあるので、直撃しても防ぎきれるだろうが、霊力の消費は最小限に抑えたい。昼間の消耗とこの公園に張った結界でそれなりの霊力を消費している。


 まだまだ余裕はあるが、それでも無駄な消費は避けたいところだ。


「くっ、このぉっ! なんで当たらないんだ!?」

「これくらい、余裕で避けないとやっていけなかったからな」


 戦い方を教えてくれた武王の攻撃はこの比ではなかった。この男の攻撃は確かに速いが、それはただ速いだけで至極読みやすい。


「がっ!」

「甘いぜ」


 裏拳で顔面に拳を叩き込む。さらに連続して顔を殴打していく。


「こ、このぉぉぉぉぉっ! ぼ、僕の顔にぃぃぃぃッ!」

「牛顔で叫かれると五月蠅いんで、さっさと黙れよ」


 次いで攻撃を与えようとするが、その横合いから真夜に向けて攻撃が放たれた。真夜は身体を捻ることで回避する。その隙に狂司は後方に飛び退く。地面に突き刺さった物を真夜が確認すると、鋭利な氷柱(つらら)だった。


「悪いんやけど、俺も交ぜてもらうわ。一対一やと分が悪そうやからな」


 横やりを入れたのは、理人だった。彼が霊力を解放すると、ピキピキと理人の周囲が凍り付いていく。


「氷の使い手か」

「まあな。ほな、俺の霊術のお披露目と行こか」


 氷が周囲に急速に広がると、それらはまるで彫像のように姿を変えていく。彫像は精巧な狼の姿へと変化していった。


「氷狼(ひょうろう)の群れや。こいつらは獲物をどこまでも追うで? しっかり避けへんとすぐに食い散らかされるで!」


 氷の狼達が動く前に、理人が真夜に向かい駆けだした。


「そっちから来るのかよ!」

「そや! 俺は自分から動くのが好きなんや! こういう状況やなかったら、あんたとの戦いもたのしめたやろうけどな!」


 接近戦を挑んで理人は、そのまま真夜に向かい蹴りを放つ。当然受け止めるではなく回避を選択する真夜だが、理人はそのまま右腕を伸ばし、真夜に向けて数本のつららを作り出し、射出する。


「喰らうかよ」

「そやろな! でも俺だけに集中してたらあかんで!」


 氷の狼達が、回避した真夜に向かい飛びかかる。同時ではなく、タイミングをずらし波状攻撃を仕掛けてくる。一匹を避ければ、別の狼が死角から、それを避けても背後や頭上、足下など数の利を活かして真夜を襲う。


「今度は俺を忘れたらあかんで!」


 さらに理人も真夜への攻撃を続ける。拳に氷を纏っており、真夜が回避し地面を殴りつけると、拳が触れた箇所から周囲へと氷が広がっていく。


「なるほど。中々やるな」

「あんさんもな! 本気の俺とこの狼の連携を回避し続けられる奴は早々におらへん! しかも俺と同年代なんて皆無やったわ! でもな、避けてばっかりやと、俺は倒せへんで!」


 どこか楽しそうに語る理人。先ほどまでの不機嫌が嘘のように、戦いに集中している。


「よくも、よくも、この僕の顔を! 絶対にお前は僕が殺す!」


 顔を傷つけられ、逆上した狂司も再び真夜へと襲いかかった。


「ちっ!」


 理人は舌打ちして、後ろに下がる。頭に血が上った狂司の攻撃は見境無い。巻き添えを喰らってはご免だ。


「死ねぇっ!」

「嫌だね。つうか、そろそろいいか」

「ぐふっあっ!?」

「なっ!?」


 真夜は右手に霊力を集中すると、そのまま狂司の腹部に向かい叩きつける。ドンという衝撃と音ともに、狂司の鬼の肉体の一部が吹き飛んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」


 牛鬼とは言え痛みを感じる。人間とは違い、致命傷とまではいかなくても、放置しておいていい傷ではない。


 さらに回りの氷狼達も、次々に拳で粉砕していく。


「な、なんで人間の一撃ごときでこの僕の身体がぁっ!?」

「おいおい、鬼の身体を一発で吹き飛ばすなんて、あんた、本当に人間かいな。それに俺の氷狼は触れたもんを凍らせるんやで。なんで凍らへんのや」


 真夜の一撃に狂司は恐怖し、理人は冷や汗を流す。まさかこんな化け物がいるなんて、思いもしなかったからだ。


 真夜は別に難しいことはしていない。ただ彼の霊力が高いため、他者の霊力の影響を完全に無効化しているだけのことだ。


「喧嘩を売ってきたのはそっちだぞ? 逃がすつもりも無い。お前らはここで潰す」


 どこまでも冷めた目を向けながら、二人に告げる真夜に狂司も理人も絶望を抱くのだった。


 ◆◆◆



「す、凄い。あれが彼の力なのですか?」


 渚は土蜘蛛達を滅しながら、意識を真夜の方にも傾けていた。そして見た。真夜が牛鬼ともう一人の少年を同時に相手して圧倒している姿を。


「キチキチキチキチキチキチキチッッ!」

「っ!」


 無数の土蜘蛛が渚に向かい飛びかかってきた。真夜の方に注意が向きすぎ、あまりの光景を前に意識が散漫になっていたのが原因だ。昨日の失敗と何も変わらない。


 ゴォッ!


 だが渚に殺到する土蜘蛛達に向かい、炎が飛来した。


「こら! ぼさっとしない!」

「……申し訳ありません。集中力が散漫になっていました」


 朱音の叱責に渚が謝罪をする。彼女に助けられてしまった。自分の不甲斐なさに腹が立つ。


「なら集中しなさい。真夜は大丈夫よ。あいつに任されている土蜘蛛を先に対処するわよ。じゃないと手助けもできないんだから」


 全くの正論であった。朱音は槍を振るい、炎を撃ち出し次々に土蜘蛛達を蹴散らしていく。その姿は戦乙女にも思えるほどに凜々しく、美しかった。同性の自分から見ても惚れ惚れするぐらいであり、心強かった。


 同時に彼女に激しく嫉妬し、劣等感を抱いてしまった。


(……っ。余計なことを考えている暇はありません。今は土蜘蛛に集中しないと)


 刀を握る手に力を込める。それでも心のどこかで彼女に嫉妬する自分を追い出すことができなかった。


 今、考えるべきはそんなことではないというのに。


 自分は強いと思っていた。実際に、渚は同年代の退魔師の中では優秀な部類である。いや、年上や並の退魔師に比べても優秀で強いであろう。


 しかし彼女は霊器を発現できていない。また朱音に比べては弱い。真夜との差など、比べるのもおこがましい。


 悔しい。情けない。助けられてばかりだ。


 昔の、幼い頃の記憶が蘇る。泣いてばかりの自分の姿が。辛い日々の自分が。孤独だった頃の自分の姿が。


 その時に、手を差し伸べてくれた少年の姿が……。


(ダメです。今は目の前の相手に集中しなければ。こんなことでは、彼に合わせる顔がありません)


 雑念を振り払い、渚は土蜘蛛へ向き直り対処していく。刀で切り裂き、懐から霊符を数枚取り出すと、それらを投擲し、土蜘蛛へと貼り付ける。


「滅!」


 剣印を結び、霊力を解放する。小型の土蜘蛛であれば、これで十分に滅せる。


(星守君が大型の土蜘蛛を倒してくれているおかげで、こちらは随分と楽ですね。それに彼女も……)

「でりゃぁぁっ!」


 裂帛の気合いの下、朱音が横薙ぎに槍を振るうと、まとめて数匹の土蜘蛛が吹き飛ばされ、その身体を砕かれ炎に包まれていく。


 攻撃力、破壊力という点においては、火野一族は六家の中でトップクラスである。彼女の操る炎の霊術もすでに一流のどころか、超一流の威力と言っても過言ではない。


「……私も負けてられません」


 彼女には負けたくない。そんな思いで渚は刀を振るう。土蜘蛛の数はどんどん減っていく。もはや彼女達を害せる土蜘蛛はこの場にはいないだろう。


 狂司も理人も真夜を相手に劣勢に追い込まれ、もはや敗北も時間の問題だろう。


「ほんと、あいつやるわね。こっちの援護はいらなさそうじゃない」

「そうですね。本当に凄いです」


 朱音の独白に渚も相づちを打つ。大勢は決した。二人はそう思った。真夜も同じだろう。


 だがこの場の状況を変える一手は、結界の中ではなく外からもたらされた。


 ドォォォンッという轟音と共に激しい衝撃が結界内を襲う。


「な、なに!?」

「これは!?」


 見れば真夜の張った結界が揺らいでいる。それだけではない。結界の一部が破壊された。


「おいおい。千客万来だな」


 真夜は呆れたように呟くと結界が破壊された方を見る。


 そこには黒いスーツの白髪の男と、白いスーツの銀髪の男がいた。


「そんな! あの結界を破壊したって言うの!?」

「それだけではありません! 結界の外側にまた別の結界を展開しています!」


 朱音と渚は結界の外を見ると、そこには黒い幕のような物が見えた。別の結界が展開され、真夜の結界を覆うようにドーム状に展開していた。


「念のため、様子を見に来て正解だった。よもやこれほどの術者がいたとは。見た目通りの年齢だとすれば、大したものだ」


 感心したように白髪の男――六道幻那りくどう げんなはゆっくりと強者のような悠然とした歩みで、公園の中を進むと真夜に対して称賛の言葉を贈る。


 その距離はおよそ五メートル。幻那の後ろには銀髪の男――銀牙が付き従い、一歩下がって控えている。


「この結界の破壊にも骨が折れた。私でなければ破壊は困難であっただろう」


 ビリビリと刺すような妖気が男から放たれる。妖気が周囲の空気を震わせ、ねっとりとした不気味な風が辺りを吹き抜けていく。


「な、何よあいつ……」

「あ、ありえません。なんなんですか、この妖気は……」


 朱音も渚も幻那を見てからというもの、身体の震えが止まらなかった。身体ではない。まるで魂に直接影響を与えるかのような感覚だ。同じように狂司も理人も身体が微かに震えている。


 特級? 違う。この妖気はそんな範疇には収まらない。一流の退魔師どころか超一流の退魔師でさえも、単独では決して倒すことができないと言われている超級妖魔に匹敵するのではないか。その中でも上位に位置する強さなのではないのかとさえ感じる。


「む、無理よあんな奴……。いくらなんでも勝てるわけない」


 あの朱音でさえも絶望し、顔を青ざめさせている。真夜も自分の結界を破壊して侵入してくる相手がいるとは予想外だった。


(こいつは少なくとも、こいつらよりも圧倒的に強い。下手すりゃ超級クラスとか、いつからこの街は魔窟になったんだよ)


 ぼやくしか無い。昨日まで異世界で魔王を相手にして、帰ってきたと思ったらたった一日で以前の自分ならば、確実に百回以上殺されているであろう妖魔やそれに匹敵する化け物達と遭遇せねばならないのだ。


 本当に泣きたくなってくる。


「あんたがこいつらの親玉か」

「その通りだ。自己紹介をしたいところだが、下手にこちらの情報を与えるような真似はしたくはないので、匿名希望と名乗らせてもらおうかな」

「匿名希望さんね。中々どうして、厄介だな」

「それはこちらの台詞だ。この結界を展開したのはお前か? だとすれば本当に大したものだ。これほどの結界を一人で展開できる退魔師がどれほどいるか。称賛に値する」

「それはどうも。けどわざわざそんなことを言いに来たのか? だとすればあんたも暇だな」


 真夜の挑発に、幻那の後ろにいた銀牙が青筋を浮かべ真夜を睨みつける。常人ならそれだけで失禁どころか、精神を破壊されるほどの威圧。だが真夜はそれを受け流す。


 その余裕の姿に銀牙は今にも飛びかかろうとするが、幻那が手で制した。


「よせ。お前でもおそらくはこやつには勝てん」

「そのようなことはございません。必ずやこの私が、この無礼者の喉を食い破ってご覧に入れます」

「ふっ、お前のそういう所は嫌いではないが、ここは私に任せよ」

「……仰せのままに」


 仰々しく頭を下げると銀牙は一歩後ろに下がった。それに満足した幻那は再び真夜に向き直る。


「部下が失礼をした。それとそこの二人も随分と可愛がってくれたようだ」

「別に構わないのと、後ろの二人は中々強かったぞ。で、次はあんたが俺とやるのか?」

「そうだな。それも一興だが、あいにくと私にはやるべきことがある。その大事を前に無駄な消耗は避けたいところだ。その二人も私にとっては必要な人材だ。ここで失うわけにはいかん」


 幻那は目の前の少年が自らの障害になることを見抜いた。狂司と理人の二人を相手に五体満足でおり、さらには牛鬼でも上位の強さを持つ狂司に重傷を負わせている。


 さらに展開されていた結界。幻那をして、本気を出さなければ突破できないほどの強度。


 戦えば自分もただでは済まない。負けるとも思わないが、簡単に勝てるとも思えない。そんな不気味さを幻那は真夜から感じた。


「そうか。けど俺もあんたらを逃がすつもりは無い。逃がしたら、余計に厄介な事になりそうだからな」

「ふっ、それはあながち間違っていないだろう。念のために聞いておこう。ここでお互いに手打ちにして、二度と関わらないと約束し、そのままお互いこの場を去るという案はどうかな?」

「悪くはないが、あの二人とかあんたの後ろの奴が納得しないだろ? それに間接的に関わる可能性もあるからな。後顧の憂いは早めに断っておくのが賢明だろ?」

「一理ある。このような出会いでなければ、案外気が合ったかもしれんな」


 どこか気心の知れた友人のように、しかし不敵に笑い合う二人。

 その姿に二人以外は、なんとも言えない空気に支配される。

 だが……。


「もう一つだけ聞いておこう。私の配下になるつもりはないか? いや、配下でなくとも良い。私と組むつもりは無いか? あくまで関係は対等だ。私の悲願を達成するのに協力してくれれば、望む物を与えよう」


 幻那は手を差し出し、真夜に仲間になるように促す。


 しかし真夜の答えは決まっている。


「あいにくとお断りだ。たとえ世界の半分をくれてやると言われても、対等の関係と言われても、俺のポリシーに反する連中と手を組むつもりは無い」


 狂司を見れば一目瞭然だ。こんな奴が仲間にいる集団の一員になるつもりは無い。


「そうか。実に残念だ」


 幻那は実に残念そうな顔をするが、すぐに表情を引き締める。


「では始めようか。とは言っても、私はお前とまともに戦うつもりは無いがな」

「何?」

「こうしようと思う」


 瞬間、二人を中心に巨大な魔法陣が地面に出現した。


「これは!?」

「ふっ、私の勝ちだ」


 勝ち誇った笑みを浮かべる幻那と困惑する真夜の姿が、一瞬にしてこの場から消え失せた。同時に魔法陣も消失した。静寂が辺りを包み込むのだった。


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