3.クイズクラブ・イン・ファンタジア

「――起きて!」


 誰かに身体を揺さぶられている。

 なんだかぽかぽか暖かい。お日様だろうか。このままずっと寝ていたいな~と思ってしまう。


「カイリくん、起きて!」

「起きろって!」


 そういえば、オレなんで寝てるんだっけ。

 確か学校にいたはずで――もしかして授業中!


「はっ、ごめんなさい!」


 慌てて起き上がった。

 授業中に寝るなんて、先生に怒られちゃう――。


「……え?」


 だけど、そこは教室じゃなかった。


「どこだ、ここ……」


 目の前に広がるのは一面の野原。

 辺りには綺麗な花が咲いていて、風がそよそよ吹いている。


「私たちも今起きたんだけど……」

「……おい、古本。ここはどこなんだ」


 レイとトウヤも困惑しているようだった。

 ここに連れてきた張本人を探せば、三人の目の前でにやにやと笑っているではないか。


《ここはファンタジア! 異世界です!》

「異世界!?」


 三人の声が重なり合う。


「それってアニメとかゲームで良く見るヤツ!? 転生したら、異世界に……みたいな!」

《その通り! カイリくんは物わかりがよくて良いですね~!》


 喜ぶカイリとゾナが意気投合している。


「……呑気に盛り上がってるばあいでもなさそうだぞ」


 かさり、と草を踏む音。

 トウヤの視線の先には、犬のような動物が三匹いた。

 毛は黒く、瞳は真っ赤。口元には牙が見え、こちらを威嚇しているようにも見える。


『ぐるるるるるるるるっ』

「なんか、襲いかかってきそうな雰囲気……だよね」

「レイ、下がって」


 トウヤがレイを庇うように前に出る。


《あれはモンスター。この世界にいる危険な存在です》

「異世界にモンスター! 完全にゲームの世界じゃん! なに、これ剣とか使って倒すのか!?」

『がるるるる!』


 カイリが声を上げた瞬間、犬型モンスターが襲いかかってきた!


「うわっ!」

「ゲームじゃないんだぞ! 襲われたらひとたまりもないんだぞ!」


 カイリはなんとかモンスターの攻撃をかわす。

 三人は丸腰だ。相手は三匹。ぐるりと敵に囲まれてしまった。


「くそっ、どうするんだよ古本!」

《モンスターを倒すには武器が必要ですね――えーと……これがいいな。よいしょっと》


 するとパラパラと本がめくれていき、また輝き出す。


「これ……」


 三人の目の前に現れたのは、剣・杖・銃の三つの武器。


《さあ、どうぞ。武器をお取り下さい。それであのモンスター達を倒すのです!》

「俺たちが倒すのかよ!」

「いいじゃんいいじゃん! じゃあ、オレ剣にしよーっと!」


 カイリは剣、レイは杖、トウヤが銃を手にした。


「よっしゃ、行くぜ!」

「ちょっと、カイリくん! そんないきなり……!」


 武器を手にした瞬間、カイリは敵に向かって剣を振るう。


「え……!」


 だが、攻撃は当たらない。

 剣がするりと、モンスターの身体をすり抜けた。


「どういうことだよ! 攻撃当たんないじゃん!」

《普通に攻撃しても当たるわけないじゃないですか》


 さも当然のようにゾナは答える。全員から「先にいえよ」と睨まれ、流石の彼も焦ったようだ。


《……まずは敵のことをよく観察して下さい》

「あのモンスターの背中になにか書いてあるよ?」


 レイの言葉に全員が敵をよく見た。

 確かに、その背中や首に文字が書かれている。


『宇宙』『コンラン』『操縦』

《この世界では知恵が力! 全てのモンスターはナゾに囚われています!》

「なるほどな……問題を解いたら敵が倒せるってことか」

《そのとおり! この場合は、書かれている文字を『読む』もしくは『書く』ことでしょう。恐らく皆さんがお使いの言語になっているかと思うので、解けるはずです》

「そういうところは親切なんだな…」


 トウヤは苦笑を浮かべ、銃を構えた。


「文字を読めばいいんだろ? それなら……『ソウジュウ操縦』」


 そして引き金を引くと、どおんと大きな音が鳴った。

 放たれた弾はモンスターに当たり、一体が煙のように消えていった。


「……よし!」

《トウヤ様、お見事!》


 褒められたトウヤは得意げだ。


「なるほど。トウヤ君みたいにやればいいんだね……それなら私は――」


 続いてレイも杖を構える。


混乱コンラン――だね」


 空中に文字を書くように杖を振るう。

 すると、杖から光の弾のような魔法が放たれ、一直線に敵に飛んでいった。


「わっ! 魔法が使えたよ!!」


 これで残す一体。

 ドキドキしながら、カイリは剣を握った。


「オレ……漢字苦手なんだよなあ」


 困っていた。

 カイリは勉強は得意ではない。特に漢字はテストでいつも点数が低い。


(でも、二人に負けてられない)


 ぎゅっと剣を握り締める。


「間違っても大丈夫だ」

「うん。私たちもサポートするから!」

「よ、よし……行くぞ!」


 そして剣を振りかぶり、敵に向かって走って行く。


「くらえ……! 『ウチュウ宇宙』!」


 見事一刀両断!

 三体の敵は全て消えていった。


《素晴らしい! はじめてで見事モンスターを退治してしまうとは!》


 大興奮のゾナ。

 彼がモンスターがいた場所に移動すると、そこに小さくて綺麗な石が転がっていた。


「この石は?」

「魔法の石です! 敵を倒せばそれが残ります。自分を強くしたり、換金したりできるんですよ」

「つまり……ナゾを解けば解くほど強くなるってことか?」

《その通り!》

「私たちにぴったりの世界じゃない!」


 ただのクイズ本に飽き飽きしていた三人の目が輝いていく。

 この広大な世界に、沢山のナゾが落ちているということだ。


「でさ、なんでゾナはオレたちをここに呼んだんだ?」

《うふふふふふっ》


 カイリに尋ねられたゾナはにやにやと笑った。

《お三方にはこのファンタジアの世界を救っていただきたいのです》


「世界を救う?」


 そうして移動しはじめたゾナについていくと、目の前は崖になっていた。


「――え」


 そこから下を見下ろして、三人は目を丸くする。

 一見美しい世界。だが、ところどころ泥のような黒いモヤが覆っていた。


《この世界は魔王に乗っ取られています。彼が操るモンスターたちを倒し、このファンタジアに平和を取り戻して下さい》


 異世界の命運が12才の少年少女に託された。




――クイズクラブ・イン・ファンタジア――

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クイズクラブ・イン・ファンタジア 松田詩依 @Shiyori_Matsuda

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